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第六話 激闘! 勇者vs大杉大魔王

 長い石段を登った先にその杉の木はあった。

 遠くからでもその威容は見えていたが、間近で見るとその姿は何者をも寄せ付けない神々しさに溢れ、圧倒されそうだ。

 マタロウは巨木の前に立つと叫んだ。

「私は勇者マタロウ。お前を倒すためにここにやって来た。人を苦しめる大杉大魔王よ、覚悟せよ」

「勇者よ、よく来たな。しかし、お前にわしが倒せるかな」

「なにを!」

 腰の銃に手をやるマタロウ。そのマタロウをサルウが押し留めた。

「ちょっと待ちな、マタロウ。お前にばっかりいいカッコはさせないぜ。ここは俺に任せておけ」

 サルウは懐から台湾バナナを取り出すとバクバク食べ始めた。

「よっしゃあ、バナナパワー充電完了。いくぜ」

 食べ終わったバナナの皮を大魔王に投げつけ、新しいバナナを取り出そうと懐に手を入れたサルウの顔色が変わった。

「あれ?」

 ない、ないのだ。武器にするべき次のオサル印の最高級台湾バナナが、どこをどう探しても見つからない。

「し、しまったああ。今のが最後の一本だったんだ」

 いや、牢屋で取り上げられた時に、一本しかない事くらいわかっていたでしょうが、と読者の方々は思うかもしれない。うん、確かにそうだね。でもね、いざ戦いに臨むと、そーゆー冷静な判断ってなかなか出来ないものなんだよ。本番になると上がちゃって簡単なクイズでも間違えちゃうってよくあるでしょ。あれと同じ。


「ふん、見てられないわね、どきなさいよ」

 懐に手を突っ込んだまま茫然自失状態のサルウを片手で追い払うと、キジコはMPプレイヤーを取り出した。イヤホンは頭にはめず、首に掛けたままである。

「たまにはあたしだって目立ちたいのよ。さあ、この狂乱ハードロック『雉も鳴かずば撃たれまい』を聴いて悶絶死するがいいわ」

 キジコはMPプレイヤーを大杉大魔神に向けると、音量マックスにしてプレイボタンを押した。

「……あら?」

 静かだ。遠くでカラスが「アホー、アホー」と鳴いている以外は何も聞こえてこない。

 よく見るとプレイヤーの電源ランプは消えたままだ。

「いや~ん、電池切れ~!」

 ま、電池切れは気づきにくいから、それほど無理な展開じゃないよね。


 サルウに続いてキジコまでもが倒され、遂に三人の中で一番地味なイヌタが前に出た。

「順番でいくと次はボクか。仕方ないなあ。じゃあ必殺うまかあ棒で頑張ってみるよ。その前にサルウお兄ちゃんと同じように、先ずはうまかあ棒を食べてっと……むしゃむしゃ。よしこれでうまかあパワー充電完了。行くぞー! あれ、あれ、あ、しまった。さっきのが最後のうまかあ棒だったんだ。残念、これじゃ戦えないや、てへっ」

「お前、最後の一本だとわかっていて食べただろ」

「えへへ、ばれた?」

「それにしても、そんな激辛のうまかあ棒を食って、よく平気でいられるな」

「うまかあ棒はボクの心の友だからね。どんな味でもボクにとってはおふくろの味なのさ」

 サルウの鋭い突っ込みに笑いで答えるイヌタに底知れぬボケの素質を感じつつ、最後の砦、勇者マタロウが前に出た。

「倒された三人の仇、いまこそ討たせてもらうぞ」

 マタロウは腰に下げた水鉄砲を抜いた。三人の顔色が変わった。

「ば、馬鹿、やめろ。意味ないだろ、それ」

 サルウは素早く花粉除けゴーグルを装着した。

「あんた、正気なの。杉の木に杉花粉浴びせてどうすんのよ」

 キジコは素早く三層鼻マスクを装着した。

「そうだよ~、マタロウお兄ちゃん、頭悪すぎるよ」

 イヌタは素早くスッカリのど飴を口の中に放り込んだ。

 スッカリのど飴? なんじゃそりゃと首を傾げる読者の方々の姿が目に浮かぶ。本来は最初のイヌタ登場シーンで花粉を浴びた時に出てくる予定だったのだ。それが「以下略」の中に埋もれたため、ここでの初登場になった次第である。ご了承願いたい。


「これは勇者の銃。大魔王を倒すにはこれしかない」

 マタロウは胴体右側のボタンをポチッと押すと、以下略。

 ……水鉄砲は集めた花粉を辺り一面に撒き散らした。

「うわ~、喉が、鼻が、くしゃん、ごほごほ」

「いや~、目がかゆい、喉が荒れる、ぐすん、ごほごほ」

「うう~、鼻も目もむずむずする~、くしゃん、ぐすん」

 水鉄砲から撒き散らされた魔族花粉を浴びて、地面をのた打ち回って苦しむ三人の仲間。

 一方、大杉大魔王はびくともしない。

 濃厚な花粉に包まれても悠然としてそびえ立つその姿に、マタロウは愕然とした。

「な、なんという事だ。勇者の銃の必殺技が全く効かないとは」

「勇者よ、お前の頭の悪さは超ド級じゃな。呆れてモノも言えんわい。それよりも仲間をどうにかしてやったらどうじゃ」

 大杉大魔王に言われてマタロウはようやく苦しむ仲間達に気がついた。

「くそ、いつの間にこんな酷い仕打ちを……大杉大魔王、許せん!」

「馬鹿、お前がやったんだろう。いいから、きび団子を早くよこせ」

 サルウに言われてマタロウはランチボックスを開けた。

「やや、いつの間にか残りがひとつになっているぞ」

「な、なんだって!」

「大丈夫だ。三等分してもそれなりの効果はあるはず」

 マタロウは最後のきび団子を三等分して仲間に与えた。

 言葉通りそれなりの効果はあったようで、三人の諸症状はかなり改善された。

「さて、勇者よ、これからどうする。わしは花粉症ではないお前を倒せぬが、お前もその武器ではわしを倒せぬ。勝者も敗者もない戦いに意味はないじゃろう。ここはすっきりと諦めてこのまま村に戻り、温泉にでも入ってご馳走を食べ、卓球などをして遊んでみるというのはどうじゃ。その方が楽しいぞ」

「く、くそ」

 親切な村娘を騙すという破廉恥行為を犯してまでここにやって来たのだ。諦めるなんて事できるはずがない。と言って、このままでは大杉大魔王を倒すことは不可能だ。マタロウは決断した。

「一旦、出直そう」

 マタロウと三人の仲間は大杉大魔王に背を向けて歩き始めた。

 負けたのではない、捲土重来を期しての栄光ある撤退なのだ。


 挫けるな、勇者マタロウ!

 諦めたらそこでこの話は終わりですよ。

 僕らは君を信じてる。その勇姿をもう一度見せてくれ!


 つづく!

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