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第3章:終わりの日の約束

更新忘れてた(ノ≧ڡ≦)☆


霊界のゲートを潜り抜け

俺とマルルが降り立ったのは

夜の帳が下り始めた総合病院の屋上だった。


現世の空気は重く

天界のそれとは比べものにならないほど濁っている。


だが

鼻を突く消毒液の匂いや遠くの救急車のサイレンが

かつて俺が生きていた世界なのだと強く実感させた。


「……マルル、行くぞ」

腕の中のマルルが小さく鳴き

俺の肩に飛び乗る。


俺たちは壁を透過し

リストにある402号室へと向かった。


病室には、一台のベッドと

静かに波打つ心電図の音。



そこに横たわっていたのは

小さく、枯れ木のように痩せた老婆だった。

立花菊。彼女が俺たちの最初の任務だ。


「……おや」

俺たちが実体化すると同時に

眠っていたはずの菊がゆっくりと目を開けた。


死神は、死が確定した者にしか見えない。


彼女の澄んだ瞳が、銀髪の俺と

背中に翼を持つマルルを捉えた。


「お迎えかい……?」

菊の言葉は、驚くほど穏やかだった。



「死神だ」

俺は淡々と

閻魔大王に命じられた通りに告げる。


「お前は二週間後に死ぬ。

それまでの間、俺はお前の側にいる。

……やり残したことはないか?」


菊は少しだけ寂しそうに微笑み

視線を窓の外へ向けた。


「特にないねぇ……。

息子も孫も、もう長いこと顔を見せないし。

疎まれている私に

会いに来るはずもないよ」


彼女の孤独が、冷たい風のように病室に流れる。


マルルがトコトコとベッドの端に歩み寄り

菊の手元に鼻を寄せた。


「……可愛いワンちゃんだね。

あんた、死神さんの助手かい?」


マルルが肯定するように「ワン」と鳴く。

菊は少し驚いたように

けれど嬉しそうにマルルの頭を撫でた。


「死んだら、じい様に会えるかい……?」


震える声で問われ

俺は懐からもう一冊の

天界の住人が記されたノートを取り出した。

ページを捲り、彼女の夫の名を探す。


「……立花重蔵。天界の人間ゾーン、三区。

……ああ、向こうでお前が来るのを

今か今かと待ちわびていると書いてある」


その言葉を聞いた瞬間

菊の顔にパッと光が差した。

それは、死を待つ老人の顔ではなく

愛する人を想う乙女の表情だった。


「そうかい……待っててくれるんだねぇ。

あぁ、よかった……」


「死ぬ時期は変えられん。

あと二週間、我慢しろ」


ぶっきらぼうな俺の言葉に

菊は「ああ、楽しみだよ」と穏やかに頷いた。



それからの二週間

俺とマルルは菊の側にいた。


彼女の息子や孫が来ることは

結局一度もなかった。


看護師たちが忙しなく出入りする中で

菊はただ一人、窓の外の空を見つめて

時折マルルと楽しそうに話をしていた。


「おばあちゃん、子供や孫に会いたくないの?」


マルルが不思議そうに尋ねる。

菊は、もう掠れてしまった声で笑った。


「いいんだよ、マルルちゃん。

あの子たちが幸せならそれで。

……じい様が待っていてくれるなら

もう私は十分だよ」


そして、運命の時が来た。

バイタルが急激に低下し

病院関係者が慌ただしく駆けつける。


モニターの音が一定の電子音に変わる。


菊の魂が、肉体から静かに離れた。

現世での姿よりも少しだけ若返った菊の魂は

自分の亡骸を見下ろすこともせず

真っ直ぐに俺たちを見た。


「さあ、行こう」

俺は彼女の手を取り、霊界へと導いた。



道中、マルルが寂しそうに呟いた。


「結局、誰も身内来なかったね……」

だが、俺は前を歩く菊の背中を見て首を振った。


「……いや、大丈夫だろ。見てみろよ、あの顔」

菊はもう、こちらのことなど気にしていない。

その横顔は、恋する乙女そのものだ。


閻魔大王の前に進み出た菊は

大王の威圧感に怯えることもなく、真っ直ぐに尋ねた。


「じい様はどこ? どこにいるの?」


閻魔大王はふっと口角を上げ、

柔らかな声で言った。


「……焦るな。今、合わせてやる」


大王が指を鳴らすと

人間ゾーンへと続く巨大なゲートが開いた。


そこには、一人の青年が立っていた。

白髪ではなく

菊が最も愛した頃の姿

——快活な青年となった重蔵だ。


「菊!」

重蔵の声が響く。


「重蔵さん!」

菊が駆け出す。


その足取りはみるみると軽やかになり

白髪は黒く艶やかな髪へ

深い皺は瑞々しい肌へと変わっていく。


二人の魂が強く抱き合い

光の中に溶け込んでいく。


門番が俺たちに一礼し

二人を奥へと案内すると

ゲートは静かに閉じた。


「……初めてにしてはよくやった。

これからも期待しているぞ、ジェード」


閻魔大王の言葉に

隣で見ていた天使セフィエスも満足げに頷いた。


「さあ、マルル。次の名前を確認するぞ」

俺はノートを開いた。


銀髪の死神と、漆黒の翼を持つマルチーズ。

これが、俺たちの「永遠の日常」の始まりだった。



お読み頂きありがとうございます

次回も楽しみに♡

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