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9 美味しいお菓子

翌日、ハインリッヒ様に私は一枚のメモ用紙を見せた。


「見てくださいこれ。迎賓館御用達のお菓子の店ですよ。お菓子があまりに美味しいのでお店を教えてもらいました」


 店の名前が書かれたメモ用紙を見てハインリッヒ様は眉を顰める。


「それはよかったね」

「なので、クロード様の別荘に行く前にお菓子屋に寄りましょう」


 私の提案をハインリッヒ様は即却下する。


「帰りによればいいだろう。朝からお菓子なんて買ってどうするんだ」

「だって本当に美味しいお菓子なんですよ。きっと午前中で売り切れる人気の品物もあるかもしれません。こんな素晴らしいお菓子はそうそう出会えませんよ」

 すがる私をハインリッヒ様はうざったそうに突き放した。


「お菓子なんてどれも同じだろう」

「違いますよ。王都のお菓子屋さんは豪華で美味しいですけれど、ここのお菓子はそうですねセリーヌ様のお屋敷で出されたおやつと同じ味がします。とにかく私好みなんです」


 ハインリッヒ様は動きを止めて私を見た。


「姉上のお菓子は執事のセドリックが作っている。それと同じ味……」


 呆然としたようにセドリック様はゆっくりと私の手からメモ帳を取った。


「どうしたんですか?」

「執事のセドリックは、シャルル領の出身だ。クロード殿が姉上と結婚する前にスカウトして雇ったと聞いたことがある」


「セドリックさんの親戚の方がやっている店ですかね。話を聞きにいきましょうよ。名探偵は些細な情報も必要なんですよ」


 私の提案にハインリッヒ様は仕方なく頷いてくれた。


 王家の馬車でお菓子屋へ行くと、店員がすっ飛んで出てきた。

 さすが王家の効果だ。

 馬車を降りる頃には店員が全員並んで私とハインリッヒ様を出迎えてくれた。

 予想外の対応に私は引き攣って笑みを浮かべるがハインリッヒ様は慣れているようで無表情に口を開いた。


「突然すまないね。連れの者がお菓子を気に入って、店を見てみたいと言っていてね」


 私の父親ぐらいの年齢だろうか、一人の男性が頭を下げた。


「ありがたいことです。どうぞお入りください。田舎なので大した店ではありませんが」


 謙遜しているが、田舎にしては立派な店だ。

 店内にはテーブルがありお茶とお菓子が楽しめるようになっているようだ。

 その奥へと向かうとケーキやクッキー、マカロンなどが並んでおりバターのいい香りが鼻をついた。


「いい香りー」


 胸いっぱいに空気を吸い込んで私はマカロンを指差した。


「とりあえず、マカロンをあるだけ頂きたいです」


 出ているだけの商品を買おうとしている私をハインリッヒ様は信じられないような瞳で見つめてくる。

 店員も驚きながら確認をしてくる。


「はぁ、何個にお分けしましょうか?」

 

 侍女が誰かに差し入れだと思われたのだろう、聞いてくる店に私は首を振る。


「一つでいいです。私一人で食べるんですもの」


 私の言葉に店員は驚きならも丁寧に商品を包んでくれた。

 丁寧にラッピングされていくマカロンを眺めならが私は店員の男性に問いかけた。


「私、セリーヌ様のお屋敷で食べたマカロンが世界で一番美味しいと思っているのだけれど、同じ味がするんです。もしかして、セリーヌ様のお屋敷で働いているセドリックさんのお弟子さんだったりするんですか?」


「あぁ、そうでしたか。セドリックは私の父です。お菓子作りが得意でして、父から私は直接教えていただいたのですよ。まぁ、弟子と言ったらそうですかね」


 まさかの答えに私とハインリッヒ様はお互い顔を見合わせる。

 ハインリッヒ様は丁寧に問いかけた。


「まさかここでセドリックのご家族に会えるとは思わなかった。セドリックは今療養中でこちらに帰っていると聞いているが」

 

