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2、ここは異世界?

「君は何を言っているんだ?」


 目を見開いて出てきた私の言葉にハインリッヒ様が眉を顰めた。

 私も自分が何を言っているんだろうと思うが、間違いなくこれは前世の記憶だ。

 朧げながらエリコだったということと、この殺人は火曜サスペンスだということだけが理解できる。


「自分でもよくわからないけど、これはサスペンス劇場とよく似ているんです。殺人事件に居合わせるなんてそういうことだわ」


「君は何を言っているんだ」


 理解できないというようにハインリッヒ様は再度も言うが私も理解できない。

 一体私は何を言っているんだろうか。

 急激に一部だけ覚醒したのだ。

 困惑しているハインリッヒ様を見上げて私は頷いた。


「わかります。理解できないですよね。私もです」


 キッパリという私に、ハインリッヒ様は助けを求めるように周囲を見回した。

 誰も私たちを気にしている人はおらず、パニック状態になりながらすでに亡くなっているクロード様を見つめている。

 亡くなっているとわかっているからだろう、誰もクロード様に触れることはしない。

 愛する夫を亡くしたセリーヌ様でさえ遠巻きに見ている。


 愛する夫を亡くした割にはセリーヌ様は落ち着いた様子だ。

 悲鳴をあげていたが冷めた顔をして泡を吹いて倒れているクロード様を見下ろしている。

 その様子に違和感を感じていると、廊下がざわついた。

 視線を向けると城の騎士団がやってくるのが見えた。


 筋肉質の大きな男性は部屋の前に集まっている使用人たちをうざったそうに見る。


「はいはーい通してください。現場はここですか?」


 慣れた様子で人をかき分けてハインリッヒ様に問いかけた。

 この大きな男性は王族の護衛も務めているバルダー騎士団長だ。

 ハインリッヒ様は頷いた。


「クロード殿が亡くなっている」


 冷静に言うハインリッヒ様にバルダー騎士団長は顔を顰めた。


「また面倒な……」


 ハインリッヒ様はしゃがみこんでいる私の腕を持って立たせると騎士団長に部屋の中に入るように促した。


「何があったかは不明だが、多分殺されたんじゃないかな?彼が自殺すると思えない」


 ハインリッヒ様の説明に騎士団長は肩をすくめた。



「そうでしょうね。誰がどう見ても他殺でしょうな」





 セリーヌ様のお屋敷で私たちは1人づつ話を聞くことになった。

 要するに取り調べだ。

 これが終わらないと帰宅ができず、私はテーブルの上に並んだおやつを見ながらため息をついた。

 お茶会の行われていた広間で待機させられているが、次々と呼ばれる参加者の女性たちに比べて私は全く呼ばれる気配がない。

 当たり前だが、誰も食べ物にも飲み物にも手をつけず参加していた女性たちは震えながら俯いている。

 侍女たちの姿はなく代わりに城からやってきた騎士が見張るようにドアの前に立っている。

 泣き出してしまう女性もいたが私はそれどころではないのだ。

 

 (そうよ。私はエリコって名前だったわ。そしてこの構図見たことがあるわ、物語で見たサスペンスよ)


