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 錬の脳内に二つの声が響く。

『能力の真価は、覚醒後に決まる』

 一つは心が落ち着く――師匠の声音だった。

―――――(己に能力を使え)

 ノイズだった。それが声だと分かったのは、意味が直接は入ってきたからだ。

 それは、能力を使う直前に響く声と酷似していた。



 十秒。短い時間で理解する。刻まれた能力の使い方を。

 置かれた学ランに裾を通す。

 錬の足音にカルミアが振り返る。

 定規剣の片割れ。刀身の破片を手にする。

「【透刻槍とうこくやり】」

 破片が矢の形に成す。槍というには短すぎるのだ。

 カルミアに向かい、槍を投擲する。

 頭部を狙った槍を、頭を少し動かす、最小限の動きでカルミアは回避する。

「仮面の内側を見せろ」

「ヒーローが来る。早急に決着を付けましょう」

 スマホの入力端子から放たれる光が、一条の束へと凝縮される。

 カルミアが肉薄する。

 錬は、一歩も動かず、微動だにしなかった。

 ただ、仮面の下で口角を上げていた。

 横に一閃、錬の腹部に光が奔る。

 ――【武身錬成刃法ぶしんれんせいじんほう】。

 自分自身を武器とする闘法。

 服を切り裂く光の斬撃は、錬の皮膚を切り裂けず、ただ熱を伝えるだけだった。

 突きの攻撃が立て続きに放たれる。

 低姿勢。柔軟さを生かすカルミアの癖だ。

 だが、それも貫通することなく、灰皿に煙草を押し付けるように、光は潰される。

 腹を武器の一部だと認識することで、変質が起こる。変質は、光の斬撃を通さぬほどに硬化していた。

 顔を上げ、二つの仮面越しに両者の目が合う。

「怒りは、ありますか?」

 仮面越しに伝わる高揚感。カルミアは今、きっと笑っているのだろう。

 カルミアがスマホの光を消し、錬と向き合う。

「ないよ」

「残念です」

 だが、その高揚感がすぐに感じられなくなる。

「お前、どこかであったっけ?」

 背丈に、声音、どこかで感じたことのある既視感だった。

 塞がった傷跡、硬化した身体。カルミアの勝機は絶望的に見えた。

 手を、カルミアの顔に伸ばす。

 伸ばした錬の腕をカルミアは掴み、そのまま、押し倒す。

 地面に倒れる錬の胸に膝を付け、スマホの入力端子を目に向けた。

「半分。貴方の化けの皮を剥いで見せましょう」

「剥いでみろよ。鉄の味しかしないぜ」

 心がどこか浮いていた。

 今、この状況でも錬の脳内は危険信号を出せずにいた。

「決着を付けようか」

 錬が言い切る前にスマホの光が、襲い掛かる。

 左手で、その光を受け止め、右手で胸に乗る膝を掴み引く。

 転がり、膝をつくカルミアを錬はただ眺めていた。

 余裕だ。錬には今、余裕があった。

 目の前に転がる弱者を笑う余裕が。

「清々しい気分だ」

「最大出力」

 光が目を眩ませる程に光り輝き、錬に向けられる。

「【手槌しゅつち】。低い場所からいこうか」

 拳を握る指の境が癒着し、曖昧になる。

 右手の五本指が一塊の鉄塊へと変質した。

 カルミアに向かい、一歩一歩を深く、重く歩み寄る。

 対照的に、錬に向かい一気に肉薄する。

 光と、拳が交わる一瞬。

 錬の下から突き上げる鉄槌の拳に、カルミアが光を重ねる。

 錬の手に一瞬食い込む光の斬撃。

 だが、光が拳を斬り伏せるより早く、錬の拳がカルミアに到達する。

 腹を捉えた拳は、カルミアを吹き飛ばす。

 カルミアの持つスマホから光が消えた。

「誰なんだ」

 倒れるカルミアの仮面に手を掛ける。

 仮面が剥がれ、素顔が露になる。

 その顔を――錬は知っていた。

「は? なんで?」

 だが、名前が出てこなかった。印象が薄く、その記憶が回帰されない。

 その瞬間、視界が歪む。

 体が押し潰されるように重かった。

「くッ」

 ――能力の限界。体を修繕したところで、その前に失った肉体は戻ってこない。

 地面に倒れる。

 遠くでサイレンの音が響く。

 意識が、闇へと落ちていった。

 ――人影が一つ、増える。

 人影は錬へ歩み寄る。

 そして、仮面を外し、顔を覗き込んだ。

「辛そうだね」

 錬を抱き抱える。

 人影は近くで横たわるカルミアを一瞥した。

「君もか。困ったね」

 小さく溜息を吐き、能力を行使する。

「【殺許霊さつきょりょう】。燠、これは借りだよ」

 伸びる影から半透明な人型の何かが現れる。

 それは、同様にカルミアを抱き上げると、人影の後を追った。

 人影の胸ポケットに仕舞われたスマホからは、音声が響くことはなかった。

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