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 ――人を殺せる能力。

 大抵の能力は、これに分類されるだろう。

 錬の能力は――なにに使えるのか。

 自問する。

 人を殺すためか、その手助けをするためか。

 武器は、人を殺すためにある。そう、心の片隅で少なくとも思ってしまっていたのかもしれない。

 だから錬はあの時に、

『人を殺すための、道具』

 と。そういったのかもしれない。

 ――お前は、人殺しになるのか?

 部活は切り上げ、家に帰る途中だった。

 昇降口。靴を履き、帰ろうとする。

 靴箱の裏に志抱はいた。

 文庫本を手に取り、靴箱が背中合わせになっている境目に背中を預けていた。

 苦虫を噛み潰したような顔になる。

 ――今度って、今かよ。

 だが、丁度よく小説に読み耽っている。

 足音を鳴らさぬよう、自然に通り過ぎようとする。

 ――パタン。

「――待ってよ」

 足を止め、嘆息する。

「なにか」

 振り返ると、志抱が本を鞄に仕舞っていた。

「錬は、あおい君と今はどうなの?」

 志抱に触れられた右腕が、また熱を帯びる。

「あおい? いや、なんにもないけど」

「仲いいの?」

「友達だよ」

 錬にとって蒼空は友達以上であるが、それを言うのは気恥ずかしく、言葉を弱めた。

「あおい君とまた、話したいな」

 それは錬に頼んでいるのか、ただの独り言か。判別はできなかった。

 志抱はなんのために残っていたのだろうか。

 ただ、蒼空との友情関係を聞きたかっただけとは思えない。

 息を細く吸い込み、息を止め、落ち着く。

「今日はもう帰りたいんだけど」

 今は、志抱と話したくなどなかった。

 だが、逃がさないと言わんばかりに、扉の前に立ち、動きを阻止する。

「あの人から話は聞いたよ。でも、私は優しくはなれない」

 志抱の言葉に、思考を巡らせようとするが、怠い。

「だから言わせてもらう。今の君はだれなの?」

 志抱も深呼吸をし、意を決したように一歩踏み出した。

「ゆーきの弟子? それとも、あの災厄なの?」

 喉の奥が、凍り付いたような痛みが奔る。

「俺は、弟子だ」

「だれの?」

 即答しようとして、唇が震えた。

 錬の師匠の名。錬に寄り添い、導き、剣を、心を教えてくれた――

 ――あの人の名前は?

「なまえ、……は」

 分からない。答えが見つからなかった。

 警報のような耳鳴りが鳴り響く。

 脳の深部に霧が立ち込め、大切な記憶に手が届かない。

「俺は、俺は……ッ」

 本当は『ゆーき』という響きに覚えがある。だが、それを肯定すれば今の自分が壊れてしまうような恐怖に背筋が凍る。

「俺は……、恩師の弟子だ」

 名前を叫べない。それは、今出せる最大の答えであり、惨めな逃げ場だった。

「答えはその腕に宿っているのに、なんで、また逃げるの?」

 志抱の瞳は錬に向けられていた。

 蔑むような苛立たしげな志抱の声。

「……ごめん」

 分からなかった。恩師の名前も、志抱に返す答えも。

 ――自由になりたい。

「帰らせてくれ」

 逃げたかった。だから、話を終わらせようと、一歩後ろに下がる。

 志抱は錬を見ていない。錬の中に巣食う、別の何かを睨んでいる。それが何なのか、理解しようとすると頭に鈍痛が奔る。

「もう分かったから、今度こそ、また今度」

 言葉を返す気力はなかった。

 頷かず、黙殺した。

 錬が志抱の横を通り過ぎる。

「――墓場に帰るのが、お似合いね。武器が待つ家に」

 独り言をこぼす志抱は、校舎にまた戻っていった。

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