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第25話 ドルゴラッヘ火山-3

 ボルツやラルに案内されながら、彼らが普段働いている火山の麓に到着したアイたち。入山を受け付けてもらうため、入り口の管理所に訪れていた。

 だが、受け付けをするよりも先に、管理所の前で一行の耳に異様な喧騒が聞こえてくる。人同士で怒鳴り合っている声だ。

 そちらの方へ振り向いてみれば、ジフは見覚えのある人物がいることに気づく。


「あれは……スレトニウス公務官? 何でこんな所に……」

「あの人、こないだの王国のパーティで会った人だっけ?」


 ジフの視線の先を追ってみれば、そこにはアイにも見覚えのある人物が、屈強な炭鉱夫たちに囲まれていた。

 ――ジフが所属するエスペル教団の公務官の男、スレトニウス。黒の制服のジフとは違い、白いジャケットを着た上層部の役職持ちである彼が、火山などという岩にまみれた危険地帯にいるのは、相当珍しいことだ。


「俺たちの街が危ねぇってのに、何でよそ者のお前に仕切られなきゃなんねぇんだよ!」

「ですから、その整備を我々教団が進めている最中だと言っているんです!!

 あなたがたのような素人がうろついて不備が生じたら、被害を被るのはあなたがたなのですよ! その責任を負えるのですか!?」


 スレトニウスは、軽快な社交辞令を連ねていた華やかな晩餐会の時とは一転、獰猛な炭鉱夫たちに劣らぬ剣幕で声を荒げている。

 にこやかな顔を作るのも忘れ、彼は乱暴な動作で執拗に右手を差す。


「こんな子供一人ろくに監督できないようでは、我々に関わられると非常に迷惑なんですよ!」


 大人の男たちの人だかりの中、スレトニウスと炭鉱夫たちの間に挟まれるように、小さな背丈の人影が見えた。よく目を凝らしたラルが、その顔を捉える。


「――マノ!」


 ラルとよく似た赤い髪のポニーテールと褐色肌、そして角の生えた少女――マグ・ノリア=リュージーン。まさに彼が探していた、妹その人。

 マノは大人たちの怒鳴り声に萎縮しており、スレトニウスに「こんな子供」と怒りを向けられ怯えきっている。



 遠巻きに状況をうかがうアイたちも、あまりの揉めように戸惑っていたが、不意にアイの隣に立っていたジフがおもむろに前へとへと踏み出す。


「スレトニウス公務官」

「……こんな所にまでダズフェルグ隊が」


 ジフの凛とした声により、両者の口論は一旦鳴り止んだ。

 同じ組織の者であるはずが――ジフがリオウ直属の部下だからか――彼に視線をやるスレトニウスは、忌々しそうな表情を隠すつもりもない。


「何か問題がありましたか」

「問題だらけですよ。大陸中の魔力が変質して、この火山も例外ではないというのに、日頃から火山に籠ってばかりの方々にはまるで危機感がないようで……

 そもそも、ここは何十年も前から危険区域に指定されています。この度の異変で危険度が上がり、規制が強化されたため、私はその規制を全うしているだけです」


 スレトニウスが口を開けば、一瞬の静寂も束の間、またしても炭鉱夫たちが次々に抗議の声を上げる。


「危機感がねぇのはオメェの方だろうが!

 リュウノオ様の祠が無事かどうか確認しねぇと、噴火を鎮めるご加護がもらえなくて、火山を抑えられねぇんだよ!」

「それだけじゃねぇ、俺らの仕事仲間が何人もこの火山に入ってったきり、戻って来ねぇんだよ!

 このままじゃ火山ごと、そいつらまとめてお陀仏になっちまう!」


 予測し得る被害と、仲間の安否。教団が本来耳を傾けるべき市民の訴えを前にして、しかしスレトニウスは、くだらないものを鬱陶しそうに見る目をする。


「我々のような大陸規模の公的機関の対策より、こんな小さな祠の神に、手間と時間を割けと?」


 吐き捨てられた発言に、ジフは耳を疑った。

 そしてジフもまた、はっきりと批難するように強く眉をひそめる。


「公務官……本気で言ってるんですか?」


 少年のものとは思えぬ、ジフの底冷えする声音と視線に、スレトニウスも一瞬推し黙る。自分の立場を思い出したのか、焦ったように奥歯を噛み締めた。


「とにかく、この火山の深部は災害指定区域として定められています!

