10話
「「え」」
アルバート殿下の一言に、ユース様とアイリーン様が驚きの声をあげる。と言っても二人の驚きは別々の事にだろうけど。
「君達二人のことは学園でも噂だったからね、ちょっと調べさせてもらったよ。ユース侯爵令息、君よく婿入り予定なのにセレステ嬢にそこまで上からものを言えるんだい?しかも婚約破棄とは、ああ!もしかして、自分今後の生計を立てる見込みでもあるのかい?」
「え?婿入り?何を言ってるんですか?俺は卒業後、侯爵家を継ぐんですよ?」
「はは!おかしな事を、セレステ嬢は公爵家の長女で跡取りだよ、嫁に行くわけないじゃ無いか!」
「は……そんなはずは、だって俺は長男で……」
「では、侯爵に聞いてみようか、誰かゲリング侯爵をこちらへ!」
周りの者が素早く侯爵を呼びに行き、侯爵が慌ててやってきた。
「アルバート殿下!お呼びと聞きましたが」
「うん、ユース侯爵令息が面白い事を言っていてね、何でもユース令息は侯爵家の跡取りとなり、セレステ嬢を嫁に迎える側だと言うんだ」
「な!」
「それに、セレステ嬢とは婚約破棄するらしいよ?」
アルバート殿下の話を聞いた侯爵は、顔を赤くしたり、青くしたりと忙しそうだか、やはり怒りの方が勝ったのだろう。顔を真っ赤にすると、ユース様に怒鳴り始めた。
「お前は今まで何を聞いていたんだ!侯爵家は弟が継ぐ、お前は当主の仕事が出来ないから婿に行くしか無いと言ってあっただろう!しかも私が頭を下げて頼んだ婿入り先を婚約破棄だと!何を言っているのか分かっているのか!」
「な!そんな!弟が侯爵家を継ぐなんて……てっきり俺にやる気を出させる為の嘘かと……でも、悪いのはセレステなんだ!」
「まだ言うか!成績が下から数えた方が早いお前が、当主なんか務まるけがないだろう!」
「あ……ああ……それじゃ俺は……」
「もう、こうなったら侯爵家に置いておくことも出来ない。卒業後は家を出て好きにするがいい」
「え〜!ユース様って侯爵家継がないんですか!?私に侯爵家継ぐから結婚しようって言ってくれたのに!せっかく侯爵夫人になって贅沢出来ると思ったのに〜!」
ユース様が真実を知って呆然としていると、アイリーン様がとうとう本音をこぼしてしまった。
「アイリーン嬢、君の嫌がらせの件だけど」
「本当なんです!セレステ様が嫉妬してやったんです〜」
「君が言っていた嫌がらせや、暴言について何一つ証拠は無かったし、むしろ君がセレステ様の悪評をばら撒いていたよね?」
「しょ、証拠は?それに調べた者が嘘をついているのかも知れません!」
「王家の者が調べたんだ、その者達が嘘をついていると?」
「い、いえ、ならセレステ様の取り巻きの方にやらせたんです!」
「セレステ嬢に取り巻きね……俺が知っている限り、セレステ嬢はいつも一人で行動をしていたが?それともここにいる者に確認してみようか?誰か!セレステ嬢と親しくしていた者はいないか!咎めはせぬから名乗り出る様に!」
周りにいた者は顔を見合わせてヒソヒソと話すが誰も名乗り出る者はいなかった。
「そもそも、君のせいで誰も近づかなかったんだから、誰かにやらせるのは無理じゃ無いか?それに君はセレステ嬢にされたと言ったじゃないか」
アイリーンがアルバートから追い詰められ、悔しそうにこちらを睨みつける。
「何なのよ!もう少しだったのに!」
途中からアルバートとアイリーンのやり取りを見ていたユースは侯爵家を出される事とアイリーンの本性で正気に返ったのか、突然セレステに縋り始めた。
「セレステ、さっきの事はちょっとした勘違いだったんだ、君は俺が好きだろう?だから俺が君と結婚して公爵家を継ぐよ!そうだ!君だって婚約破棄なんかされたら困るだろう!」
この人は、何を言っているのだろうか、ここまできてまだそんな事を言ってくるなんて……
私が反応を返さないとわかると、ユース様が肩を掴んで、必死に詰め寄ってきた。
「なあ!セレステ!何とか言ってくれ!なあ!言えよ!」
「やめて、下さい」
私が顔を顰めてユース様を振り解こうとした時、
アルバート殿下がユース様を振り払い、引き寄せてくれた。
「見苦しいぞ!」
アルバート殿下が鋭い視線で、ユース様を見た後、私の方を振り向いた。
至近距離で目が合う。
この目……
「セレステ嬢、貴女に言っておきたいことがある」
「何でしょう……」
心音がどきどきとしてくるのがわかる。
「俺のセレーネ。まだ月を欲しいと思ってくれますか?」
アルバート殿下は、上着の内側からそっと仮面をセレステに見せてくる。
「ああ、貴方は……」
セレステは両手で叫びそうになる口元を隠すが、目はアルバートを見つめて離さない。
「黙っていてすまなかった。これからは側にいる」
アルバート殿下はそう言うと、セレステの前に跪き片手を取ると周りに聞こえる様に宣言する。
「私、アルバートはセレステ嬢に婚約を申し込みます。どうかこの手を取っていただけませんか?私のセレーネ」
「……はい」
セレステが返事をすると、周りから拍手が湧き上がる。
アルバート殿下がセレステをそっと抱きしめた。
「アルバート!こちらに!」
そこへ陛下から声がかけられた。
皆一斉に道を開け、アルバートがセレステをエスコートしながら陛下の元へ向かった。
「陛下……」
「決めたのだな」
「はい。間に合いました」
「分かった……グランツ公爵も良いか?」
いつのまにか、お父様が側に来ていた。
「セレステが自分で決めました。異議はありません」
「お父様……」
「うむ、では発表する!第二王子アルバートと婚約者となったセレステ・フォン・グランツ公爵令嬢だ!」
一斉に拍手が起こる。
陛下が、合図を送るとホールに音楽が流れ始めた。
「踊ってくれませんか」
「喜んで」
二人がホールの中央へ出て踊り出す。
周りから見た二人は、キラキラと輝きながら踊るセレステはまるで月の様で、踊る二人の息がぴったりあっていた。まるでずっと一緒に踊っていたような気がする。
アルバートはセレステを見つめながら以前と同じ言葉を聞いてみた。
「月は手に入りましたか?」
「はい。月は遠いと思っていましたが、月からやって来てくれました」
二人が幸せに踊る中、会場の隅ではユースとアイリーンが言い争いをしていた。
「侯爵家の当主になるって言ってたじゃないですか!嘘つき!」
「お前こそ、セレステに嫌がらせなんかされてなかったんじゃないか!嘘つきはお前だろう!」
「こんな事なら婚約者がいる男なんて選ぶんじゃ無かったわ!高位貴族で単純そうだから近づいたのに!」
「何だと!」
煩く喚いていた二人は兵士によって会場の外へ摘み出された。
そんな二人に事には気づかずに、セレステとアルバートはワルツを踊り続けた。
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