第五話 御神木の村
マタロウと三人の仲間は大杉大魔王が居るという星印目指して旅を続けていた。
「地図によれば、この辺りなんだが」
「あら、あそこに村があるわ」
キジコが指差す方を見れば、「御神木大杉様の村へようこそ」と書かれた立て札がある。
「大杉があるのは間違いなさそうだが、御神木とは妙だな」
サルウが怪訝な顔していると、立て札の向こうから人がやって来た。
「これはこれは旅人の皆様、ようこそおいでくださいました。ここは良質の温泉、豊かな山菜、新鮮な川魚で評判の村でございます。きっと満足していただけることでしょう」
愛想のいい村人だ。仲間の三人はすっかり湯治気分になってしまった。だが、マタロウだけはどんな時でも使命を忘れない。
「うむ、それは結構なことだ。しかし、我々は物見遊山の旅をしているのではない。打倒大杉大魔王、これが目的なのだ。どうやら君達が御神木と呼んでいる大杉が我々の戦う相手のようだ。さっそくそこまで案内していただきたい」
「な、なんと、大杉様と戦うと!」
マタロウの言葉に、村人は明らかに狼狽している。
「し、しばし、お待ちを」
それだけを言い残して、あたふたと村へ引き返して行った。
しばらくして、さっきの村人が老人と一緒にやって来た。
「旅の皆様、こんにちは。わしはこの村の長でございます。聞けば、大杉様討伐の旅をなさっているとか。そのような方々を一般人と同じようにもてなしては罰が当たります。どうぞ、こちらへお越しください」
「へっへ。特別待遇ってやつか。楽しみだな」
「久し振りに羽根布団でぐっすり眠りたいわね」
「ボクはご馳走が食べたーい」
喜ぶ三人の仲間達。一方、マタロウはいつもと変わらず平然と後を付いて行く。
やがて村はずれのがっしりとした木造の建物の前に五人はやって来た。
「無粋なものを持っていては心行くまで楽しめませぬ。どうぞ、その身に付けた武具を預からせてくださいまし」
村長にそう言われて、マタロウは水鉄砲を、サルウは台湾バナナを、キジコはMPプレイヤーを、イヌタはうまかあ棒を差し出した。
「では、ごゆるりとお楽しみください」
四人を鉄格子のついた部屋の中へ入れると、村長と村人は去って行った。部屋を見回す四人。
「なんだか、牢屋みたいじゃねえか」
「鉄格子がはまっているわね」
「しかも頑丈な錠前まで付いている」
「ここでどんなご馳走を食べさせてくれるのかなあ」
読者の皆さんはとっくにおわかりの事と思うが、ぶっちゃけ牢屋である。
四人にとっては大魔王でも村人にとっては御神木。それも目立った産業もないこの村で、御神木は貴重な観光資源のひとつ。それを倒そうと言うのだから、牢屋に入れられて当然である。
いかに頭の悪い四人でもそれに気づくのに、そう時間はかからなかった。そして気づいた以上、黙っているわけにはいかない。四人は牢屋の中で騒ぎ始めた。
「こら、出せ。この俺様を騙すとはどういう了見だい、こんちくしょう、覚えてろよ。ちょっと、出しなさいよ。羽根布団はどうなったのよ。なに、あの隅っこの煎餅布団。あんなに寝られるわけないじゃない。馬鹿にしないでよ。これは困った、これでは大魔王を倒せぬ。はっ、そうだ、携帯電話があるではないか。今こそ使ってみよう。ごそごそ。おや、表示が圏外になっている。つ、使えねえー。お腹空いたよー、ご馳走食べたいよー、えーん。ボクのうまかあ棒返してよー、えーんえーん」
四人は同時に叫んでいたので、ひとつのカギ括弧の中に一括して書かせていただいた。面倒だとか、手間がかかるとか、そんな理由ではないことだけはご理解いただきたい。
「みなさん、お静かに」
牢屋の外から声が聞こえた。十代半ばと思しき女の子が立っている。その両手には取り上げられた四人の武器が抱えられている。
「みなさんを助けて差し上げます。その代わり、ただひとつだけ約束して欲しい事があります」
「おおー!」
四人は同時に歓声を上げた。四人とも同じ言葉だったので、四回書かずに済んだのがなによりである。
「娘よ、かたじけない。して、その約束事とは何か?」
「御神木の大杉様と戦う事はせず、このまま村を出て欲しいのです」
「な、なんと!」
またしても四人とも同じ言葉だったので以下略。
「おい、どうする、マタロウ」
サルウに訊かれてもマタロウは即答出来なかった。この旅の目的は大魔王を倒す事、それを諦めるのではこれまでの旅が無意味なものになってしまう。と言って、このまま牢屋に留まっていては大魔王に近づく事さえ出来ぬ。マタロウは決断した。
「わかった。その条件、飲むとしよう」
「お、おいおい、本当にいいのか」
「あら、意外と諦めやすい性格なのね」
「どうでもいいよ。早くここを出てご馳走を食べよう」
村娘はマタロウの返事を聞いて嬉しそうな顔をすると、抱えていた四人の武器を床に置き、牢屋の鍵を開けた。
四人は外に出るとそれぞれの武器を手に取った。準備を整えたマタロウが言う。
「よし、では大杉大魔王討伐に出発するぞ」
「ええっ!」
この「ええっ!」はマタロウを除く四人の言葉である。特に一番大きな声を発したのは村娘だった。
「ゆ、勇者様、今、大杉様とは戦わぬと約束なさったではありませぬか」
「ああ、あれ。あれは嘘」
「そ、そんな、勇者様ともあろうお方が、人を騙すなんて……」
ショックで顔が蒼ざめる村娘。当然の如く三人の仲間は非難ごうごうである。
「おい、マタロウ、お前最低だぞ」
「こんなクズ人間だとは思わなかったわ」
「どうでもいいから、早くご馳走食べようよ」
「みんな、うるさいぞ。嘘も方便と言うではないか。目的の為なら手段を選ばぬ。それが勇者の生きる道」
「ひ、ひどい、ひどすぎます。みなさんのために村人を裏切ってまで助けようとしたのに、それなのに……うう、うわーん!」
村娘は泣きながら走り去ってしまった。その後ろ姿を呆然と見送る四人。
「あーあ、可哀想になあ。あの娘、きっと人間不信に陥るぞ」
「そうよ、もう男なんて信じない、死ぬまで操を守りますなんて言い出しかねないわね」
「あのお姉ちゃん、お料理が上手だといいね」
「さあ、お喋りはそれくらいにして、出発するぞ」
四人は建物の外へ出ると御神木がある神社へ向かった。
遂に大杉大魔王との決戦の時は来た。
必勝あるのみ、勇者マタロウ!
つづく!




