012 役者たち
ルーシは着替え終わり、いよいよ骨格が女児らしくなっていることを知る。一番小さいサイズの制服を持っていたのは間違いでなかったようだ。
(鏡に銃弾撃ちてェくらい似合っているな……。なんで私、いや、おれはこうなっちまったんだ?)
文句のひとつや100個つけたくなるが、もう愚痴る相手もいない。ここは異世界であり、前世の盟友は誰ひとりいないからだ。
「着替えたよ~」
「おう、見せてくれ~」
ルーシはカーテンを開ける。
ふたりは驚愕したかのように、口を開けていた。
クール。彼はロリコンの気はないようだが、ここまで似合うとも思っていなかったのだろう。しばし言葉を失っていた。
そして、キャメル。
「か、可愛い……」
口を手で塞ぎ、まさしく驚嘆したかのような態度だった。キャメルも美人だが、その分余計にルーシの美しさに息を呑むしかない。
「可愛いなんて……、とんでもないです」
ルーシは照れているような態度を醸し出す。
ただ、腹の中は煮えくり返りそうだった。可愛いと言われて喜ぶ25歳男性なんて、そうはいない。確かにルーシは大罪人かもしれないが、それにしたってこの仕打ちはないだろうと。
「ま、合うサイズがあって良かったです。私、ちょっとお手洗いに行ってきます」
そんな苛立ちを消火させる方法、そんなのは決まっている。タバコだ。もう匂いでキャメルに勘づかれても良い。タバコが吸いたい。それだけだ。
「あ、うん。いってらっしゃい──って、もういなくなっちゃった……」
「アイツ、足速いんだな」
全力疾走で、屋上にある喫煙所へ向かっていく。
*
「誰もいないのか」
なお、ルーシは試着したままここに来た。さすがに、この見た目と学生服で喫煙は如何なものだが、誰もいないのなら気にすることもない。
「はあ」
慣れた手つきでタバコをくわえ、ルーシはライターを探す。
が、どこにもない。どうやら試着室に置いてきてしまったようだ。
仕方ないので、誰かいないか探してみる。
そうすると、
(あァ? なんでMIH学園の制服着た女子がいるんだよ?)
黒いショートヘア、大きめの丸メガネ、陰気な雰囲気、猫背、物憂げな表情、至って普通の顔立ち、160センチくらいの身長。
そんな少女が、タバコを堂々とふかしていた。
ルーシはその少女に近づき、「火をください」と言ってみる。
「は?」
「は、じゃないでしょ。ライター持っていますか、って意味ですよ」
「アンタ、自分の顔と身長と服装見たことある?」
「ありますよ。嫌なくらいに」
「……、はい」
「どうも」
露骨に怪訝そうな顔をされながら、ライターは貸してもらえた。
「メイド・イン・ヘブン学園の生徒さんですか?」
「まあ」
「キャメル・レイノルズって生徒をご存知で?」
「ウチの首席でしょ?」
「私が、そのキャメルお姉ちゃんの親戚だと言ったら?」
「はあ? キャメルに妹はいないって訊いたけど」
「いや、キャメルお姉ちゃんは叔母です。私の父は、クール・レイノルズですから」
その少女は、タバコを落とした。
「く、クールさんの娘? いまや伝説になってる、クールさんの?」
やはりクールは伝説の存在らしい。これで確証を得られた。これで、契約金とやらにありつける。
「そうです。いっしょに写っている写真でも見せましょうか?」
「いや、良い……。アンタ、名前は?」
「ルーシ・レイノルズです」
「私はメリット。これでも、MIH学園じゃそれなりに有名人──」
そんな話をしている最中、
「おぉ!! 根暗!!」
と、割れんばかりの大声を張り上げる女が現れた。
髪は緑色。この国ではありふれた色だ。目は三白眼。すこし強面な印象を持つ。身体は筋肉質で、身長は170センチを越えているように見える。
「ここで会ったのが運の尽きだな! この前は変な魔術で負けたけど、ランクCの落ちこぼれに負けっぱなしじゃ終われないよなぁ!!」
ルーシは首を横に振り、その場から立ち去ろうとする。面倒事はゴメンだし、なんとなく、キャメルの前では猫を被っているほうが良さそうな気がするからだった。
「はあ……。アンタ、サシでやるって言って負けて泣きじゃくったの、もう忘れたの?」
「おま、それだけは言うなよ!! だ、だいたい、泣いてなんかいないし」
「誰がどう見ても泣いてたでしょ。おかげで停学くらいそうになったんだから」
ルーシはタバコを吸い終わり、いよいよ立ち上がり、クールとキャメルの元へ向かおうとした。
そのとき、
「……あァ?」
シュー……と、借り物の学生服の袖が抉れた。メリットがやったわけではなさそうだ。やったのは、目の前にいる緑髪だろう。
「うるせえ!! もう一回タイマン張れよ!! 張るって言わないと、喫煙バラすぞ──!?」
瞬間、ルーシは彼女との間合いを狭めた。緑髪の少女はそもそも反応しきれていないが、もはや関係ない。
「てめェ、借りている学生服に穴空けるんじゃねェよ……!」
怒りの口調でそう言い放ち、ルーシは緑髪の少女の額にデコピンをくらわす。それだけの動作で、彼女は遠く離れたエレベーター方面まで吹き飛ばされた。
ヒトが降りてきて、騒ぎになり始めた頃、ルーシは深い溜め息をつき、メリットへ一言告げる。
「では、MIH学園で会おう」
これに驚くのは、当然メリットだ。
「あ、アンタ。なんの魔術で……」
「愛と平和の魔法だよ。ああ、クソ。これ買うしかないじゃないか」
「いや、そんなことよりも──」
「そんなことのほうが大事だ。メリット、あまり敵を作らないほうが良いぞ」
そう忠告し、ルーシはピヨピヨしている緑髪の少女を尻目にエレベーターへ乗った。
*
「遅かったわね。なにかあったの?」
「いや、不良? に絡まれまして」
「えっ!? 大丈夫だったの!?」
「大丈夫じゃないですよ。借りていた制服が破けちゃって」
「あ、いや、そういう話じゃないのよね……」
制服売り場に戻ってきたルーシは、適当にキャメルと話す。どうせクールは、キャメルと1対1でいるのが嫌になってどこかへ逃げたのだろう。ルーシは仕方なく、クールへ電話する。
「もしもし、お父さん? 不良に絡まれて制服破けちゃった。店員さんに申し訳ない、というか、倫理的な意味でこの服買いたいな」
『ちょっと待ってろ。このレースゲームが意外と面白れェんだ……うおッ!! パーラちゃん強いなぁ!』




