1 お茶会で殺人事件?
テーブルの上に並べられた豪華なお菓子たちを眺めて私は満面の笑みを浮かべる。
セリーヌ様のお茶会の出てくるお菓子は私のお屋敷には出ないような珍しいものばかりだ。
スコーンやマフィン、ケーキ、そしていい香りがする紅茶。
それだけでもウキウキするが、今日はなんとハインリッヒ様も参加されているのだ。
ハインリッヒ様は28歳の独身。サラサラと風になびきそうな金色の髪の毛は肩まで伸ばされており、それが似合う美形のお方だ。
お茶会を主催しているセリーヌ様の弟であるためにハインリッヒ様は仕方なく参加をされている。
現王の弟でもあり、王族のハインリッヒ様は見た目の美しさもあり今女性から一番人気の男性だ。
「エミリア、どう?ちゃと食べているかしら?」
ハインリッヒ様の姉セリーヌ様に名前を呼ばれて私は笑みを浮かべて頷いた。
「はい。たくさんいただいています」
「ほほっ。よかったわ。貴女お菓子大好きだものね」
私がハインリッヒ様に憧れていることを知っているので毎回こうしてお茶会に呼んでくれるのだ。
私の他にもハインリッヒ様目当ての女性達が数人参加している。
ハインリッヒ様はこの数名の中から結婚相手を選べという姉の圧力を感じながらも毎回のらりくらりと適当に会話をしてお茶会は終了になるのだ。
「ハインリッヒ様。今度私の家のバラを見にいらしてください」
私の前に座っている女性が大きな胸を強調しながら猫撫で声を出した。
私を含めた数人の女性がムッとするがハインリッヒ様は愛想笑いをして優雅に紅茶を飲んでいる。
「機会がありましたら……」
こうして毎回私たち女性達がなんとかハインリヒ様の気を引こうとするが彼は私たちを全く気に入ってくれる様子がない。
というか、私を気に入って欲しいのに全く彼に響いていない。
ハインリッヒ様は微笑んでいるが帰りたそうな雰囲気を感じて私はそっとため息をついた。
紅茶を飲もうとして中身が空っぽになっていることに気づきカップを置くとすぐにセリーヌ様が侍女に声をかけた。
「ソフィア。エミリアに紅茶をお願い」
「はい、奥様」
ソフィアと呼ばれた可愛らしい女性は頭を下げるとすぐに私の横に来てくれる。
「失礼致します。お淹れしてよろしいですか?」
「お願いします」
紅茶が入った銀色のポットを持った侍女が紅茶をカップに淹れてくれる。
セリーヌ様のお屋敷ではいい茶葉を使っているので紅茶のいい香りが漂い、ハインリッヒ様の香水の香りと一緒に私は匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
「いい匂いー」
私は呟いて先ほどの紅茶と匂いが違っていることに違和感を持つ。
ハインリッヒ様の香水と、紅茶の匂いが少し似ているような気がして私は紅茶をまじまじと見つめる。
(紅茶からハインリッヒ様の匂いがしてくると言うことはこの茶葉が家にあればハインリッヒ様と過ごしている妄想ができると言うこと?)
