大切な話
幸磨と月冴が学校から帰って来ると、愛美奏と十六夜が待っていた。
「おかえりなさい。待ってたのよ」
「姉ちゃん…ただいま」
実の姉を前にどこかぎこちない幸磨。
「マリアちゃんなら心配いらないわ。ちゃんと聴取を受けに行ったから」
「そう…。で、なんでうちにいるの?」
「幸磨に大切な話があるのよ」
「僕に?何の話?」
「それはご飯食べた後にするわ。今、子機が私達の分追加で作ってもらってるから」
「…姉ちゃん、あの人に会ったの?」
「いいえ」
「そう」
「でも、柊先生と愛咲実ちゃんには会ったわよ」
「姉さんにっ!?」
幸磨は愛咲実の名前を聞いて、思わず声を上げる。
「二人共、全然変わってなかったわ」
「姉さん、僕のこと何か言ってた?」
「いいえ。特に何も言ってなかったわよ」
愛咲実はそれよりも十六夜のことが気になって仕方がなかったようで、幸磨のことはすっかり
忘れていた。十六夜は彼女の隣で話を聞くだけで、特に何も言うことはなかった。
夕飯を済ませると、愛美奏は大切な話をするために幸磨を外へと連れ出した。
子機から『遠くへは行かないで』と言われたが、愛美奏は自分の力を使って家から遠い希愛
中学校中庭へと移動する。
「姉ちゃん、遠くへ行くなって言われただろっ!」
「大丈夫よ。すぐに戻れば問題はないわ」
姉の言葉に幸磨は頭を掻いた。
何の話か知らないが、本当に彼女が何を考えているのか分からない。
そう思った際、姉がこう言い始める。
「幸磨。私、清合町に住むことにしたわ」
「えっ!?」
突然そう言われて、幸磨は声を上げる。
「柊先生にお願いしたの。弟と一緒に暮らせるようにしたいって」
「ちょっと待って。勝手に決めないでくれよっ!」
「あと十六夜も住むからよろしくね」
「話聞けよっ!」
自分の言葉に耳を貸さない姉にイライラが募る幸磨。
だが、これを気に彼は思っていた疑問をぶつける。
「…その、前から気になってたんだけど。十六夜さん、あの人いったい何なの?姉ちゃんの
彼氏?」
幸磨も愛咲実と同じようなことを尋ねてきた。
愛咲実が使った言葉は『番い』だったが、『彼氏』と同じようなものだ。
歳の近い男女が一緒にいれば、そう考えざるもないが、愛美奏はそう考えない。
なぜなら、そう考える必要が全くないから。
まぁ、それはさておき、愛美奏は可愛い弟の疑問にさっと答える。
「愛咲実ちゃんにも言ったけど、そういうのじゃないわ。だって十六夜は人間じゃないもの」
「えっ…?」
人間…じゃない?
一瞬、自分の聞き間違いじゃないかと、幸磨は思った。
「十六夜は人間じゃないわよ」
しかし、二度も言われてしまえば、信じざるを得なかった。
十六夜が人間ではないと知り、幸磨は頭は真っ白になる。
知り合って間もない彼だが、言われてみるとそうなんじゃないかと思われる場面がいくつか
思い浮かべる。それに姉の側にいるという時点で普通の人間ではないという感じが伝わっていた。
「十六夜っていうのは、私が付けた名前よ。本人が名前を付けろってうるさかったから」
「姉ちゃんが名前を?」
幸磨は無意識に犬や猫に名前を付ける飼い主を思い浮かべてしまう。
「十六夜については、私でも良く分からない。いつの間にか私の近くにいて、私からは離れよ
うとしない。とにかく不思議な存在としか、現時点では言いようがない」
「姉ちゃんは十六夜さんをどうするつもりなの?」
「どうにもしない。けど、興味はあるわ」
自分の力では把握できない存在。
それが自分の側にいて、全く離れようとはしない。
これは二度寝の眠りにつくよりも、毎日普通の人間と同じように決まった時間に起きて、
近くで彼の行動を観察する方が、退屈ではないと愛美奏は考える。
はっきり言えば、小学生の自由研究のようなものだ。
「まぁ、そういうことだから。これからよろしくね、幸磨」
「…」
あまり納得がいかなかったが、それ以上追究はせず、幸磨は愛美奏の力で家へと戻ったのだ
った。




