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第1章:退屈な楽園と、小さな相棒の再会


天界は、まさに理想郷だった。


気候は常に穏やかで

腹も減らなきゃ病気もしない。


会いたい死者には(天界にいれば)会えるし

好きなだけ趣味に没頭できる。


けれど、20歳で人生を強制終了させられた俺にとって

その「永遠の安らぎ」は、あまりにも退屈すぎた。


「はぁ……暇だ。杏奈が来るまで

あと何十年あるんだよ……」


綺麗なだけの花畑に寝転がり

俺は何度目かもわからない溜息をついた。


たまに手違いで違う世界へ即座に転生し

神様からチートスキルを貰って

第二の人生を謳歌する奴もいるらしいが

俺は閻魔大王直々に「ゆっくりしていけ」と

言われてしまった口だ。


そんなある日

定期見回りに来た天使サファエルを見つけ

俺は突拍子もないことを口にしていた。


「なぁ、サファエル様。

俺、暇すぎて死にそうなんだ。

……いや、もう死んでるけど。

とにかく、何か仕事がしたい」


「お仕事、ですか? 天界での生活に不満が?」


「不満っていうか、刺激がない。

……そうだ、俺、死神になりたい」


サファエルが、珍しく目を見開いた。


「死神……ですか? 地上へ行き

亡くなった魂を霊界へ導く、あの?」


「そう。俺を迎えに来たのはサファエル様だけどさ

他の人から話聞いて

なんとなく格好いいと思ったんだよ。

俺にもできないか?」


普通なら一蹴される願いだ。

だが、サファエルは少し考えると

穏やかに微笑んだ。


「貴方の魂はとても清らかで

強い意志を感じます。

……分かりました。

かみにお伺いを立ててまいりましょう。

少々お待ちを」


サファエルは光となって消えた。


その場に残された俺に、冷ややかな声が掛かる。


「死神になりたい、だぁ? 変わった奴だな、お前」


振り返ると

『人間ゾーン』の巨大な正門の前に

筋骨隆々の男が立っていた。

このゾーンの門番だ。


「安らぎの天界を捨てて

わざわざ未練や怨嗟の渦巻く

地上付近(霊界)へ行こうなんて

正気の沙汰じゃねぇよ」


「ただ寝て待ってるよりは、マシだと思ってさ」


門番とそんな会話を交わしていると

向こうから別の影が近づいてきた。



それは、隣の『動物ゾーン』の門番だった。

……そして、その腕の中には。


「おい、こいつがお前の連れか?

『人間ゾーン』の方から

主の気配がするって聞かなくてな」


動物ゾーンの門番が

腕の中の白い塊を地面に下ろした。


「――マルルッ!?」

 真っ白な長毛、クリクリした黒目。

間違いなく、俺と一緒に死んだマルルだった。


『ワンワンッ! お兄ちゃん!』

マルルが弾丸のように俺の胸に飛び込んできた。

懐かしい重み。

天界にきて一番の衝撃と喜びが、俺を包む。


「マルル、お前もここにいたのか……!

会いたかった、ずっと会いたかったよ!」


 涙が溢れる。

マルルは俺の顔中を舐め回し

千切行かんばかりに尻尾を振っている。


動物ゾーンの門番が

呆れたように溜息をついた。


「こいつ、サファエル様が

お前に会いに行ったのを知ってな。

……『主が死神になるなら

自分もサポートしたい』だとよ。

動物ゾーンの長に直談判しに来やがった」


「え……? マルルが?」

 驚いて腕の中のマルルを見る。


人間ゾーンの門番が、ニヤリと笑った。


「生前、魂の絆が深かったペットはな

違うゾーンにいても主の思考が

なんとなく読めるんだよ。

お前が『死神になりたい』って願った時

こいつにも伝わったんだろ」


マルルは俺の腕の中から

真剣な眼差しで見つめてきた。


『離れてるの嫌。

お兄ちゃんと一緒にいたい。

お兄ちゃんが死神やるなら

マルルもお手伝いする!』


声は聞こえない。

けれど、マルルの想いが

直接脳内に流れ込んでくる。


事故の瞬間

俺を庇おうとしてくれたマルルの愛が

今も変わらずここにある。


「マルル……ありがとう。

お前は本当に、最高の相棒パートナーだ」


俺がマルルを強く抱きしめた時

頭上から聖なる光が降り注いだ。


「お待たせいたしました」

天使サファエルが戻ってきた。


その表情は、以前よりも少し晴れやかだ。


「神様より、許可が降りました。

早見敏也様、貴方を死神見習いとして任命します。

そして――」


サファエルは足元のマルルに目を向け

優しく微笑んだ。


「マルル様の同行も

特例として許可されました。

主との深い絆

そして死神を補佐する『霊獣』としての適性を

認められてのことです」


「本当か……!?」


「はい。ではこれより

死神たちが集う『霊界』へご案内いたします。

閻魔大王様への挨拶と

死神としての『器』を拝領しに行きましょう」


俺とマルルは顔を見合わせ、力強く頷いた。

退屈な楽園は、ここまでだ。


俺たちはサファエルの光に包まれ

再び天界の門をくぐり、霊界へと向かった。




お読み頂きありがとうございます

次回も楽しみ♡

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