 正式な許可なく侵入することは認められません」


 体裁を取り繕うように、スレトニウスは頑なに同じ主張を繰り返す。

 炭鉱夫たちが痺れを切らし、袖を捲る動きが見え始める。その屈強な腕力で実力行使に出るのも時間の問題かと思われた――その時。



「この火山の街の人々の人命がかかっていることは、ご理解していますか?」


 落ち着いた大人の男の声が、新たに響いた。皆がその声の方へ振り向く。

 現れたのは、教団の黒いジャケットをたなびかせてこちらへと歩く、司祭の男――リオウだ。




* * *




「ダ……ダズフェルグ司祭」

「リオウ!」


 一瞬狼狽えるスレトニウスと、対照的に頼もしそうに名を呼ぶアイたち。だが、アイたちが普段見知っている温厚な雰囲気とは違い、今のリオウからは静かな威圧感を感じる。

 近づいてくるリオウに、スレトニウスも圧されまいと答える。


「私が言っているのは……こんな小さな街一つの問題ではなく……もっと大局的に、大陸全体に関わる重大な――」

「ここに住んでいるみなさんの安全の話をしているんです」


 あくまでも自分の言い分を通そうとするスレトニウスを、リオウは一蹴した。


「……わかりました、スレトニウス公務官。要は、指定区域に侵入せず、かつ正式な許可があれば良いんですね」

「さっきからそう言っているでしょう」

「ならこの場所で確認をします」

「は……?」


 リオウはあえてスレトニウスの主張に乗り、そして彼よりも強引に話を進める。唐突な提案をしたリオウは、自分が入ってきた後方へと振り返った。



「――すみません、お願いします。ドロヴィス特務准尉」


 静かに名を呼ばれ、控えていた影がリオウの隣へと並び立つ。

 フォルティリゼイナ帝国の赤い軍服を着た女――オリカ。アイたちも知っている人物だ。


「オリカさんだ!!」


 思わずアイが声を上げる。驚いたのは、帝国という予想外の勢力からの介入……だけではなく、刑務所に収監中の身であるオリカが、このような形で再びアイたちの前に現れたからだ。


「帝国のエーデルワイス代表のご協力により、特別に一時出所の許可を頂きました。

 この機器は魔力検知機能が備わっています。彼女の力……帝国軍で実績のある感知技術を使用し、機器に反応があれば、我々にも調査の必要性が生じる」


 リオウは抱えていたタブレット端末の画面を、一同に見せた。そこには話しているとおりの機器の説明と、帝国の正式な認可マークが表示されている。

 事前の手筈を揃えていることを示したリオウは、傍らのオリカへ僅かに声を落とす。


「……では、頼みます。特務准尉」

「ああ……分かっている」


 威圧的な会話の最中だが、その声にはオリカへの心苦しさが滲んでいるように聞こえ、彼女も静かに頷く。



 オリカは一度深呼吸し、精神を研ぎ澄ませた。大気の震えと、彼女の感覚が、まさに一体化し――火山内部に存在する様々な物体の中に、一際強烈な魔力を放つ、〝異物〟を感知した。

 瞬間、その魔力を直接身に受けたかのように、オリカの頭に裂けるような痛みが走る。


「……うっ!!」


 それとほぼ同時、リオウのタブレットの魔力解析表示が変化する。


「光った……!」


 表示された警告色をアイたちも目撃し、じっと注視していた炭鉱夫たちもどよめく。


「この場所からでもこれほど感知できるとは、相当な代物が隠匿されている可能性がありますね……

 すみません、こんなことのために貴女の体に無理をさせて」

「いや……問題ない、これくらい」


 頭を押さえてよろめくオリカの背中に、リオウがそっと手を添えて支える。


「今の反応、確認していただきましたね」


 リオウはタブレットに視線を向ける。それはこの場で見ていた一同だけでなく、タブレットそのものにも伝えているようで――

 そして、表示されていた画面のウィンドウが縮小され、新たなウインドウが浮上する。


「――ナタリーザ副司教」

「な……!?」


 そこには、リオウが名を呼んだ人物――エスペル教団の副司教の女性、エマ・ヌエラ=ナタリーザの姿が写し出されていた。

 組織のNo.2の顔が目に飛び込み、いよいよスレトニウスも動揺を露わにする。

 


