文VS理
「小説なんて、読む暇があったら数式でも解いたほうが有益だ」
そんな話をしていた同輩。俺はつい胸ぐらを掴んだ。
「てめっ、文学をバカにしやがって……!」
同輩は、俺を見つめて鼻で笑った。彼が言うには、文学とはただの娯楽である。その内容を理解したとて、得るものはない。
文学を専攻している俺は、頭にずがんときた。文学は人の気持ちに寄り添ってくれるものだ。そう自分に言い聞かせながら執筆を続けていた俺が、文学を軽く扱う理数系の彼にいらだちを覚えてもおかしくはない。
「……わかった。だったら勝負しようじゃないか」
「勝負? 何でだ」
「この雑誌の小説大賞のグランプリを獲った本と、サイモン・シンの数式の本、どちらが売れるか。お前はーー文学の持つ力を信じたいんだろ? だったら試したらいい」
……同輩の賭け。俺は乗るか迷った。文学と数学。どちらがすごいかなんてあまりにも俗物的だろう。でも、俺は負けたくない。
「数学と文学、これだけ正々堂々と戦える土俵があるとはね」
「……」
負けたくない。どちらも負けるわけにはいかない。文学と数学の面子がかかっているんだから。
俺は学校の帰りに本屋へ寄った。色とりどりのライトノベルの平台。少し離れた場所に、サイモン・シン。ここの本屋は売れない本も置いてくれているが、本自体昔より売れなくなった。今や小説作家たちだけが売上競争している場合ではない。売上で負ければ、もう本は置かれなくなる。
そんな『売上デスゲーム』なんて、ラノベの中だけにしてくれ。
そう思った俺は、ため息をひとつ落とし、サイモン・シンの本を手に取った。
……まず敵を知れ。そして、小説の題材は、小説からではなく、他のジャンルから探せ。アンテナを常に高く張れ。その知識のランデブーは、小説家同士にはできないから。
俺は帰りの電車の中、敵を味方側につける手段を考えながら、文理相見えるだけではなく、互いの相乗効果を起こすことはできないかと思案に暮れた。
要するに、俺が言いたいこと。それは『データより、肌触り』。
だから本屋がなくなったら困るのだ。




