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3 私も容疑者ですか

「エミリア……。君は何を言っているんだ?」


 理解し難いという顔でハインリッヒ様は私を見ている。

 いつの間にか頭痛も治っている。

 とんてもないことを言ってしまったと私は誤魔化すように微笑んだ。


「本当、私何を言っているんでしょうね?クロード様の死体を見て少し動転しているのかも知れません」


「動転しているお嬢様が死体とかいうか?」


 バルダー団長が私を胡散臭そうに見つめる。


「クロード様は亡くなっていましたよね?」


 確認する私にバルダー団長は顔を顰めた。


「死んでたな。多分毒殺だ。ってことで、本日屋敷にいた連中はみんな容疑者ってことになる」


「えぇぇ!私は違いますよ!」


 興奮する私にハインリッヒ様が頷いてくれる。


「みんなそう思っているよ。僕だって容疑者になっている」


「えっ、ハインリッヒ様も?王族なのに?」


 驚く私にバルダー団長が面白そうにニヤリと笑った。


「前代未聞だよなぁ。姉思いの弟が、女遊びが激しい旦那を殺したっていうこともあるし、夫の女遊びがひどくて腹が立って殺したっていうこともある」


「えぇぇ、まさかセリーヌ様がそんなことをするはずがないですよ!」


 声をあげる私にバルダー団長が頷いた。


「あらゆる方向で考えているんだよ。今後変なことをしたらすぐ逮捕するからな」

「私はやっていませんよ!」


 唇を尖らせる私に騎士団長は頷く。


「容疑者はみんなそういうんだよ。はい、お疲れ様、今日はもう帰っていいぞ」


 早く帰れと犬を追い払うような仕草をされて私は立ち上がった。

 ハインリッヒ様も立ち上がる。


「遅くなったから送っていこう」


「えぇぇ、ハインリッヒ様が送ってくださるなんて!嬉しいです!」


 容疑者呼ばわりされて嫌な気分が一気に明るくなる。

 元気が出てきた私とは対照的にハインリッヒ様は疲れた様子でドアを開けてくれた。



 真っ暗な道を王家の紋章がついた馬車が走っていく。

 王家の馬車の内装の豪華さに驚きながらも、同じ空間に大好きなハインリッヒ様と過ごしていることが幸せすぎて心臓が爆発しそうだ。

 前に座るハインリッヒ様は青い瞳で私を見つめる。


「エミリア嬢。体調は大丈夫か?」


「体調ですか?元気ですよ」


 ハインリッヒ様に送ってもらえるなんてなんて幸せなことだろうと私は喜びながら頷いた。


「変なことを呟いていただろう?あれは一体どういうことだ?」


 確かに、彼からしてみたら意味が不明だろう。

 私だってよくわからないのだ。

 私は腕を組んで目を瞑る。


「どうやって説明したらいいのか……。私もよくわからないんですけれどハインリッヒ様が大好きだから私は真実を言いますね」


 彼に嘘はつきたくないと私は覚悟を決める。

 ハインリッヒ様は私をじっと見つめて頷いてくれた。


「クロード様が亡くなっているのをみて私はどこかで見たことがあると思ったんです。あれ、このパターンは知っているって。だって殺人事件なんてそうそうあわないじゃないですか」


