↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は怪盗とワルツを踊る  作者: 洸夜 真琥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/11

2話

数日後の夜。

セレステは鏡の前に立っていた。


今夜はボルジア家で催される舞踏会。公爵家の令嬢として出席しないわけにはいかない。

冬の夜空のような深い色のドレスは、重くならないようにレースが上手く組み合わせてあり、セレステの白い肌と凛とした顔を引き立たせる。けれど同時に、冷たさも感じさせた。


「行きましょう……」



*



ボルジア家の会場には、すでに大勢の貴族が集まっていた。

父と一緒に数人に挨拶をした後、父とは離れて窓際へ向かおうとした時だった。


「セレステ」


振り向くと、ユースが立っていた。珍しい。最近は自分から近づいてくることなど殆どなかったのに。


「一応、婚約者なのだから。一曲目くらいは俺がエスコートする」


断る理由もない。セレステは黙って頷いた。

ユースの手を取り、ホールの中央へ出る。周囲の視線が集まるのが分かった。氷の令嬢と、その婚約者。どんな顔で見ているのだろう。


曲が始まる。ステップは正確で、ユースのリードも悪くはない。

けれど——ただ、それだけだった。

形だけの笑顔。形だけの距離。手を取り合っているのに、何も伝わってこない。


曲の途中、ユースの視線がふと会場の隅へ流れた。

その先に、アイリーンがこちらを見ているのが分かった。


——ああ、そういうこと。


一曲が終わると、ユースはすぐにセレステの手を離した。


「……では、失礼する」

「ええ。ありがとうございました」


去っていくユースの背中を見送ることもせず、セレステは窓際へ向かった。

いつもの場所。いつもの過ごし方。誰にも誘われず、誰にも話しかけられない時間。


「……誘われないのも気を遣わないから、良いわね」


暫くホールを眺めていたが、今日は外の空気を吸いたくなって、気づくと庭に出ていた。

少しだけ会場から離れると、微かに音楽が聞こえてくるだけで、人のざわめきは届かなくなる。


庭の奥にある噴水まで来ると、まるで一人の世界になったようだった。

セレステは噴水の縁に腰をかけて、水面に映る月をそっと指先で撫でてみる。


触れた途端に月が揺れて、砕けて、また静かに戻る。


——掴めない。


暫くそうしていると、不意に声をかけられた。


「月は取れましたか?」


声の方を見ると、茂みの向こうから仮面を付けた黒髪の男が現れた。

白い仮面。黒いマント。見知らぬ男。

なのに——不思議と、警戒心が湧かなかった。


「いいえ、月は遠すぎて掴めませんでした」


いつもなら、こんな答えは返さないだろうと、自分でも思った。


「いつかきっと、貴女の為の月が手に入りますよ」


そんな事を言われるとは思っていなかった。

セレステは男をじっと見つめる。屋敷の方から、微かにワルツの旋律が流れてきた。


「一曲、お願いできますか」


男が手を差し出した。

セレステは——無意識に、その手に自分の手を重ねていた。


「……はい」


二人は踊り出す。


セレステのドレスがふわりと舞い、月明かりが銀の髪を照らして輝かせる。男のマントが翻る。

初めて会ったはずなのに、二人の呼吸はそれが当然であるかのように合っていた。


「貴方は月のようね。突然現れたのに、ずっと前からそこにいたような気がするわ」


男がフッと笑みを浮かべた。仮面越しでも分かるほど、口元が優しく緩んでいる。

セレステをくるりとターンさせて、また引き寄せる。


「今日、貴女の微笑みが見れるとは思わなかった」


——言われて初めて気がついた。私の顔は、微笑んでいたらしい。


白い仮面の奥の瞳を覗き込もうと顔を上げると、男もまた真っ直ぐこちらを見つめていた。


月の光の中で、会ったばかりの仮面の男とワルツを踊っている。

不思議でたまらなく、現実を忘れさせていく。


このまま、この時間をずっと過ごしていたい。

誰かと話して心地いいと、初めて楽しいと——そう思った。


曲が終わった時、お互い手を離せなくなっていた。


「また、月夜にワルツを踊りましょう」


男がセレステの手にそっと口付けを落とした。

それから、セレステの髪飾りを一つ取ると、代わりに自分の胸元から銀の月のブローチを外して、セレステの髪にそっと飾った。


「今日の出会いに」

「……ええ」


男が去っていく姿を見送る。

セレステの頬は、ほんのりと赤くなっていた。


髪に触れると、冷たい銀の感触がある。

月のブローチ。今夜の証。


——夢ではない、と思いたかった。



*



セレステと別れた男は、先ほどとは違う屋敷の屋根の上にいた。


「悪役令嬢ね。誰が言い出したんだか——悪役どころか、あれは月の女神セレーネだろう」


彼女の姿を思い浮かべる。

水面の月をそっと撫でていた、あの横顔。


「『月は取れましたか』……なんて、自分に向けて言った言葉だったのかもな」


面白そうにクスッと笑うと、マントを一つ靡かせて夜の街へ消えていった。

よろしければ是非、ブックマーク、評価をお願いいたします!


他にも、投稿しておりますので、ちらも読んで頂ければ幸いです♪


感想も頂ければ幸いです。

これからもどうぞ宜しくお願いします。


最後まで読んでいただきありがとうございました!

少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。