第66話:地区解放クエスト+ 2
自爆の人はケセラさんと名乗った。
犬型の獣人、アニマー族のアルケミスト。見た目は大変に着込んでいる。
耳が飛び出した帽子に、ふわふわのマフラー、厚手のコートにスカート。更にはエプロン。全部乗せみたいな服装だけれど、非常に可愛らしくまとまっているように見える。多分、センスが良いんだろう。
こうした季節感のない服装ができるのもVRの特徴で、それを全力で活かすタイプということだろう。AP装備と普通の装備品を上手に組み合わせているらしく、ただものではない。
「つまり。ボスを倒せるんだけど倒せないってことですね」
「はい。倒せるけど倒せないんです」
そんなケセラさんと俺は通路に座って会話している。面白そうだったので、まずは話を聞いてみているところだ。
倒せるけど倒せない、一見意味がわからない言い回しだけれど、そこはケセラさんの個人的な事情によるものだった。
BWOのおけるアルケミストはバフデバフのスキル及び爆弾を扱う職となっている。
身近な所でいうとカモグンさんはバランス型だ。戦闘中にバフをかけたり、爆弾で援護したりと色々できる。実はちょっと器用貧乏な感じなんだけれど、そこは上手く立ち回りでカバーしていたりする。
対してケセラさんは爆弾特化だ。爆弾スキルにもヒールボムとか攻撃以外に使えるものがあるそうなんだけど、そこで更に攻撃に特化している。
依頼でこの通路の虫を蹴散らす分には大いに活躍したスキルだが、NPCから受けたクエストのボスがちょっと手強かった。
お供付きの頑丈なメカタイプのモンスターで、逃げながら爆弾を投げれば何とかなるかとチャレンジ。雑魚の囲まれて危うく死にかけたそうな。
「ボスの推奨レベルは49だからダメージを与えて『微塵隠れ』をすれば倒せると思うんですが」
「ああ、あれやると自分も死んじゃいますもんね」
「いやだなー、トミオさん。爆発で自分も死んだら『微塵隠れ」じゃなくなっちゃうじゃないですか」
「キメラゴドンの時、全力でただの自爆してたでしょ」
「そ、そんなこともありましたね……」
指摘に目をそらして口笛を吹く振りなどして誤魔化そうとしている。俺は忘れてないぞ。
「ま、まあ、強敵相手には死を覚悟した『微塵隠れ』で戦うんですけど、仲間がいて生き返らせてくれないとクリアできないわけでして……」
「つまり、ボスを倒した後の蘇生役がほしかったと」
「はいっ。まさかの知ってる人が通りがかって助かりました。私、なんかいつも一人なんですよね」
「あの、それはどういう?」
これまで話したところ、ケセラさんの受け答えにおかしな所はなにもない。むしろ、しっかりした人という印象すらある。爆発関係だけちょっとおかしいけれど、そこもさほど気にならない。ネットの世界に生きていれば、個性的な人にはそれなりに巡り合うものだ。
「な、なんかですね。いつの間にか一人で行動してるんです。本質的にぼっち気質といいますか……。話はするのに出来ないんです、友達」
「イベントの時は集団に混ざってたじゃないですか」
「あれはお祭りの流れに乗ってみたといいますか……」
えへへ、ちょっと照れながらいうケセラさん。危うく「ああいうイベントで自然と知り合いができたりもしますよ」と言いかけた所で、何とか思いとどまった。多分、言わないほうがいい。
「なんか、自分の気の向くままに動いてると単独行動になってるんですよね」
「あー、それはちょっとわかります。まず自分で行って試してみたいんですよね」
「そうっ! わかってくれますか! やっぱり! 実はトミオさんからは同類の波動を感じていました!」
「え、いや、今回は仲間とギルドハウスを作るために通りがかりまして……」
「そんな、信じてたのに……。いえ、勝手に期待した私が悪いですね。とりあえず、ボス退治だけでもご協力をお願いします。なんなら自爆を見守るだけでいいので」
「ちゃんと手伝いますよ。そこは安心してください」
ほんの数分で印象が変わった。ちゃんとした人だと思わせて、割と感情の起伏の激しい人だった。楽しくって一人でズンズン進んじゃうタイプなんじゃないかな、この人。たまり場が出来ても滅多に顔を出さないレアキャラになる系統の。
「私としたことが、つい長話を。すみません、NPC以外の人と話したのは久しぶりなので。あ、パーティー組んじゃいましょうね」
さっそくケセラさんからパーティー要請が飛んできた。とりあえず承諾する。
「ふふ。このゲームでパーティー組んだの、初めてです」
「本当にずっと一人だったんですね」
ソロプレイ志向の人はいるけど、天然でソロになってる人は初めて見たかも知れん。
「では、行きましょう。私の爆破をお見せしますよ!」
勢いよく駆け出したケセラさんを俺は慌てて追いかけた。
……さて、ここで一つ、最初から気になっていることが一つ。
ケセラさんはアルケミストらしい服装の一環ということか、バッグを一つ肩から下げている。
そのバッグに、デフォルメされたスクラのような外見のぬいぐるみがぶら下がっているのだ。
ような、じゃないな。多分そうだよな。青髪だし大鎌だし。クラフトスキルで作った? グッズを? 俺の女性化アバターの?
この件について話題に出すべきかどうか。先程から俺は脳内で必死に検討していた。気が気じゃない。
とりあえずは保留だな。それがいい、うん。なんか変な汗出てきた……。
口に出さなきゃ問題ない。そう決めて元気に走るケセラさんの背中に続くのだった。




