13 セリーヌ様のお屋敷へ
「なるほど。スズランは大量に摂取すると毒性が強い。毒があるために食品に加工することはまずない。クロード殿が死んだのはそのスズラン入りの紅茶か何かを食べたのではないか?」
ハインリッヒ様の推理にバルダー団長が頷いた。
「考えられるな。しかし誰が紅茶を提供したんだ?そしてなぜエミリア伯爵令嬢は死んでいないんだ?飲んだんだろ?」
騎士団長に見られて私は頷く。
「確かに飲みました。不思議な味だけれど、いい匂いだなぁと思ったんです。ハインリッヒ様と同じ匂いだから胸いっぱい吸い込んだから間違いないです」
ハインリッヒ様は私を抱えたまま眉を顰めた。
「エミリアは少し変わっているから毒入りの紅茶を飲んでも大丈夫だったのだろうね。あの日、エミリアは毒入りの紅茶を飲んで死にはしなかったが体調が悪くなり、記憶も曖昧になっていまだにおかしくなっている」
「今は普通ですよ。頭痛は続いていますけれど」
過去のことを思い出している私のことをハインリッヒ様は毒を飲んで頭がおかしくなったと思っているらしい。
私が思い出した前世らしき記憶は確かに真実なのにあんまりだ。
不貞腐れている私を無視してハインリッヒ様は眉を顰めている。
「あのお茶会で給仕をしていたのは確か……ソフィアという女性だったな。ソフィアがエミリアに紅茶を注ぐところを僕は見ている、確かにエミリアは不思議な顔をした後に深呼吸を繰り返していた……」
記憶を辿っているハインリッヒ様に私も頷いた。
「そうですよ。確かソフィアさんって可愛らしい侍女ですよ……ね」
そこまで言って一つ思い当たりハインリッヒ様を見上げると彼も私を見下ろしてきた。
「クロード殿の好きそうな女性だね」
私たちの会話を聞いていたバルダー団長がニヤリと笑う。
「なるほど。ソフィア嬢が怪しいってわけか。すぐに屋敷に戻るぞ」
頷こうとして私は慌てて首を振った。
「待って待って。サスペンス劇場なら温泉に入ったり、美味しいお菓子を食べたりするのよ。まだ何もしていないわ」
オロオロする私にハインリッヒ様は憐れむような瞳を向けてくる。
「やはり毒の影響なのだろうね。意味のわからないことを言って、かわいそうに。お菓子なら食べただろう」
「違います。私はまともよ!」
夕陽に照らされた崖の上で私の声が響いた。
たんこぶができた頭を冷やしながら急いでセリーヌ様のお屋敷へと戻る。
私とハインリッヒ様は王家の紋章がついた馬車に乗りバルダー団長が先頭を馬で走っている。
残念ながらセドリックさんとは別行動で、彼は話を詳しく聞くために城へと行くらしい。
「犯人が犯罪を告白するのは崖っていうのは間違いなかったでしょ?」
私は偉そうにハインリッヒ様に言った。
「犯人ではなかったけれどね。しかしなぜセドリックは崖に走ってきたのだろうか……それだけは謎だな」
ハインリッヒ様は不思議そうに呟いている。
名探偵と騎士団長が言った言葉を思い出して私はハインリッヒ様を見つめる。
「ハインリッヒ様、バルダー団長も私と同じ異世界の記憶があると思うんですよ」
「またその話か……」
「だって、騎士団長今思うと不思議じゃないですか?こんな私に捜査をさせたりして」
ただの小娘に操作資料を渡すのもおかしい。
不信感を持っている私にハインリッヒ様は肩をすくめる。
「適当なんだろう」
「そうかしら。思い出したんですが、騎士団長は“真実はいつも一つ“だって言っていました。それも私が異世界で見ていた物語に出てきたような気がします」
「だとしたらそれが何か問題でもあるのかい?」
騎士団長が私と同じ異世界の生まれ変わりだとしたら仲間意識があるだけだ。
私は首を傾げる。
「問題はありませんけれど……。ただもし騎士団長が仲間だとしたら私は頭がおかしくないっていう証明になりますよ……ね」
「もしそうならね。まぁ、君の頭がおかしくても僕はもう慣れたよ」
諦めたような言い方をするハインリッヒに私は不服な顔をする。
「だから私はおかしくないんですってば」
私たちを乗せた馬車はあっという間にセリーヌ様のお屋敷へと到着した。
夕暮れだった空は真っ暗で、急いで戻ってきたが時刻はもうすぐ夜中になろうとしている。
ハインリッヒ様と私が馬車から飛び降りるとまだ起きていたであろうお屋敷の使用人数人が慌てて出迎えてくれた。
「緊急で話を聞きたい。ソフィア嬢はいるか?」
騎士団長は刺激をしないようにいつもと変わりない様子でメイド長らしき女性に聞いている。
メイド長は全てを察したのか顔色を変えて頷くと騎士団長を案内し出した。
「自室で休んでおります。どうぞ」
「夜中に悪いな」
騎士団長の後ろを私とハインリッヒ様も続いて歩いていく。
夜中だからか起きている人も少なくお屋敷の中は静かだった。
「こちらです」
メイド長が離れの一部屋に案内してくれた。
住み込みの使用人が寝泊まりしている一角のようだ。
騎士団長はドアをノックした。
「ソフィア嬢、夜中に申し訳ないが話を聞きたい。えー、こちら城から派遣されている王家の護衛騎士団長を務めているバルダーだ」
ドアをノックし続けているが一向に出てくる気配がない。
騎士団長は眉を顰めてドアに耳をつける。
ガタンと何かが倒れる音がして私たちは顔を見合わせた。
「ソフィア嬢、大丈夫か?ドアを開けないなら無理にでも開けさえてもらうぞ」
そう言うと騎士団長は大きな体で乱暴にドアに体当たりをしてこじ開けた。
たった一回の体当たりでドアを破壊するのを目の当たりにして私は驚いて口を開いたままハインリッヒ様を振り返った。
「すごい馬鹿力ね 」
「……王族の護衛騎士団長だからね」
呆れているハインリッヒ様と共に部屋に一歩入るとベッドの横にソフィアが倒れているのが見えた。
騎士団長が駆け寄ってソフィアの様子を見て後ろにいた侍女長に大きな声を出した。
「毒を飲んだな。医者を呼んでくれまだ生きている」




