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危機回避・未来  作者: 中野翔
僕に危機回避能力は存在しない
24/59

解決後



    

    6月18日、午前8時56分。

    

    宇治川マリアは、特殊危険超能力<モーニングスター>を使い、自分が関わった気に入らない

   人物を事故・誘拐殺人事件として引き起こし、殺害したことを認めて幸磨・月冴・炎樹の三人に

  付き添われて警察へと自首。未成年超能力者ということもあり、彼女の身柄は特殊部隊本部により

  詳しくより慎重に取り調べが行われることになり、愛美奏と十六夜が用事のついでに彼女と同行

  するのであった。

   

    本部に到着するとマリア一人が隊服を着た複数の大人達に連れて行かれ、愛美奏と十六夜は

   眼鏡を掛けた科学者と共に保護棟と呼ばれる建物へと入って行った。

    保護棟は、家庭の事情で育てられられなくなった未成年の子供達が生活する保護施設である。

   施設は数年前にある支援者からの寄付金を元手に大規模工事を行い、現在は関係者以外の入出

   を禁止している。ただし、責任者の許可証を得た者は一時的に入出が可能となる。


    「いやぁ~これでも随分きれいになったんだが…まぁ、その辺にかけてくれ」

    柊瑞生の研究室に通された二人の目に飛び込んできたのは、なんらかの資料プリント

   とパソコンが置かれている机。机の下には全開に開かれた工具箱に可愛いくまのぬいぐるみ。

    立派なソファーがあるものの、大型犬にやられたような大きな穴が空かれていて、それを隠す

   ために可愛い柄の布で補修されていた。これできれいと言えるのか?と疑問に思うが、愛美奏と

   十六夜は全く気にすることなく、穴あきソファーへと座り込む。

    「今回の件、愛美奏がいなかったら犯人…いや、彼女を助けることは出来なかった。俺が言う

   のも何だが…本当に助かったよ」

    犯人逮捕に協力したお礼を言って柊先生は軽く頭を下げる。

    『犯人逮捕』と言いかけてすぐに言い直したのは、幸磨達の気持ちを考えてのことだった。

    「私は特に何もしてませんよ。彼女の心を変えたのは弟達ですから」

    「まぁ、そうなんだが…愛美奏がいなきゃ、事件は迷宮入り。未解決事件のままだった。

   愛美奏がいなきゃ、実現できなかっただろ?幸磨がもっと危険な目に遭う前に…なるべく傷つ

   かないようにするためにさ」

    「…えぇ。そのとおりですよ」

    愛美奏の言葉に柊先生はにこっと笑みを浮かべる。

    それを見て彼女は、『白々しい』と心の中で思った直後、研究室の扉をノックする音が響く。

    「どうぞ」

    柊先生が扉に向かって叫ぶと、扉がゆっくりと開かれる。

    「先生、愛美奏ちゃん、お茶とお菓子を持ってきたわよ」

    「…愛咲実あさみちゃん」

    「久し振りね、愛美奏ちゃん。20年ぶりかしら?」

    テーブルにお茶とお菓子を置いた後、愛咲実は冗談っぽく尋ねる。

    「そんなに寝てない」

    「あら、ごめんなさい。間違えちゃったわ」

    宮木みやぎ愛咲実あさみは、愛美奏と容姿がそっくりだが姉妹ではなく、従姉妹。

    愛美奏の母親の双子の姉が残した子供で、現在は保護棟で柊先生の助手として働いている。

    「ねぇ、私大人になった?」

    愛咲実は十六夜をどかして、愛美奏の隣に堂々と座り込む。

    そして、くっつきすぎるほどに身体を密着させてくる。

    「そうね。見ないうちにまた大きくなったわね………」

    『胸が』とは言わなかった。あえて…。

    「愛美奏ちゃんも、見ないうちに大きくなったわね。てっきり成長止まったままかと思って

   たけど、そうでもなかったみたいね」

    愛咲実はなんだか残念そうな顔をする。

    「私を誰だと思っているのよ。あの時のままでいられるはずないでしょ?眠っても時間は

    進み続けるんだから、止まったら大変よ」

    時間を止めることなど、彼女にとっては簡単…とはいかない。

    少しの時間を止めるよりも難易度が高く、その分の代償も安くないので、身体の成長は本人

   の意思と関係なく進んでいく。しかし、覚悟があれば身体の成長を促進することも、逆に幼児

   化させることも可能であるが、今の愛美奏は実年齢相当の背に少しながら力を使ってズルをして

   いる。女性としては誰でも夢に思うズルを……。

    「ねぇ、愛美奏ちゃん」

    「何?」

    「さっきから気になってたんだけど…これ、何なの?」

    ここでようやく愛咲実が十六夜に視線を向けた。

    まるで邪魔者を見るかのような冷たい目で……。

    「まさかとは思うけど…つがいじゃないわよね?」

    「何言ってるの。そんなわけないでしょ」

    愛美奏が否定するも、愛咲実は十六夜をじっと睨みつける。

    そして、高いヒールで十六夜の左腕をブスブスと突き刺した。

    「愛咲実ちゃん。やめて」

    「むかつくのよ。こいつの顔見てると」

    愛咲実は注意されても十六夜の攻撃をやめなかった。

    十六夜は何も言わず、ただ黙ってされるがまま。

    それがまた気に入らなかったのか、愛咲実はようやくヒールを彼の腕から離す。

    「愛美奏ちゃんに手を出したら、貴方…死ぬわよ」

    愛咲実は十六夜にそう言葉を告げると、研究室から出て行ってしまった。

    少し場が沈黙した後で、柊先生が愛咲実の代わりに謝罪するが、十六夜は「気にしてない」と

   気持ちを伝えるのだった。


    「それで…愛美奏はこれからどうするつもりだ?」

    柊先生は愛美奏にこれからのことについて尋ねた。

    それは、学校や生活のことではなく、彼女自身がどう過ごすのかというあまりにも現実で重い

   質問であった。

    「自分がやりたいように残りの人生を過ごすつもりです。眠って時間潰しをするのにも、退屈

   ですから」

    「そうか…」

    「そこで先生にお願いがあるんですが、聞いてもらえますか?」

    「あぁ、いいよ。何でも言ってくれ」

    


    こうして、愛美奏は用事を済ませて、十六夜と共に特殊部隊本部を後にしたのだった。

    

    

     

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