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危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
26/59

二人の初めてのお遣い




    6月19日、火曜日。

    幸磨と月冴は朝起きて、1階のリビングへ行くと、そこには愛美奏と十六夜がソファーに

   座ってテレビを見ていた。

    「おはよう」

    二人に気づいて声を掛けたのは愛美奏。

    十六夜はその後に会釈する。

    「おはよう…。二人共、早いね」

    昨日の今日だが、愛美奏と十六夜はこの家に一緒に暮らすことになった。

    「二人の生活に合せたのよ」

    「何もそこまでしなくてもいいのに」

    「私が勝手にやってることだから気にしなくていいわよ」

    「あっ…そう」

    姉の言葉に弟はもう何も言わなかった。

    子機が作った朝食を一緒に食べて、幸磨と月冴は学校へ出かける準備をした。

    愛美奏達が駅までついて行こうかと尋ねたが、幸磨に断固拒否されてしまったので断念したの

   だった。

    「お母さん、行ってきまーす」

    「行ってきます」

    『行ってらっしゃい』

    子機が二人を玄関まで見送り、愛美奏と十六夜がいるリビングへと戻る。

    『さてと洗い物して、掃除しなくちゃ』

    そう言うと、ちらっとテレビを見ている二人組を見る。

    視線に気づいた?というより、わざとらしい呟きに愛美奏が「何?」と尋ねる。

    『暇なら手伝ってちょうだい』

    「何すればいいの?」

    『スーパーで買い物をお願い』

    子機は買い物メモとお金が入った財布、買い物袋を愛美奏に渡す。

    「…分かったわ」

    子機は彼女の返事を聞くと、『じゃあ、私は洗い物するから。お昼までには帰ってきてね』

   と言って台所へ向かう。

    「愛美奏、大丈夫なの?」

    十六夜は心配そうに尋ねる。

    彼が心配しているのは、外に出かけても大丈夫なのかということ。

    平日で朝早い時間帯に10代の若い男女が出歩いていると、不審に思われてしまう。

    しかし、それは愛美奏にとってはいらぬ心配だった。

    「大丈夫よ。それより買い物へ出かけるわよ」

    愛美奏は十六夜を連れて、早速買い物へ出かけて行ったのだった。

    

    力を使えば自動車を使わなくてもあっという間に辿りつくことが出来る。

    しかし、二人は敢えて徒歩でスーパーへ向かう。

    「道分かるの?」

    今更とも思ったが、さっさと道を歩く愛美奏に尋ねる十六夜。

    「ええ。子機から情報をもらったから」   

    ただ単に『買い物をお願い』と言われて必要な物を渡されただけに見えたが、どうやらあの

   時に必要な情報を子機から入手していたらしい。だがそれなら買い物メモはいらないのでは?

   と思ってしまうが、それはちゃんとした理由があってのこと。

    「私と十六夜にとっては初めてのお遣いになるわね」

    「はじめて?」

    「そう。私、親からお遣いなんて頼まれたこと一度もなかったの。だから、これは私にとって

   初めてのお遣いなの」

    「愛美奏、楽しそうだね」

    「楽しい?…そうかしら」

    「なんだか、嬉しそうに見えたんだけど、違った?」

    「…さぁ。分からないわね」 

    少し自分の中で何かを考えてみたが、途中で考えるのをやめて十六夜にそう答える愛美奏で

   あった。

    


    夕方になり、幸磨と月冴が学校から帰って来た。

    「ただいま」と扉を開けると、出迎えてくれたのは子機ではなく、エプロンをつけた愛美奏

   だった。

    「おかえりなさい」

    「姉ちゃん?どうしたの、その格好」

    見慣れない姉のエプロン姿に動揺する幸磨。

    「子機に暇なら手伝いなさいって言われたから、ご飯作るの手伝ってたの」

    「へぇ~……なんかすごいものが見れそうだね~こう君」

    月冴は何かゲテ物料理が出てくることを想像していた。

    だがしかし、残念なことに彼の予想は大きく外れることとなる。

    台所を除けば、十六夜が子機の指示で料理を作っていたし、出来上がった料理を子機が

   テーブルへと綺麗に並べていて…。

    「すごい!今夜はごちそうばっかりだっ!」

    幸磨はテンションが上がって大喜び。

    しかし、その横では月冴が穴があったら今すぐ入りたい気分に陥っていた。

    だがそれはゲテ物料理と言ってしまった先程の自分への後悔ではなく、料理の方でだ。

    悔しいが彼が本気を出して作っても、今ある料理のレベルには程遠いと判断。勝負している

   わけでもないのに、なぜか敗北感が芽生えた結果だった。

    『今日は二人の歓迎パーティーでごちそうを作ったのよ』

    「いろいろこき使われたけどね」

    『でも、そのおかげでいっぱい作れたわ。ありがとね』

    「姉ちゃん、買い物行ったの!?大丈夫だった?」

    「大丈夫よ。十六夜も一緒だったから」

    「こう君も俺と一緒に買い物行ったよね~」

    「まぁ…うん」

    月冴の不意打ちに幸磨は少し恥ずかしそうに下を向く。

    別に恥ずかしいことではないのだが…。

    『さぁ、冷めないうちに皆で食べましょう』

    「賛成!賛成!」

    「こう君、何かいつもと違うね?」

    「エビフライは幸磨の好物なのよ。私もだけど」

    姉弟揃って好きな物は同じとは仲睦まじい?

    だが、エビフライの他にも二人は好きな物が被っていて、それも今回のごちそうに入っていた。

    どうやら、子機は姉弟の好物をメインで作ったらしい。

    「月冴君、早く取らないと僕全部食べちゃうよ」

    「えっ、ちょっと食べるの早すぎない?」

    「幸磨、今日は私達の歓迎パーティーなのよ。少しは遠慮したらどうなの?」

    「姉ちゃん……そんなこと言って、さっき僕が春巻き食べたこと妬んでるんでしょ?」

    「いいえ」

    「嘘」

    「いいえ」

    「嘘」

    「いいえ」

    「嘘」

    「いいえ」 

    「嘘っ!」

    だんだん感情がエスカレートする直前、子機が『はいはい、そこまでっ!』と仲裁の声を

   あげる。

    『春巻きがなくなってもまだおかずは残ってるでしょ?幸磨、好物ばかりだからって一人で

    ばくばく食べるのはやめなさい』

    「…はーい」

    『全く…』

    子機はそう言うと溜め息をついた。

    けれど、二人がこうやって同じテーブルでご飯を食べることをとても嬉しく思うのだった。

    

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