「はい。父は腰を痛めて今自宅で療養をしております。ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」


 謝ってくる男性にハインリッヒ様は首を振った。


「ゆっくり休んでくれと姉上も言っていたよ。ところで、ご家族は他にもいるのかい?連れがお菓子を気に入っていて王都にもお菓子屋があればいいのにと言っていてね、もしかしたら他に店を出す予定があったりするのかな」


 にこやかに言いながらハインリッヒ様は何故か私の肩に手を置いた。

 私も笑みを浮かべて頷く。


「いやぁ、うちは娘が一人なもので今の所予定はありませんが。婿でも貰ってそいつが継いでくれれば考えますがねぇ」


 そう言ってチラリと店内にいる女性を見つめた。

 男性に釣られて私とハインリッヒ様もその女性を見つめる。

 小柄で可愛らしい女性はハインリッヒ様にみられたことが恥ずかしいのか俯いてしまった。


 



 綺麗にラッピングされたマカロンを膝に乗せて私は笑みを見せる。


「やっぱり収穫がありましたね」


 私たちは馬車でクロード伯爵の別荘へ向かっている。

 ほくほく笑う私に、ハインリッヒ様は頷く。


「そうだね。僕が思うに、クロード殿が最低の人間だとしたら、セドリックの孫の可愛い女の子に手を出しているね」


 まさかの言葉に私はマカロンを開けようとした手を止めた。


「えっ?そんな無節操に手を出しますか?クロード伯爵って結構なおじさんですよね」


「おじさんね……。今年38歳だ。まだまだ若いよ」


 私からしたらおじさんの部類に入るが、もしクロード伯爵がセドリックさんの孫に手を出していたら?

 私は閃いて人差し指を立てた。


「わかったわ!犯人はセドリックさんよ。目に入れても痛くない孫をクロード伯爵に手籠にされた。その腹いせに殺したってところね」

「ただ、どうやってその可愛い孫が二人きりで会う約束をしたんだろうか。あのお孫さんはクロード殿と会ってもいいことなんてないだろう」


 顎に手を当てて考えているハインリッヒ様に私はニヤリと笑う。


「それはセドリック様に恋をした女性ではないからってことですか?セドリック様はここに来た事があるんですか?」


「いや初めてだね」


「と言うことは、セドリック様との結婚を出しにて声をかけたは無しってことですね。あの子の様子からしてとてもクロード様に手籠にされたようには見えなかったけれど」


 セドリック様を見て恥ずかしそうに俯いた可愛い女性を思い出して私はつぶやいた。


「それは女性の勘かい?クロード殿の好みの女性だと思う。小さくて気弱でふわふわしている女性だ」


「確かにそうですけれど……。前から思っていましたけれど、セドリック様ってクロード伯爵の女性の好みを的確に見抜きますよね。もしかして同じ趣味なんですか?」


 私の疑いの瞳にハインリッヒ様はムッとしたように首を振った。


「まさか。前も言っただろう、か弱い女性はあまり好きではない」


 馬車が音を立てて止まった。

 小高い丘に建てられたクロード伯爵の別荘へといつの間にか辿り着いていた。

 ハインリッヒ様は馬車を降りると当たり前のように私をエスコートしてくれる。

 本物の王子様にお姫様のように扱われるのは気分が良い。

 初めは戸惑ったものの今では慣れたものだ。

 差し出されたハインリッヒ様の手に私の手を乗せてゆっくりと馬車から降りた。


「さぁ、証拠を探しましょう。名探偵の私がきたからには間違いなく犯罪を暴きますよ!」


 自信を持って言う私にハインリッヒ様はため息をつく。


「令嬢らしくない振る舞いだね。もう少しお淑やかにしたらどうなんだい」


 クリード様の別荘は木造の落ち着いたお屋敷だった。

 さほど広くなく、広いリビングルームと書斎、執務室とゲストルームが何部屋かあるようだった。


「僕とエミリア嬢は執務室と書斎を捜索する。君たちはその他を捜索してくれるかな」


 ハインリッヒ様は面倒くさそうに護衛騎士の二人に言った。

 


 

 

 


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