『この目で確認させてもらいました。もとよりこの度の火山の異変は、バロディノーギア王国から直々に調査依頼を受諾した事案です。この機器についての説明も了承しています』


 共有されている画面越しに、すでに状況を把握し臨んでいるナタリーザ副司教が、粛々と告げる。


『これは、我々エスペル教団が調査すべき検出結果です。立ち入り許可が必要なのであれば、私から承認します』

「ありがとうございます、ナタリーザ副司教」

「………………」

『人々の安全の確保を、どうかよろしくお願いします』


 先ほどまで豪語していた要求を、目の前であっさりとこなされ、スレトニウスは唖然と言葉を失う。

 副司教本人の口から正式な許可を得たリオウは、彼女に会釈し、画面の共有を終える。端末を持っている手を下ろし、再びスレトニウスの方を見る。



「……スレトニウス公務官。現地の人々に説明も、教団の上層部にすらも説明していない、非正規の器具の存在を、をあなたは知っているんですね」


 追及するリオウの語気と眼差しが強まり、彼の言葉の意味をアイたちも理解する。


「それって……」

「……市民に対する、著しい背信行為……」


 組織の者による隠蔽同然の物体と行い。それが明らかになり、組織の一員であるジフも苦々しく口にする。

 これ以上言い逃れを試みるのはかえって不利になると悟ったスレトニウスは、苛立ちと苦渋が混ざった顔でしばし逡巡し、口を開いた。


「……先刻のラインゼル軍機関での武力衝突の折に、陸全土で《影》の魔力が変質し始めたのはご存知でしょう。

 その増幅を食い止めるべく、《救世主》が施した封印……そこに、地上からも力を重ね掛けをする器具が設置されているのです。各地の地脈奥深く……そのうちの一つがこの火山です。

 特に昨今は、《影》の脅威が加速的に増大している影響で、止むを得ず上層部に掛け合うのを待たずして、その器具に手を加える必要があったんです」


 ようやくスレトニウスから、新しい情報が吐かれた。


「不用意に公言すれば、浅はかな好奇心で近づく素人や、良からぬ事に利用する輩に目を付けられる。

 だから言ったでしょう、これは大陸全体に関わる重大な事案だと」


 彼本人も、ただ現地住民と口喧嘩しに来たのではなく、明確な意図があることを思い出したのか、幾分か冷静さを取り戻して告げる。

 しかし、リオウの眼差しは依然として緩まない。


「理屈としては理解しました。

 ですがあくまで私が聞きたいのは、この街の人々の人命や、尊厳を軽んじる発言をする必要があったのかということです。

 無辜の市民の安寧を守る、我々教団の本懐に反する行為ではないのですか」

「っ…………」


 ドルゴラッヘ族の人々への無礼を認め、その口で頷かせるまで、リオウはスレトニウスに逃げを打たせるつもりはないのだろう。

 リオウのひりついた雰囲気が、先ほどまで気が立っていた炭鉱夫たちや、子供のアイたちにまで伝わっていることを、スレトニウスも如実に感じ取っている。



 が、彼が答えるよりも先に、別の声が割って入った。


「まあまあリオウ、副司教からの許可は降りたんだし、もうそれでいいじゃねぇか」


 まだ青く幼い少年の声。二人の上官と、ジフの前に歩み出たのは――ジフと同じ黒の制服の少年兵、ラスティ。

 あえて場の緊張を乱すような軽薄さで、突然介入したチームメイトに、ジフも驚きを隠せない。


「ラスティ……?」

「……ハ、ハウントくん」


 ラスティを認識した途端、スレトニウスの態度は一変し、丁寧さを取り繕うとする。

 スレトニウスは以前の晩餐会で来賓たちを前にして、救助任務の成果を立てたラスティに、まるで後見人であるかのような振る舞いをしていた。ここでラスティにまで不興を買うわけにはいかないと、辛うじて理性が働いたのだろう。


「スレトさんの言ってることだって一理あるんだし、こういう状況だからスレトさんなりに責任を感じすぎてたんだって。それなのにこんな大勢の前で、あんま良くないぜこういうの」

