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第二話 勇者旅立ち

「まあ、そんな訳で君が勇者に選ばれました。よろしくです」

「は、はあ」

 玉座のイノッセ国王の前に所在無くたたずむ少年は、なんとも自信なさげにそう返事をした。学生服と背格好から高校生のようだ。

「あ、すみません、ひとついいですか?」

「何かね?」

「あの、どうして僕が勇者になったんでしょうか?」

「適当に決めさせていただきました」

「適当、ですか?」

「うん!」

 適当って、そんな決め方でいいのかなあと思わないでもないのだが、世の中、適当に決められることは多々あると聞いていることだし、まあ、長いものには巻かれろの格言に従って、ここはひとつ頑張ってみようかなと、長年眠らせておいた勇気なんてものを、ちょこっとだけ奮い立たせてみたりする少年であった。


「そんじゃ、よろしく」

 イノッセ国王はあっさりそう言うと玉座を立ち、部屋を出て行こうとする。少年は慌てて引き止めた。

「す、すみません、ちょっと待ってください。いきなりよろしくって言われても、とても自信がないですよ。だって僕、魔族と戦ったことなんてないし、頭もそんなに良くないし、走るの早くないし、食べるの遅いし、名前も魔太郎なんて魔族みたいな名だし、女の子にもモテないし、タコよりイカが好きだし、でもタコ焼きは好きだし、花粉症じゃないし……そんな僕が大杉大魔王に勝てるでしょうか」

「君、最後に、物凄く重要な事をシレっと言ったでしょ」

 イノッセ国王は両手で少年の頭を掴むと、目を吊り上げて言った。

「困るんだよ、まだお話の序盤でそんなネタバレしちゃったらさ。って言うか、これでもうこのお話のオチが見えちゃったじゃん。さっき、適当に選んだんだよ~って、うまいことかわしたのに、せっかくの苦労が水の泡だよ。君、主人公なんだから、もう少し自分の言動に責任持ってくれないかなあ」

「ご、ごめんなさい。でも僕、本当に自信がなくて」

「ふ、君のような素人を丸腰で行かせる訳がないだろう。おーい、パンパン」

 最後の「パンパン」はイノッセ国王が手を叩いた音であって、話し言葉ではない。面倒なので続けてカギ括弧の中に書かせていただいた。


 手を叩く音を合図に玉座の間の右側の扉が開くと、ひとりの従僕がワゴンを押して部屋の中に入ってきた。そして少年の前に立ち止まると、ワゴンの上に載せてあるモノを手に取り、説明を始めた。

「はい、最初はこれ。大魔王へたどり着くための地図だよ。ここんとこ、そうその星印、それが大魔王の居る場所。そんでその前に点々と三つ花丸があるっしょ。それは味方になってくれそうな人が居る場所。まあ、一応こっちからもそれなりに根回ししてあるんで、すぐに仲間になってくれると思うよ。はい、受け取って」

 従僕は古紙百%利用のA四コピー用再生紙を少年に手渡した。

「えっと、それからこれはきび団子ね。防腐剤、酸化防止剤、保存料、殺菌料を思いっきりブチこんであるから、そのままでも一ヶ月は持つよ。お腹空いたら食べてね」

 従僕は百均で売っていそうな安っぽいランチボックスを少年に手渡した。ショルダーベルトが付いているので、左の肩に斜め掛けにする。

「で、こいつが今回のメイン、勇者の銃だよ。こんなの所持していると本来なら銃刀法違反で即逮捕なんだけど、この銃には弾丸がこめられないから大丈夫。安心して使ってね」

 従僕は子供用水鉄砲みたいな勇者の銃を少年に手渡した。ガンベルトが付いているので腰に回して右側にぶら下げる。

「以上です。健闘を祈ります」

 従僕は渡すものを渡してしまうと、入ってきた時と同じ扉から部屋を出て行った。


 手に地図を持ち、ランチボックスを肩に掛け、腰に水鉄砲をぶら下げた少年の姿を見て、イノッセ国王がにんまりとする。

「ほほう、見違えたな。なかなか勇者らしくなったではないか」

「いや、どう見ても何かのイベントの宝探し大会に参加する中学生って感じだと思いますけど」

「勇者らしくなったところで、私からもひとつ手向けの品を渡すとするかな」

 少年の意見は完全に無視してイノッセ国王はネックストラップ付きの携帯電話を少年に手渡した。ボタンが三つあるだけでテンキーも文字キーもない携帯電話だ。

「これは国家の重要任務を担った者だけに与えられる特注の携帯電話だ。ボタンが三つ付いているだろう。一番目のボタンを押せば私の携帯(K社)に即座に繋がる。二番目のボタンを押せば私の携帯(S社)に即座に繋がる。三番目のボタンを押せば私の携帯(N社)に即座に繋がる。それ以外の番号には掛けられない。どうだ、便利だろう」

「国王に掛けるには便利ですけど、他の人に用事がある時は不便ですね。って言うか、ボタン三つも要らんでしょ」

「三人寄れば文殊の知恵。矢も三本あれば容易には折れぬ。携帯も三社と契約していれば、いざと言うとき安心なのだ。私とお喋りしたくなったらいつでもボタンを押しなさい」

 多分、使わないだろうなあと思いながら少年は携帯電話を首に掛けた。ついでに最初に渡された地図も折り畳んでポケットに仕舞いこんだ。

 イノッセ国王はそれを見届けると声高に言った。

「準備万端整った今、あとは出発するだけだ。さあ、行くがよい、勇者魔太郎……魔太郎? なんだか不吉な名前だな」

「ですから、最初に言ったじゃないですか。魔族みたいな名前だって」

「魔太郎か。確かに魔族っぽいな。勇者がこんな名前じゃ読者も感情移入しにくいだろう。はて、どうするかな、うーん、うーん……そうだ、これからは魔太郎ではなく、マタロウと名乗るがよい」

「魔太郎ではなくマタロウ」

 会話の中で魔太郎とマタロウを区別するのは、どう考えても不可能である。だが、そこは国王と勇者の阿吽の呼吸。漢字とカタカナを声で区別できるだけの意思疎通能力を、この時、二人は獲得していたのだ。

「そうだ、勇者マタロウ、今こそ旅立て。そして大魔王を倒すのだ」

「わかりました。イノッセ国王、勇者マタロウの名に掛けて、必ず大杉大魔王を倒してみせましょう」

 マタロウは力強く宣言すると玉座の間を出て行った。


 勇者マタロウの大魔王討伐の旅が、今、始まる。


 つづく!

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