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「俺からいいものを貸し出しましょう」


 バルダー騎士団長はそういうと紙の束をテーブルの上に置いた。


「なんですか?」


 私が聞くと団長は面白そうに私に紙の束を渡してくる。

 ずっしりとした重みがある紙の束をパラパラとめくるとかなりの人数の調書だということがわかった。

 名前と、年齢、クロード伯爵とどういう関係だったかが書かれている。

 かなりの個人情報に私は驚いて紙を閉じた。


「いやいや、これ私が見ていいものじゃないですよ」

「そうだな。これがないと調査もできねぇだろ。まぁ、適当にやってください。期待していますよハインリッヒ様」


 騎士団長はそういうと席を立ち上がった。

 ハインリッヒ様は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「俺は仕事があるんでこれで失礼します。騎士団も忙しいんですよ」


 騎士団長は言い残すと部屋を出て行った。

 セリーヌ様は私をキッと見つめる。


「騎士団はやる気がないのよ。このままでは殺人犯もわからないし、下手したら私がやったって噂が流れるわよ」


「まさか……」


「私はクロードに愛なんてとっくに無くなっているし興味もなかったけれど、世間では女に手を出している夫を憎んでいる妻と思われているのよ」


「そうなんですか?でも流石に殺しはしませんよね」


 セリーヌ様とクロード様はお互い愛し合っていると思っていたのに本当にがっかりしてしまう。

 確認するように私がいうがセリーヌ様は口の端を上げた。


「どうかしらね。って言いたいけれど、あの男を殺して牢獄に入るなんてバカなことはしないわよ」


 かなり憎んでいる様子が声色から窺える。

 頷いて騎士団長が置いていった資料をめくった。


「この中に犯人がいるといいですね」


「なぜ僕が犯人探しをしないといけないんだ」


 ハインリッヒ様は不服そうに隣に座るセリーヌ様を見つめる。


「姉を助けなさいよ。それにハインリッヒなら調査がしやすいでしょう。王族特権でなんでもできるわよ」


「それなら姉上とエミリア嬢がやればいいだろう」


 ハインリッヒ様はどうしても犯人探しをしたくないようだ。

 投げやりな様子のハインリッヒ様をセリーヌ様は睨みつけた。


「あなたも容疑者なのよ。世間ではクロードをとうとう殺したのねって噂されているのよ。そんなの我慢できるの?」


「それを言われるのは姉上だろう」


「ハインリッヒはどうやら姉のことが好きすぎて結婚しないらしいって噂されているの知っているかしら?」


 紅茶を優雅に飲んでいたハインリッヒ様はセリーヌ様の言葉に驚いて咳き込んだ。


「あ、私もその話聞いたことがあります。お姉様が好きだから28歳になってもご結婚されないんだって。だからハインリッヒ様と結婚するのを諦めた女性たちが多いいんですよね」


「なんだその噂は」


 セリーヌ様と私の言葉にハインリッヒ様は美しい眉を顰める。

 どんな顔をしても美しいのだなと思いながら私は頷く。


「有名ですよ。お姉様が心配だから年中お屋敷に行っているって」


「それは姉上が僕を呼びつけるからだろう。そして毎回クロード殿の話を聞かされているのに、姉上が好きすぎるだって?身内だから心配はするが、好きすぎるってどう言うことだ?」


 珍しく怒りを露わにしているハインリッヒ様にセリーヌ様は微笑んだ。


「大好きなお姉様が可哀想だから女遊びばかりしているクロードを殺したのよね」

「違う。心外だ」


 明らかにムッとしているハインリッヒ様は私に視線を向ける。


「真犯人を探そう。間違いなくクロード殿に無理やり愛人契約をされた女性かその関係者だろう」


 突然やる気を出したハインリッヒ様に私は頷いた。

 憧れのハインリッヒ様と調査ができるなんて嬉しくて私は大きく頷いた。



 クロード伯爵と関係があったと思われる女性たちの名前が載っている紙をペラペラとめくる。

 一応騎士団が話を聞いている人もいれば、まだ未調査の人も混じっておりかなりの数の名前を見て私はため息をついた。


「これ、1人ずつ確認しますか?」


「時間が足りないだろう。クロード殿の趣味は若くて小さな可愛らしい女性だ」


 ハインリッヒ様も騎士団長が置いていった調査の紙の半分を手に取って眺めている。


「これだけ女性に声をかけていてよく変な噂になりませんでしたね。私、全然知りませんでしたよ」

「お金を積んで外に出ないようにしていた事もあったようだが、女性たちは結婚できなくなる恐れもあるから騒がなかったのだろう」


 ハインリッヒ様は顔を顰めながら隣に座るセリーヌ様をみる。

 セリーヌ様はこめかみを撫でながら眉を顰めた。


「聞いているだけで具合が悪くなってくるわ。見てみぬふりをしていたけれど、こうして話に聞くだけでおぞましい男ね。事件が一段落したらその女性たちにきちんと謝罪をしましょう」


「それがいいだろうね」


 ハインリッヒ様は頷きながら数枚の紙を取り出して私に渡してくる。

 お茶会に参加していた女性たちだ。


「あの日、違和感を感じた女性たちだ」


「違和感ですか?」


 私には普通の女性たちに見えたがハインリッヒ様の目にはそう映らなかったようだ。


「早いうちに話を聞きに行こう」

「はい」


 私は元気よく頷いた。



 大量の資料を見たおかげかかなり疲労をして帰宅するとまた上機嫌の母親が待ち構えてきた。


「どう?今日もハインリッヒ様とお会いしたの?進展はあったかしら?」

「私、ハインリッヒ様と事件の調査をするわ」


 意気揚々と言う私に母親は首を傾げる。


「何を言っているの?事件なんて騎士団に任せておきなさい。王家直属の騎士団の方が調査なさっているんでしょう?」


「その騎士団長が忙しいんですって。ハインリッヒ様とセリーヌ様は自分たちが犯人扱いされるんじゃないかって心配していたわ。だから犯人らしき人を探すのよ」


「よくわからないけれど、エミリアがハインリッヒ様とお近づきになれるのなら良かったわね」


 娘が殺人事件の調査をすると言っているのに母親は心配ではないようだ。

 むしろ、ハインリッヒ様との仲を期待しているあたり私と血が繋がっているなと感じる。


「やっとサスペンスドラマっぽくなってきたわ」


 握り拳を作っている私に母親は首を傾げた。


「あなた何を言っているの?」


「……本当、私、何を言っているのかしら」


 たまに意図しない言葉が出てきて自分でも不思議になる。


 

 

 

 


 

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