 脳裏に急激に蘇る映像に確信を持つ。

 ただ、それ以外が思い出せないのだ。

 必死に前世の記憶を蘇らようと腕を組んで首を傾げていると騎士が私を呼びにきた。


「エミリア・ルクセン伯爵令嬢。どうぞ、騎士団長がお待ちです」


 気づけば私が一番最後のようだ。

 いつの間にか部屋には私一人になっている。

 私は立ち上がって団長が待っていると言う部屋へと向かった。


 部屋へ入ると騎士団長とハインリッヒ様が待っていた。

 私は彼らの前に用意された椅子へと腰を下ろす。


「あー、エミリア・ルクセン伯爵令嬢で間違いないな」


 面倒な様子で騎士団長は机に頬杖をついて聞いてきた。

 私は頷く。


「はい」

「あー、ハインリッヒ様から聞いたんだが……おかしなことを呟いていたらしいな」


 言おうかどうか迷うがハインリッヒ様におかしなことを言ったことは事実なので頷いた。


「はい」


「今も体調がおかしいとかはあるのか?変なもんを食ったとか、何か吸い込んだとかあるか?」


 バルダー団長はやる気がない様子で私を見つめながら聞いてくる。


「いえ、違うんです。私もよくわからないんですが、突然脳裏に言葉と映像が思い浮かんで叫んでしまったんです」

「なるほど。今の所おかしな様子は無しと」


 バルダー団長は適当なことをノートに記入をして私を見つめた。


「さて、エミリア嬢はクロード伯爵とはどういう関係だ?」

「どういう?セリーヌ様の旦那様でご挨拶を何度かしたことがあります」


 お茶会やパーティーなどでセリーヌ様のご挨拶ついでに顔を合わせる程度だ。

 優しそうな雰囲気で、尚且つセリーヌ様とご結婚されるまではたくさんの女性と噂があったと聞いたことがある。

 クロード伯爵は美形のハインリッヒ様には到底及ばないがそれなりに整った顔をしているので女性達から人気があったようだ。


「クロード伯爵と男女の関係になったことはあるか?または、誘われたとか」


 やる気がなさそうにとんでもないことを言ってくる騎士団長に私は驚いて立ち上がった。


「あるはずがないでしょう!えっ?クロード伯爵ってそういうことする方なんですか?」


 驚く私に騎士団長は頭をガシガシとかく。


「まぁ、噂があるということだ」


「はぁ?信じられないわ。セリーヌ様という美しい奥様がいるのに?嘘ですよね」


 理想の夫婦だと思っていたのに。

 ショックを受けながらハインリッヒ様を見ると軽く肩をすくめた。

 どうやらハインリッヒ様は驚きもないようで、クロード伯爵が結婚をしてからも女性をたぶらかせていたことを知っている様子だ。


「エミリア嬢はクロード伯爵とは男女の中ではないにチェックをつけといてやるよ」


 調書を記入しているノートに騎士団長は書き込む。


「男女の中でもないし、誘われたこともありません!」


 興奮している私に騎士団長はガハハっと大きな声で笑った。


「だろうな。クロード伯爵は美人か可愛らしい若い子が好みだって話だ。それも儚い雰囲気の若い子な。エミリアは対象外だな」


「酷いですよ。私が、美人ではないと?」


 怒りを露わにしている私にハインリッヒ様が落ち着くようにジェスチャーをしてくる。


「まぁ、まぁ。疑いが晴れて良かったじゃないか」


「うれしくないですよ。まさかハインリッヒ様も私を可愛くないとか思っていますか?」


 自分では可愛い方かなと思っていたがこれはショックが大きい。

 ハインリッヒ様は困ったように首を振る。


「そんなことは思っていないよ」


「その顔は思っていますね。ひどーい。ショックだわ」


 クロード伯爵の死体を見たことよりもショックを受ける私に今度はバルダー団長が慰めてくれる。


「まぁまぁ、いつも真実は一つってな。美人か美人じゃないかなんて、それぞれの心の中にあるもんだ。ま、俺はそうは思わないけれどハインリッヒ様は可愛い顔だって思っているかも知れねぇな」


 どこかで聞いたことがあるフレーズにまた私の頭が痛み出した。

 ズキズキする頭に手を置いて私は俯く。

 何か、思い出しそうな気がする。


「エミリア嬢?大丈夫か?」


 ハインリッヒ様が心配そうに声をかけてくれて私は頷いた。


「はい、何か思い出しそうなんですよ」


「それ、さっきも言っていたが……」


 痛む頭を抑えて顔を上げるとハインリッヒ様は心配そうに私を見つめている。

 ハインリッヒ様は青い瞳に金色の長い髪の毛、まるで物語に出てきそうな美しい人だ。

 そう“異世界“みたいな……。


「そうだわ!私、異世界転生してもしかして殺人事件が起きてその場にいるってことは!異世界サスペンスなんじゃないかしら!」


 自分でも予期しない大きな声が出た。


 

 


 

 

 

 

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