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蒼空が錬の元へ一直線に走っていく。
「大丈夫? ちょっと手みせて」
蒼空が錬の赤く腫れた手に目を向ける。
「ちゃんと手当てしなきゃ」
「落ち着けよ蒼空。手当てするって言ってもすることがないだろ?」
「湿布を張るとか、氷で冷やすとか、絆創膏を張るとか……!」「落ち着けって」
蒼空が肩を落としながら顔を落とす。
「……ごめん。余計なお世話だったよね」
「いや、心配してくれたんだよな。ありがとう」
気まずい空気が流れる。それを打ち破るように燠が手を叩く。
「ひとまず入部おめでとう。嬉しく思うよ」
拍手をしながら錬に視線を向ける。
「ありがとうございます」
蒼空が礼を言う。
「今日はここまで。じゃあね」
燠が実践体育館から去る。
――『さわやかな笑顔の人』か。
カルミアという花の花言葉だ。荷絨と決別した後に調べた。
燠の死んだような笑みとは程遠い。
死ぬと言われたとき、蒼空も対象内に入っていた。錬だけではないのだ。
――親友――蒼空を守るために、細い糸を掴まなくてはならない。
*
朝から慌ただしく自転車を漕ぎ、学校に向かう。
今朝も遅刻寸前だ。
教室に向かう途中、スマホの通知が鳴る。――蒼空からだ。
『これは伏線だよ』
メッセージを押し、会話画面に移る。
『どうした?』
送信をし、返答を待つ。
写真が一枚送られてきた。
教室の後ろの席に座る蒼空は、隣に誰もいない。一番後ろは座席が一つしかない孤立している席だ。その隣に座席が一つ増えているのだという。
『転校生が来る、、、!』
その文字を見た瞬間、カルミアの花が脳裏に映る。
このままだと、タイミングが良すぎる。荷絨の発言、部活の強制、転校生の襲来。
『可愛い子だといいね』
息を整え、画面を落とす。
確かに教室には座席が一つ増えていた。
昨日は転校生など、何も言われていない。
「はやく入れ。邪魔だぞ」
扉の前で止まる錬に担任が声をかける。
「すんません」
錬の座席は扉から五歩もかからず着く。
「はじめるぞー。すわれー」
相変わらず面倒臭そうな声をしている。
「先生! 転校生が来るのでしょうか!」
はっきりとした声で質問するのは委員長だ。
「お前らがとっとと座ったら来ます」
「わかりました! さっさとすわれぇ!」
言われる前に殆どの生徒は席に座っていた。
「はい。みんな大好き、転校生が来まーす」
扉の方に声をかけ、扉を開ける。
扉の前に立っていたのは腰まで届く白髪の少女だった。
担任が目の前に立ち、錬が顔をしかめる。
「椎名 志抱、です。茨城から来ました。よろしくおねがいします」
壇上に上がる少女が凛とした声で、笑みをこぼす。
「あー。悪いんだけど名前黒板に書いてくれる?」
「わかりました」
頷き、背を向ける。色白で、儚げな印象の少女だ。凛とした声には気品を感じる。だが、黒板に書かれた名前は殴りつけられたような字だった。
彼女の名前を背に、また少女――志抱が皆に目を向ける。
「はい、はくしゅー。椎名ちゃんは一番後ろの倭那くんの隣に座ってくれ」
倭那――蒼空の隣に志抱が座る。
その姿は、花のように可憐だった。




