4 犯人探しを請け負います
数日後私はセリーヌ様に呼ばれてお屋敷へとやってきていた。
お茶会の時とは違い、ガラス張りのサロンのような部屋へと通される。
太陽が差し込み暖かい部屋には観葉植物が大量に置かれており植物園のようだ。
部屋にはセリーヌ様の姿はなく代わりにハインリッヒ様が迎えてくれた。
「ハインリッヒ様もいらっしゃったんですね」
喜んでいる私にハインリッヒ様は頷いた。
「姉に呼ばれてね。それにエミリア嬢も気になっていたから、体調は問題ないか?」
「ご心配ありがとうございます。すごぶる元気です、あれ以来変なことを思い出すこともありません」
「それはよかった」
ハインリッヒ様は私に座るように進めると、自らもテーブルを挟んだ前に座る。
すぐに侍女がお茶を私の前に置いてくれた。
できればお菓子も置いていって欲しいが、こんな時だ私は我慢をしてお茶を一口飲んだ。
「あの、セリーヌ様は?」
ハインリッヒ様と二人きりという状態にドキドキしながら聞くと、すぐにドアが開きセリーヌ様が入ってくる。
その後ろにはなぜかバルダー騎士団長の姿もあった。
「エミリア嬢、突然お呼びして御免なさいね」
この数日でセリーヌ様は憔悴しきった様子でハインリッヒ様の隣に座ると私に軽く頭を下げる。
私は軽く首を振る。
「とんでもありません。あの、この度は大変でしたね」
なんて言っていいかわからず私はセリーヌ様に労りの言葉をかけた。
私の脳裏には、セリーヌ様の夫が実は女に手を出していた、愛人がいたなど通り過ぎていき危うく言葉に出そうになる。
そんな私の心情を察してかセリーヌ様はため息をついた。
「大変だったわ。もう、エミリア嬢しか信用できないわ」
「それはどう言うことですか?」
私が聞くとセリーヌ様より早くバルダー団長が答えてくれる。
「それはエミリア嬢以外の女性にクロード伯爵が声をかけていたからだな」
バルダー団長は私の隣に座ると二カット笑う。
「それはどういう?」
理解ができない私にバルダー団長は下品に教えてくれる。
「あのお茶会に呼ばれていた女性達みんなに愛人契約を呼びかけていたようだ。全員に断られているがな。エミリア嬢は好みじゃないから言われなかっただろう?」
「確かにクロード伯爵とは数回挨拶をした程度ですけれど。本当に、みんな声をかけられたんですか?嘘じゃないんですか?」
まさか自分以外の女性達にそんなことがあったなんて信じられず私はゆっくりと聞いた。
セリーヌ様は馬車の中のハインリッヒ様と同じく額に手を当てて長いため息をつく。
悩んでいる姿はさすが兄妹、そっくりだ。
「嘘ならどれだけよかったか。あの男には結婚してから本性がわかってもう諦めていたけれど、まさか私が集めた女子たちに愛人にならないかと声をかけていたなんて、信じられないわ」
「そ、そうなんですか」
なんて声をかけたらいいかわからず私は引き攣った顔で頷く。
ハインリッヒ様は優雅に紅茶を飲んでセリーヌ様に視線を向けた。
「それで姉上はどうして僕たちを呼んだんです?僕はいいとして、エミリア嬢に何か用でも?」
確かになぜ私が呼ばれたのだろうか。
セリーヌ様は疲れた様子で私とハインリッヒ様を見つめる。
「この二人しか信用できないからよ。クロードを殺した容疑者がたくさんいて頭おかしくなりそうなのよ。私まで殺されるんじゃないかって不安で夜も眠れないのよ」
疲労しているセリーヌ様を見てまた私の脳裏に騎士団長の言葉がよぎる。
セリーヌ様も夫に愛想を尽かして殺した可能性だってあるのだ。
一瞬の気まずい沈黙の後でセリーヌ様が軽く眉を上げる。
「エミリア嬢が言いたいこともわかるわよ。私が一番夫を殺しそうと思っているんでしょう?」
とても元姫様とは思えない様子でセリーヌ様は私を見つめてくる。
いつも気取っていて上品な様子のセリーヌ様しか見ていないので新鮮な気分になってくる。
「いえ、思っていませんよ。私、内情をよく知りませんし。クロード伯爵の好みじゃないようなんで声すらかけられていませんし」
そこまで言って、まさか姉思いのハインリッヒ様がクロード様を殺した可能性もあるのかとチラリと彼を見る。
ハインリッヒ様は私を見つめて首を振る。
「僕ではないよ。クロード殿のために自分の人生を台無しにするわけがないだろう」
「ですよね」
私が乾いた笑いをすると、セリーヌ様は机を叩いた。
「もうやめましょうよ。こうして腹の探り合いをするのは。私たちは間違いなくクロードを殺していないのよ。ねぇ、エミリアが犯人を見つけてちょうだい」
「えっ?私が?なぜですか?」
突然のセリーヌ様の提案に私は目を丸くした。
「だって、あなた言っていたんでしょ?自分が事件を解決するって」
ハインリッヒ様に馬車で言ったことだ。
思わず彼を見つめるとハインリッヒ様は軽く首を振る。
「いや少し違う。エミリア嬢は異世界がどうのと口走り、事件を解決するまでが物語だって言っていたんだ。だから、僕は多分エミリア嬢は変なものでも食べたから他の人もおかしくなっているかもしれないと言ったんだよ」
「おかしくなったのはエミリアだけよ」
セリーヌ様ははっきりと失礼なことを言った。
ハインリッヒ様は諦めた様子でセリーヌ様を見つめる。
「エミリア嬢が犯人を見つけられると思うのか?」
「エミリア嬢は行動量があるわ。それに信用できる!私は可愛い弟も信用しているの」
急激に自分に矛先が向いてきてハインリッヒ様は笑みを固くする。
「姉上?」
「だから、犯人を捕まえてちょうだい。二人一緒ならきっと見つけられると思うのよ」
二人一緒という言葉に私のやる気に火がついた。
ハインリッヒ様と一緒にいる口実ができるということだ。
「わかりました!がんばります!」
元気よく頷く私にハインリッヒ様が止めに入る。
「待ってくれ。何を言っているんだ姉上もエミリア嬢も。殺人事件なんだから調査は騎士団に任させればいいんだ」
ハインリッヒ様は静かに話を聞いていた騎士団長に同意を求めた。
バルダー団長は歯を見せて笑う。
「いいんじゃねぇーか。騎士団も忙しいからそんなに念入りに調査できないし。ま、まだお茶会に出席していた人とお屋敷の使用人達の疑いは晴れたわけではないですからね。自ら冤罪を晴らすのもおもしろ……じゃなくて、いいと思いますよ」
明らかに騎士団長は楽しんでいる様子だ。
ハインリッヒ様は私たち3人を見つめると諦めたかのように長いため息をついた。




