013 人間は皆〝役者〟
「パーラちゃん?」
『やー。キャメルの知り合いだって言うからさ~、ちょっと大人の意地見せようと思ったけど負けちまった!!』
「話の流れがさっぱり分からないんだけど」
「パーラ?」
その言葉に反応したのは、隣にいるキャメルだった。
「知り合いですか? お姉ちゃん」
「友だちだわ。ゲームとアニメが大好きな、獣娘よ」
「獣娘」ポカンと口を開けてしまう。「ああ、いや。アンゲルスじゃありふれた存在ですもんね」咄嗟に知りもしないことを口走る。
当たり前だが、獣娘なんて空想の存在だと思っていた。しかしここは異世界。そういうのがいてもおかしくない。それに、キャメルの態度的に特段珍しくないのも分かる。
「で、お父さん。いつまでそこにいるつもり? 私、お金持っていないんだけど」
『ああ、すぐ向かう。パーラちゃん、また今度な!』
電話は切られた。ルーシはキャメルに、なんとなく訊いてみる。
「キャメルお姉ちゃんって、ゲームとか好きなんですか?」
「ゲームはそんなにしないわ。でも……」
「でも?」
「……早朝の女児向けアニメが好きなのよ、私」
恥ずかしそうな表情で、そんなことをのたまう。
(は? ガキ向けのアニメが好き?)と訝ってしまう。「なるほど。それでパーラちゃんと話が合うと」
「それもあるけれど、パーラは放っておけないのよ。放っておくと、誰かの食べ物にされてしまう」
「いじめられているってことですか? それをキャメルお姉ちゃんが守っていると」
「まあ、そういうことになるわね」キャメルは一旦言葉を区切る。「でも、あの子がひとりで外出するなんて珍しいわ。メントでもいるのかしら」
「メント?」
先ほど吹き飛ばした緑髪の少女が、脳裏をよぎったのは気の所為だろうか。
「緑髪で筋肉質の体育会系の子よ。MIH学園ではそれなりに強いほうだけど、いつも格上に挑んで泣きじゃくるの。私も3回くらい模擬戦したのよね」
(やはり、あのガキか。こりゃあ、クールがレツを連れてきたら面倒になりそうだな……)
「だけど、全部勝ったんでしょ? キャメルお姉ちゃんは強そうだし」
「……。まあ、お兄様がいなければ、そう言われて鼻の下を伸ばしていたかもね」
キャメルの根底に潜む、兄への劣等感。なぜそれが禁断の恋につながるのかは分からない。分からないが、愛憎半ばといったところなのか。
「キャメルお姉ちゃん」
「なにかしら?」
苦虫を噛みつぶしたような表情だったキャメルへ、ルーシは言う。
「私のお父さんに憧れるのを、やめたほうが良いのでは?」
「え?」
「クール・レイノルズという男は強すぎる。きっと、この国どころか世界でも有数なほどに。だから、憧れるのも無理はない。だけど、焦がれるだけじゃ越すことはできないですよ」ルーシは火がついたように言う。「キャメルお姉ちゃんには、キャメル・レイノルズという役がある。それを演じきることが、お父さんを越える方法だと思います」
「キャメル・レイノルズという役割……」
「そう。所詮10歳児の戯言だと思ってくれても結構ですが、私はそう思っています」
どう考えても10歳児の言うことではないが、キャメルは反論できない。それがすべてだろう。
と、話し込んでいれば、
「おお、待たせたな」
クール・レイノルズがやってきた。キャメルは彼を一瞥するが、やがて目をそらしてしまう。ルーシが語ったことをどう捉えたのかは分からないが、彼女なりに思うこともあるのだろう。
そんなクールの背後から、少女が現れた。おそらく、パーラという少女だ。
金髪のロングヘア、猫耳、赤い目、ルーシやキャメルよりやや高い身長。愛嬌たっぷりの表情。そんな子だ。
「キャメルちゃん!」
「あ、ええ。パーラ」
「キャメルちゃんがいるってクールさんが言うから、着いてきちゃった! せっかくデパートにいるんだから、アニメグッズ買いに行こうよ! ……あれ?」
パーラは、ルーシを眼中に捉える。
「そこの子、誰?」
ルーシは適当に返事する。
「ええ、ルーシ・レイノルズと申します」
「えーっ!? キャメルちゃんの妹?」
「いや、歳は6歳くらいしか変わらないですが、叔母と姪の関係です」
「ってことは、クールさんの娘さん?」
「そうですね」
16歳か17歳のガキ相手に、へりくだるのも一興なのかもしれない。ルーシは薄く邪気のない笑みを見せ、そしてパーラの目をしっかり見据える。
「んー、良く分かんね! でも、ふたつ言って良い?」
「なんですか?」
「敬語使わないでよ! 私、誰かから敬語使われるの、苦手だし! あと、ルーちゃんって呼んで良い?」
「ああ、うん。良いよ」ぶっきらぼうだ。
「じゃあ、ルーちゃん! さっきメントちゃんって友だちからさ、銀髪の幼女にぶっ飛ばされたって訊いたんだけど、それってルーちゃんがやったの?」
「まあ、正当防衛ってヤツだよ」
「だったら良いや! メントちゃんも短気だからさ〜。すぐヒトに喧嘩売るんだよね〜。いつか痛い目見る、というか、いつも痛い目見てるのに、学習しないんだから!」
(友だちなんだよな? なんでそんなフランクにけなせるんだ?)
「どうしたの~?」
「いや、友だちは大事にしたほうが──」
「大事にしてるよ〜。メントちゃん、私がいなきゃ駄目なんだから! ところでさ、ルーちゃん」
「なに?」
「せっかく可愛いんだから、もっと派手な服着てみたら? なんなら私といっしょに服買おうよ!」
会話が苦手なのだな、とルーシは心の中で毒づく。まあ、きょうデパートに来たのは服を買うためだし、パーラの私服は高校生相応のおしゃれさを持っている。ここは彼女に着いていくのが賢明かもしれない。
「そうしようか。ああ、お父さん。この学生服で良いや。ここの部分が焼かれちゃっているからさ」
「あたぼうだ。元の服に着替え直しな」
「うん、ありがとう」