「普通は合わないね」


「かなり衝撃的な光景だったようで私はショックで頭痛が起きたんだと思うんです」


 なぜ頭痛が起きたのだろうと思いながら自分で解析をしつつ説明をするとハインリッヒ様は頷いてくれるので私は話を続けた。


「その時に思い出したんですよ。ここは異世界だって!前世でこういう殺人事件は間違いなく物語の世界でしたし、私の居た世界とは違うんですよ」


 私の言葉を聞いてハインリッヒ様は額に手を置いて軽く目を瞑った。

 悩ましい姿でさえも絵になる彼はしばらく考えて口を開く。


「君は、何を言っているんだ?さっぱり理解ができないのだが……。ただわかるのは、かなりショックを受けているということだな」


「まぁ、ショックはショックですよ。殺人事件なんて初めてみましたし、殺人事件ですよ!」


 興奮する私にハインリッヒ様は若干引き気味だ。


「やはり、エミリア嬢は正気ではないようだな」

「そんなことありませんって!目の前で殺人が起きたってことはこれは私たちが捜査をして犯人を見つけるまでが物語なんですよ」


 興奮して話す私にハインリッヒ様はまた額に手を置いている。


「異世界とはなんだ?ここは現実であり、僕たちは普通に生きている。何を持って物語だというのか理解ができない」


 冷静に言われて私も首を傾げる。


「……そう……ですね。確かに、私はどうして異世界なんて思ったのかしら?」


「それは僕にはわからないが、かなりショックを受けているんだろう。それで記憶がおかしくなっているんじゃないのか?」


「そうですかね。……私、エミリアって名前ですけれど前世はエリコって名前だった気がするんですよね。それで物語でサスペンスってうのがやっていてこういう殺人事件を解決するようなのを年中見ていました。本じゃなくて映像なんですよ」


 思ってもいないことがペラペラと口から出てくるが決してこれは妄想でも頭がおかしくなったわけではないと確信が持てる。

 ハインリッヒ様は長いため息をついて私を見つめる。


「なるほど。さっぱり理解ができないが、かなり疲れているようだからゆっくり休むといい」


 いくら説明しても理解はしてくれない。

 それは仕方がないことだ。

 私は諦めて小さく頷いた。


「……はい」


「念の為にもう一度聞くけれど、変なものを食べたりしていない?幻覚を見るようなキノコとか、薬とか」


 慎重に聞いてくるハインリッヒ様に私は唇を尖らせた。


「ありません」


 ハインリッヒ様は私を家まで送り届けるとすぐに帰っていってしまった。



「ハインリヒッヒ様に送ってもらったんですって?何か進展はあったの?」


 家に帰ると上機嫌の母親と父親が私を迎えてくれる。

 殺人事件があったというのに私の心配をするわけでもなく、ハインリッヒ様に送ってもらったことがよほど大事件だったようでどうだったか聞いてくる。

 事情聴取があるために帰宅が遅くなることは知らせがいっていたで問題はないが、娘の心配をしていない様子に私は眉を顰めた。


「お母様、私殺人事件の現場にいたのよ」


「現場といってもお屋敷のクロード様が執務室で亡くなっていたんでしょ?目の前で死んだわけではないのだから大丈夫でしょ」


 のほほんと言う母親に私は睨みつける。


「大丈夫なわけないでしょ。大変だったのよ。こう、泡吹いて机の上にうつぶしていたんだから」


 現場を再現するようにリビングの机の上に上半身を乗せる私を見て母親は笑い出した。


「大丈夫じゃない。そんな表現するのはエミリアぐらいよ。どうせ、野次馬根性で走って見に行ったのでしょう?」

「……そうね」


 確かにお茶会の参加者で走って現場まで見に行ったのは私だけだ。

 他の女性達はお茶会の部屋で待機をしていたが現場を見ていないのに泣いてしまっていたり怯えている様子だった。

 言葉に詰まる私に母親は満足そうだ。


「ほら見なさい。エミリアは昔から好奇心旺盛で困りものよね。伯爵家の娘なのだからもっとお淑やかに過ごさないと嫁の貰い手がないのよ。で、ハインリッヒ様とはいい感じになったの?」


 くわっと顔色を変えて迫ってくる母親から私は顔を逸らした。


「なるわけないでしょ。というか、私変なこと言って呆れられたかも!」


 興奮して勢いのまま言ってしまったことを思い出して極限まで落ち込んでくる。


「エミリアはいつも変よ。今更落ち込まなくても大丈夫じゃないかしら?」


「そういう問題じゃないの。私、ものすごい頭痛が来て急に変なことを言ったの。これは異世界だとか、殺人事件に居合わせからサスペンスだって思ってこれは解決をするもんだとか」


 ぶつぶつと言う私に母親の笑みが引きつった。


「何を言っているの?頭でもおかしくなったのかしら……。あなたそんなことを言ったの?」


「言った。ハインリッヒ様も理解ができない様子だったわ」


「あらぁ、エミリア、あなた変なものでも食べた?毒キノコとか、薬とか」


 ハインリッヒ様と同じことを聞かれて私は首がもげるほど左右に振った。


「食べてないってば!」



 

 

 


 

 

 


 


 

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