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 昼食を摂り、図書室で眠りにつく。

 ――要因がなんなのか。

 死ぬと言われた時からずっと考えていた。

 誰が関わることで発生する事態なのか。誰に、殺されるのか。――どうやって死ぬのか。

 死の要因を作り出すのは、燠か、それともこの時期の転校生、志抱か。

 ――キーンコーンカーンコーン。

 チャイムが鳴る。

 図書室には司書と錬だけが取り残されていた。


 *


 志抱は一言でいうなら人気者だった。

 一日で、好奇心で取り囲む者たちの心を掴み、授業間の休みには常に人が集っていた。

 休み時間の帰りの時に燠に出くわした。

 帽子を取り外した燠を見るのは、初めてだった。

『ちゃんと今日の部活に来るんだよ』

 そういいながら燠は自身の教室に入っていった。

 ――実践体育館で間違いないのだろうか。

 実践体育館に向かう途中、錬は一人だった。

 金曜日の放課後、蒼空は昔からいつも用事があるといってすぐに自宅に帰っていた。

 実践体育館へ続く渡り廊下から、志抱が向かって歩いてくる。

 錬の目の前で志抱が足を止める。

「私、あなたを知っているの」

 その言葉が錬を捕まえる。

 息が、荒くなる。

「またかよ」

 胸の内を吐き出すように溜息を吐き、独り言ちる。

 その刹那だった。錬の右手を掴み、両手で握る。

 目の前の志抱は、錬を見ているのではなく、右手という存在を見ているようだった。

 心臓が激しく脈打つ。好意から来るものではなかった。

 心臓が脈打つたびに、志抱が触れる右腕が焼き付くように熱くなる。腕が自分とは違う心臓を持つようだった。

「な、なにっ!?」

 手を引き剥がし、後ずさる。

「ごめんなさい。でも、あと少しだけ」

「なんなんだよ、君」

 一歩踏み出す志抱に、また、錬も一歩下がる。

「もしかして、あなた二年前のこと忘れてるの?」

 まただ。脈打つ心臓に、頭痛がする。意識が遠くなり、痛みで意識が戻される。

 顔をしかめ、志抱を睨む。

「二年前になにがあったってんだ! 俺は知らない。ただの生徒だった!」

 驚いたように志抱が胸の前に手を持って、息を呑む。

「そう。忘れちゃったんだね。私のパパのことも」

 頷き、志抱の震える右手を握る。

「許さない。私、許さないから! 必ず思い出させてみせる」

「なにを……、思い出させるっていうんだ」

「私のパパのことよ! じゃあね! また、こんど!」

 志抱が去って、姿が見えなくなる。

 居なくなってから、頭を押さえ、残る頭痛を消そうとする。

 志抱とはなんなんだ。

 志抱は錬を知っているようだった。だが、錬は知らない。

 思い出せない。――思い出したくない。

 思い出したら、錬が――自分が壊れてしまう気がした。

 逃げるように実践体育館へと向かった


 実践体育館には一人しかいない。――燠だ。

 震える右手を収めるように、深く、細く息を吐く。平常心でいたいという錬の思考だ。

 右手をポケットに入れてから実践体育館に足を踏み入れる。

「こ、こんにちはぁ」

 だが、声が震え、掠れる。

 頭を下げながら燠に挨拶する。

「ほかの部員は、製部せいぶ行ってるから行こうか」

 片手を上げながら錬に近づいていく。昼休みとは違って今は帽子を被っていた。

「西部に行くんですか?」

「うん。ところで、もう一人はどうしたのかな?」

 頷き、実践体育館を後にする。

「今日はいないっすね。あいつ、金曜日の放課後空いてないんすよね」

「そうなんだ」

 そう遠くない所に製部はあった。

 ――製技武電歩傳部せいぎぶでんぶでんぶ

 略して製部。そこで初めて錬は理解する。西部ではなく、製部といっていたことを。

 外に直接設置された戸を開け、製部に足を踏み入れた瞬間、熱気が体を包む。

 鉄を削る音が響き、焦げ臭い、火花の匂いが鼻を突く。

凪夏なげ。来たよ」

 入口の隣に設置された、机で立ちながら作業をしている女性――凪夏に声をかける。

「おっ! やあやあやあ!」

 大きな声を出しながら錬の前に立つ。

 皮の前掛けをした、黒髪を高い位置で一つ結びにした、釣り目がちな瞳の女性だった。

「噂はかねがね……!」

 錬を値踏みするように見る。

「あなた、武器を作れる能力らしいですね! うちの部活はいりませんか! うち、武器も作るんです!」

「凪夏?」

 燠が呼びかけるが、構わず続けた。

「製技武電歩傳部は、とにかく、たくさん作り、人のためになろうという部活です。あなたのような能力はきっと役に立ちます! どうですか!?」

 段々と上がっていく声に後ずさる。

「凪夏。錬は実践能力部の部員だ」

 凪夏の肩を引っ張って、引き離す。

「なんですと。実能に既に入っていたんですか?」

「まあ、はい。承認待ちです」

「そうですか……。ところで言っていたもう一人はどうしたんですか?」

「今日は来れないみたいだ」

 燠が答える。

「ありゃま」

「で。俺の顕装体デバイスはできたのかな?」

「ああ! あの靴ですか」

 そう言うと、凪夏はどこかに走って行ってしまった。

「君も顕装体作るかい?」

 顕装体を見たことはない。だが、聞いたことはある。高価だということも。

「いや、大丈夫です」

「ところで、だ――」

 燠の瞳に、奥に見える剣を、並べられた武器を映す。

「君は顕装体を何だと思う?」

 問いかけに熟考すると、脳裏に焼き付いた、顕装体が体を貫く記憶が蘇る。

「――人を殺すための、道具」

 口が、勝手に動いていた。

「ごめん、急に変なこと言ったね」

 自嘲気味に燠が笑う。

 その視線はまだ、武器を見つめていた。

「――持ってきたよー」

 凪夏が持ってきた靴は、何の装飾も施されていない黒い靴だった。

「かっこいいでしょー。シンプル・イズ・ベスト!」

「ありがとう」

 暗い雰囲気を壊すように凪夏が、燠に靴を履くよう促す。

 ――なぜ、人を殺すための道具だと、貫かれる記憶が想起したのか。

 志抱の姿が、一瞬映る。

 映る志抱は幼く、涙を流していた。それは、錬に向けられた視線ではなかった。

 なぜそれが志抱であると理解したのか、錬自身にも理解できなかった。

 燠が履いた靴を慣らすように、トン、と、コンクリートの床を鳴らす。

「凪夏、廃材を貸してくれないか」

「いいよ!」

 親指を立て、丸いポールを差し出す。

 それを外に立て、燠が足を曲げ、準備体操を始める。

「錬、顕装体を人を殺すための道具といったね」

 ポールの前で構える。

 靴が、赤く、淡く光り、周囲の温度を上げる。

 燠が回転を付け、飛ぶ。

 その姿は、軸がブレず、息を呑む美しさだった。

 回転の力を使い、ポールを蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされたポールは折れ曲がり、コンクリートの壁に衝突することで、壁を凹ませる。

 一瞬だった。だが、その回転数は人間の限界を超えていた。

「――正解だ」

 燠が錬に向き直る。

「だが、もし、この力を人に振るった時、俺たちは人間ではなくなる」

 覚悟を決めた言葉を、錬に告げる。

「君は力を使って人を殺す気か?」

 燠の問いに、錬は答えることができなかった。

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