香水の匂いにうっとりしている私を侍女が戸惑いながら見つめてくる。
「あの、何か不手際がございましたか?」
「何もないですよ。紅茶ありがとうございます」
私の態度がおかしかったのだろうか。
オドオドした様子の侍女に私は笑みを浮かべる。
私より少し年下だろうか、可愛らしい顔をした侍女は安心したように軽く頭を下げると一歩下がった。
侍女にセリーヌ様が声をかけた。
「ソフィア、悪いんだけれど旦那様にもお茶を持って行ってあげてくれるかしら」
ソフィアは頷いた。
「かしこまりました」
侍女が部屋を出たのを目で追ってハインリッヒ様はセリーヌ様に問いかける。
「クロード殿は今日屋敷にいるんですね」
クロードとはセリーヌ様の夫でありこの屋敷の当主でもある。
現王の妹であるセリーヌ様はクロード様の熱烈な愛を受けて王家から降嫁されたのだ。
セリーヌ様はハインリッヒ様とよく似ていて美形三兄妹と言われているだけあってとても美しい。
美しいセリーヌ様は愛されて幸せな生活をしているのだろう。
お屋敷の中を見ればセリーヌ様が幸せな生活をしていることを感じられる。
早く私もハインリッヒ様と結婚して幸せになりたいものだ。
うっとりと将来の結婚生活を妄想している私にセリーヌ様の声が聞こえてくる。
「そうなのよ。いつも屋敷にいないくせにねぇ」
どこか含みを持たせたような言い方に私は思わずセリーヌ様を見つめる。
口元は微笑んでいるが目元は笑っておらず、いつもお優しいセリーヌ様と別人に見えた。
ハインリッヒ様は美しい眉を顰めた。
「姉上も大変ですね」
「まぁ、もう慣れたわよ。それより、貴方も早く結婚をしないと!もう28歳なんだからほら、ここにいる女性たちなんて素晴らしい方達よ」
話を切り替えるようにセリーヌ様は私たちに視線を向けた。
私を含めたお茶会に参加している女性達が一斉にハインリッヒ様に笑みを向けると彼は困ったように引き攣った笑みを浮かべる。
「姉上……」「ぎゃぁぁぁ」
ハインリッヒ様の言葉を遮るように女性の悲鳴が屋敷に響いた。
耳を劈くような悲鳴にセリーヌ様と私は立ち上がった。
「な、なんですか?泥棒?」
立ち上がってキョロキョロする私にハインリッヒ様は軽く首を振る。
「まさか、この屋敷に泥棒なんて入るはずがないだろう」
そう言いつつもハインリッヒ様も立ち上がって歩き出した。
「何かあったのかしら。あの声はソフィアよ」
セリーヌ様もドレスの裾を摘んで部屋を飛び出していく。
私も何があったのか気になりセリーヌ様とハインリッヒ様の後に続いて部屋を飛び出した。
お屋敷の長い廊下を走る2人に続いて私も遅れを取らないように走った。
悲鳴が上がったであろう場所へ向かうとすでに人だかりができていた。
ハインリッヒ様とセリーヌ様がたどり着くと、集まっていた侍女たちが震えながら口々に伝えてくる。
「お、奥様大変です。旦那様が、旦那様が……」
震えて声が出ない様子の侍女を押しのけてセリーヌ様は部屋の中へと入っていく。
ハインリッヒ様も部屋へと入ると同時に、セリーヌ様の悲鳴が聞こえた。
「ぎゃぁぁ!こ、これは何?どうしたの?」
パニックになっている声が聞こえて私は入り口のドア付近から部屋の中を覗き込んだ。
部屋は書斎らしく、本棚と重厚な執務机が置かれておりその机にクロード様がうつぶしていた。
上半身は力なく机の上に倒れており、目は見開いたまま口からは泡が溢れている。
「し、死んでいるんですか?」
素人の私が見ても生きてはいないだろうとわかる。
掠れた声を出す私にハインリッヒ様は眉を顰めて頷いた。
「多分、そうだろう。医者を呼んでくれ。後、騎士団長も呼んでくれ」
冷静にいうハインリッヒ様の声がだんだんと遠くに聞こえてくる。
頭を殴られたように急激な頭痛に襲われて俯いた。
視界が定まらず目がまわり私はしゃがみこんだ。
めまいがして吐きそうだ。
嘔吐を堪えている私をハインリッヒ様が気づいて片膝をついてしゃがみこんできた。
「大丈夫か?」
ハインリッヒ様の声が遠くに聞こえる。
「大丈夫か?エミリア嬢?」
エミリア?ハインリッヒ様は私をエミリアと呼んだ?
ズキンズキンと頭が締め付けられるように痛む。
違うわ私はエリコよ。
なぜか頭の中で確信が蘇り、急激に覚醒をした。
「これってテレビで見たことがあるわ!サスペンス劇場みたいじゃない?」
私の口からとんでもない言葉が勝手に出た。