「スレトさん?」


 妙に近しいような、砕けた呼び方をするラスティをジフは奇妙に感じ、思わず怪訝な目で彼を見る。


「な、スレトさん。理由はみんなちゃんとわかってくれてますから。俺の顔に免じて、ここは大目に見てやってもらえませんかね?」

「…………」


 空気を一変させ、ラスティが味方についたことで、スレトニウスも幾分か溜飲が下がったようだが、それでも自分の口で認めるのを躊躇っている。



「……俺たちも、何も知らねぇ素人が、お前さんたちの仕事の邪魔してすまなかったな」

「お、親方?」


 さらに、前に出る者がもう一人。アイたちに付き添い事態を静観していた、炭鉱夫たちのリーダー、ボルツだ。彼の突然の行動に、隣に立っていたラルも戸惑う。


「見ての通り、ただでさえ火山の様子が不安定なうえに、仲間が大勢この火山に消えちまったんだ。みんな焦ってたんだよ。

 仲間の制御も、子供の子守りもできねぇ、俺の責任だからよ……俺から詫びさせてくれ」


 ボルツは首を掻き、そしてスレトニウスの方を真っ直ぐに向いて、そう言った。彼の口にした詫びの余韻が、静まり返った周囲に広がる。

 スレトニウスが折れるのを待っていたのに、先にボルツが謝罪した。そのことに、一同は呆然としている。それはスレトニウス本人も同じだったが、自分側に好転したと気づいたか、少しばかり強気な表情が戻る。


「……理解したのならそれで良しとしましょう。

 私は責務と説明を果たしました。ナタリーザ副官に許可を乞うたのは貴方なのですから、ここからは貴方の責任ですからね、ダズフェルグ司祭」

「はい。承知しています」


 威勢を取り戻し、堂々と転嫁するスレトニウスに、リオウも呆れたように最低限の口数で答える。そんな二人の間にさらにラスティが割り込み、スレトニウスの方に身を寄せていく。


「――それでなんですけど、俺もスレトさんと話したいことがあって、お会いしたかったんですよねぇ~。この間見学させてもらった集会のことなんですけどー……」


 ラスティは自分とスレトニウスにしかわからない話を切り出し、場所を変えるよう少し強引に背中を押す。

 歩き出したラスティは、スレトニウスには見えない方の片手で、背後にいるジフたちに向けて丸印のハンドサインをした。「後は任せて丸く収めろ」ということだろう。

 ラスティに連れて行かれる形で、二人の背中が奥へと遠ざかっていった。




* * *




 スレトニウスがその場から去り、呆気に取られていた一行だったが、遅れてふつふつと不快感が込み上げたアイとカナは、ジフの方へ向かいながらむっと顔をむくれさせた。


「んだよあいつ! あんなに威張らなくたっていいだろ!」

「最初から最後まで感じ悪ぅ~」

「……ラスティ……」


 ジフはまだ、ラスティたちが去っていった方を見つめている。最後のハンドサインで、彼も自分たちのために動いてくれたのだとわかったが、ジフはどこか寂しげな顔をしている。

