第7話 指先でもらう君からの滅セージ
「やっと終わったか……」
見覚えのあるホーム画面が表示され、復元完了の通知が入って来た。
受験の結果発表と離任式も終わったとこで、ようやく父さんの都合もつき、スマートフォンの修理手続きをしたのだ。
いやはや休日の携帯電話ショップというのは尋常じゃなく混んでいて、自分達の番号が呼ばれた後も説明やら商品を勧められたりで中々終わらなかった。
といっても今回は修理ではなく、オプションに組み込まれていた同一機種との交換に落ち着いた。新品同様に梱包されていた、以前と全く同じ機種の全く同じ色。本来の金額よりと比べたらかなり格安だが、それでも高額なのは間違いなく、父さんから『次からはバイトして自分で払えよ』と念を押された。
スマホ云々関係なく、高校に入学したら早めにアルバイトを始めるべきだろう。お金なんてあるに越したことないし。
「おし! ちゃんとバックアップされてた」
壊れる前まで使っていたサインアカウントでログインすると、連絡先も何ら問題なく戻っていた。母さんに父さん、野上君に橋田、麻央、栞、そして美咲……。
「……は!?」
以前のまま使えそうなことに安心していた矢先、明らかにおかしい表示が目に入った。
トークルームの赤い吹き出しに見たことのない数字が出ていた。三桁を軽く超えて四百件のお知らせ……。
父さんと母さんからは一件ずつで麻央と橋田が三件。野上君は二件。ここまではまだ常識の範疇。この通知の殆どが美咲によるもので、一人で四百件近くメッセージを残している。余りに数が多すぎて、美咲のアイコンが数字で見えなくなっている。
ちなみに栞からはゼロ件。安定感が半端ない。最後にしたやり取りも、僕が投げた質問を見事に既読スルーされている。
「げっ!!」
美咲とのトークルームを開くとまたしても声が出てしまった。
『やっほー。受験勉強どう?』『勉強つまんなくない?』『ねーまだ勉強してんの?』『高校どこ受けんの?』『おやすみ』
とスマホが壊れた日はいつもの調子の美咲だった。
『昨日何してたの』『どしたの?』『何かあった?』『大丈夫?』
二日目と三日目は僕を心配する様子が殆どだった。
『あたし、葵空受けることにした』『なんとなくだけど、陽也くんも受ける気がしたから』
美咲も葵空を受けていたことに気付かされる。
となると同じ高校に通うことになる。本当だったら嬉しいはずなのに、卒業式の日の出来事がちらついてしまう。
僕が返事を出来ない状況なのを察したのか、それからしばらくメッセージは来ていなかった。
『ムカつく』『バカ』『返事しろ』『あいつなに?』『ウザい』『暇』『バカバカバカバカ』
卒業式の日、というか例の一件以降のメッセージの数が尋常じゃない。来ていたメッセージの大半がこれで、僕と七海さんの口がひたっすらに続いていた。時折混ざっている『暇』が音楽の授業で習ったブレスを彷彿とさせる。
「変にイラスト混ぜんなよ……」
怒ってるのは確かなんだろうけど『暇』とか挟んだりして、若干ふざけてるのもあるだろ。
それにしたっていくら下にスクロールしても全く終わりが見えてこない。ボイス付きのイラストが何かしら言ってくるのが鬱陶しい。
「あ……え?」
似たようなメッセージを下へ下へと延々流していると、軽快な通知音と同時に画面上部に通知が入った。
『あいつと付き合ってんの?』
相手は他でもない、今まさにメッセージを開いている最中の美咲だ。
完全に頭から抜けていた。僕が今トークルームを開いているとなると、今まで未読状態にあった数々の落書き、もといメッセージが既読状態になったのだ。そうなると美咲がトークルームを開けばすぐに伝わるわけで——。
『返事しろ』『既読無視すんなコラ』『付き合ってんの?』『知らんけど』
と雪崩のように傾れ込んでくるのだ。返事をしたいのは山々なんだが、絶え間なくメッセージが送られ続けているせいで何に対して返せばいいか分からない。
無理に返して『はあ?』だの『意味わかんない』とか返ってきても嫌だし。
だからってアプリを閉じるわけにもいかず、こうして前に送ってきたメッセージに目を通しながら好き勝手言わせてる。
気が済むまで言わせたら美咲も弾切れを起こすだろうし、僕にも返事をする隙が生まれるだろう。クールダウンしてもらわないと、何を返しても見てもらえないだろうし。
「はあ……僕も好きでスマホ壊したんじゃないのにさあ」
以前の分と現在進行形の分。一人時間差攻撃を繰り出す美咲にサンドバッグにされる僕。心配させてしまったうえに、久しぶりに会ってあんな喧嘩の後となれば仕方ない。
頭では理解してるし納得もしてるけど、一言二言言い返したいのも本心なのだ。
ピコンピコンピコピコンと通知音が鳴り続ける。こんなペースで送ったら、僕が送っても気づけないと考えないのだろうか。
「……止まった?」
漠然と画面を見ていたが、マシンガン通知は止んでいて、スクロールもようやく今日の日付に追いついていた。
「……っ」
トークルームの一番下、最後のメッセージが目に入った瞬間、僕は息を飲んだ。
『もしかして陽也くんの思い出の女の子ってあいつなんじゃない?』
これ以降美咲からメッセージは送られていない。
ただ単に疲れたのか、飽きたのか、他の事を始めたのか、それともこの質問に重きを置きたいのか意図は読み取れない。
たった一回会っただけでここまで的確に当てられてしまうと、美咲の中で何か確信めいたものがあったのかと勘繰ってしまう。
『そうだよ』と打ちかけたところで送信を押さずに真っさらな状態に戻した。
美咲には関係ない……とは言えない。
美咲との出会いも今の関係も全ては『みさき』から始まったのだから。
でも、この話はもう繰り返さない方がいいと僕は思う。
前に進ませてくれた美咲、打ち明けてくれた七海さん。二人のことを深く傷つける気がしたから。
だから僕は『この前はごめん。ずっと返事できなくて本当にごめん』としか返さなかった。
それから少しもしないうちに既読は付いたが、返事はいくら待っても来なかった。その日どころか春休みの間もずっと、美咲から返事は来なかった。