 そこへ、少し離れた方から声が響いた。


「ジフ兄~! 姫様~!」

「サギリ、大丈夫でした?」

「わ、私はなんとも……でもお兄ちゃん、あの人と行っちゃった……」

「教団にもあのような人がいるなんて、少しびっくりしました……街の人たちや、同じ教団の兵士のジフにも、あんな言い方をするなんて……」


 駆け寄ってきたのはもう一人のジフのチームメイトの少女、サギリ。

 直前までラスティと一緒にいたのであろう彼女を、リンが心配しつつ、先ほどの一部始終に居合わせた率直な心境をこぼす。


「上層部には、現場のことをよく知らないまま、責任の重い自分の仕事を回すのに精一杯の人も多い。俺たちみたいな子供はまだ舐められやすいんだ」

「えっ……正真正銘の精鋭のジフくんたちでもですか?」

「俺たちは特に孤児上がりだからな。もうとっくに慣れてるから、仕事の妨げにならなけりゃそれでいいんだが」


 驚くショウの問いにも、直接巻き込まれたジフ本人は、いつもの彼らしくあまり動じていない。……かに思われたが、ジフにしては珍しく、少し沈んだ表情で視線を落とした。


「……ただ……教団がみんな、あの人みたいな集団だと思われるのは……」



 一方、アイたちとは別に、ラルは立ち尽くしている妹、マノの方へつかつかと歩み寄る。


「マノ!! お前こんな所にいたのか!」

「兄ちゃん……」


 ラルの怒声が響き、今度はそちらの方へ皆の視線が吸い寄せられる。


「こんな危ない状況なのに、一人で祠まで行くつもりだったのか!? 教団の人とみんなが喧嘩してたのも、お前が目をつけられたせいだったのか!」

「ご、ごめんなさい……」

「あんまりそう怒鳴ってやるな、ラル」


 マノに寄り添うように立つボルツがなだめるが、ラルの昂ぶった感情は収まらない。


「親方も親方だよ! みんな何も悪くないから堂々と言い返してたのに、なんであっさり謝っちゃうんだよ! 親方らしくないって!」

「こいつらが間違ってないのは俺もわかってる。だからそこああいう奴はさっさと帰ってもらわねぇと、こっちばっかりが損するだけだ。謝るフリくらい安いもんだ」


「そうだぜラル坊。マノお嬢ちゃんがあいつを足止めしてくれたおかげで、こっちも言いたいことを面と向かって言ってやるチャンスができたからな」

「こんな状況だってのに何日も足止めされて、そろそろ我慢の限界だったからよ」

「みんな……」


 日頃から炭鉱夫たちも兄妹のことを可愛がっているのだろう、先ほどまでのおっかない様子はなりを潜め、和やかな笑いに変える。

 だが、ラルはかえって冷静でないのは自分だけだと自省したのか、憤っていた彼は次第にしゅんと肩を落とす。


「……怪我とかないか」

「うん……」

「ならよかった。もう何も言わずに一人で火山に入るな」


 改めて妹の無事を確認し、ラルはマノの肩に手を置く。萎縮していたマノも彼の心配が伝わったのか、互いの表情に安堵が戻った。見守っていたボルツや炭鉱夫たちもほっと息をつく。


 その光景を遠巻きに眺めていたアイは、身を案じ合う兄妹の姿が、不意に記憶の中の景色と重なった。

 ――在りし日の、ヨータとカナだ。

 それに気づいた瞬間、胸を締め付けられ、アイは隣に立つ少女へと視線を移した。


「…………」

「……カナ?」


 彼女もまた、同じように思い出していたのだろうか。いつもマイペースなカナの横顔が、やけに感傷的に見えた気がした。

 


「みなさん、申し訳ありません。先ほどは我々教団が、お見苦しい所を見せてしまって」

「リオウ! そんなことないって。リオウが怒ってくれたおかげでみんなスッキリしたし。

オリカさんも大丈夫?」

「ああ……大したことない」


 騒動がようやく落ち着きを見せた頃、先ほど渦中に立っていたリオウが、オリカとともにアイたちのほうへ声をかける。オリカはまだ片手で頭を押さえている。


「人命救助に彼女の能力が必要で、それが罪滅ぼしと認められれば、釈放を早めてもらえるそうです。彼女には後ですぐに休んでもらいますので」

「そうなんだ……オリカさんがあんなに痛がるなら、相当なもんが隠されてるってこと? しかもリオウたちも知らないような……」

「それを確認する余計な手間が増えてしまいましたが……そちらは私たちが引き取ります。

 アイくんたちは予定通り、火山の異変のほうをお願いします。明日には調査のための深部への入山が可能になりますから」


 先ほどまでのリオウの鬼相を目にし、さすがのアイも少し物々しく感じていたが、今はいつもの温厚な彼に戻っているようだ。穏やかにアイたちに今後のことを説明する。

 向こうのほうでも、周囲を見渡したボルツがパンパン、と手を鳴らす。


「とりあえず、今日ここで起きたことについては、これで解決でいいな。おら、お前らも散った散った」


 ボルツの号令で、炭鉱夫たちや案内所の人々が持ち場に戻っていく。

 ラルもマノを連れてアイたちのほうへ戻ってきたが、ラルの表情は消沈したままだ。


「悪ぃ……なんか、想像以上の面倒ごとに巻き込んで。俺たちも食堂に戻ろうぜ」

「ラルが謝ることないって。妹さんが無事で良かったじゃん」


 アイが笑いかけると、ラルの後ろにいるマノがおずおずと頭を下げる。

 ひとまず、一行は麓町に戻ることにした。


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