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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第四章 『ガラクタピエロと水浸しの月』
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第2話 人魚姫とシンデレラ

 今まで意図的に二人が会わないようにしていたわけではない。二人の前で名前を出さなかったのも、何か特別な思惑があったわけでもない。

 本当に偶然重なり合わなくて、すれ違いどころか掠る事なくその時が来ただけなんだ。


 まさかこんな特別な日に出逢ってしまうとは思いもしなかったが……。


「ちょ……っ! 美咲みさき!? いきなりこいつ呼ばわりはないだろ!」

「そう? 陽也はるやくんもたまに使わない?」

「使うか! 勝手に人を巻き込むな!」


 生まれてこのかた誰かを指して『こいつ』呼ばわりなどしたことがない。ましてや初対面、いくらなんでもご挨拶が過ぎるだろ! これじゃ誤挨拶だ!


「それで? 誰なん? なあ?」

「美咲っ……! いい加減に——」


 清楚な大人しいお嬢様の格好からは想像もつかない凄みが言動から滲み出ている。

 普段あんなに綺麗な透き通った声をしているのに、どうやったらこんなドスの効いた声が出せるんだよ……。


 前にも急に機嫌が悪くなったりはしたが、こんなの今までが可愛いレベルでヤバい……。

 睨み方とか迫力が尋常じゃない……というか、途中の方から明らかに僕じゃなくて七海さんの方に向けてたよな。


 僕が隣に目を向けると、月の光のような穏やかな微笑みで迎えられた。


「いだぁっ!?」


 足を踏みつけられた。


「やっとこっち向いてくれたね。陽也君!!」

「いぎゃっ!」


 もう一度足を思い切り踏んづけられた。

 一撃目も二撃目も踵を的確にめり込ませる有効打なのだが、スニーカーの上からこんなに痛いって、一体どれ程の力が込められているのだろうか……。素足だったら確実に怪我してるよな。


「え? 陽也君何しゃがんでるの?」

「いや……痛くてバランス崩しちゃって」

「へ〜。バランスが悪いのは思いやりのかけ方だけじゃないんだね〜」

「う……ごめんなさい」

「どうしたの? なんで謝ったの? 思い当たる事があるの?」

「あの、やめ——」

「どうして謝るの? 教えて? ちゃんと教えて?」


 頬に膝の辺りをぐりぐりぐりぐり押し付けられているせいで上手く喋れない。タイツのサラサラした感触に、同年代の女の子の体温に柔らかさ、短くなったスカートが真正面で動くと目のやり場に困るというか……。


「美咲と話すのにむ——」


 口元付近に脚が近づく。


「え? よく聞こえなかった」

「あのさあ、いい加減にやめたら? 陽也くんマジで嫌がってんじゃん」


 隙をついて立ち上がる。

 呼びかけられているのに七海さんは美咲を見向きもしない。


「陽也君、ここ汚れてるよ」

「あ、ごめん。ありがと」


 バシバシと埃を払ってくれてはいるが、力加減が結構強め。てか普通に痛い。


「ねー、さっきから何無視してんの? あたし喋りかけてんじゃん」

「え? 私? ごめん全く気づかなった。まだいたんだ?」

「はあ?」

「え……」


 待って。美咲はともかくなんで七海さんまで喧嘩腰なの?


「無視するつもりはなかったんだけど……陽也君といるとこ『邪魔』されたり、いきなり『こいつ』呼ばわりされたから相手にする必要あるのかなって疑問だったの」

「思いっきり無視するつもりだったんじゃん。さっきといい趣味悪過ぎ」

「さっき? なんのこと?」

「陽也くんのこと蹴ってたじゃん。何あれ?」

「蹴ってないけど? ね?」


 な、何故僕に振る。しかもこれって答えが一つしか用意されてないタイプのやつだよね。


「いやいや、陽也くんに訊いても意味ないし。つーかこっち向けよ」

「はあ……面倒な人に絡まれちゃったなあ……どうしよ」

「そっちが陽也くんとどんな関係かどーでもいいけど、人が嫌がってることやめな?」

「だから蹴ってないし嫌がってないって言ってるでしょ」

「いやいやいやいや普通に嫌がってるから。あれで嫌がってないとか眼科行った方いいよマジで」

「何回言えばわかるかなあ……陽也君、手貸して」

「え。あ、うん」


 言われるがまま手を貸すと、七海さんはそのまま僕の手を取って片足を上げながら自分の膝の辺りまで持っていった。


「ほら、こんな感じだよ。これでも蹴ってるって言えますか? 嫌がってるように見えますかあ?」


 今度は僕の手が七海ななみさんの膝に押し当てられる。


「あの……これは微妙に違う気が……」

「陽也君しーっ。このまま因縁つけられても面倒でしょ?」

「聞こえてんだけど」

「っ!」


 こ、こわい……。

 美咲も七海さんも何が火種になってヒートアップしてるかさっぱりだ。本当に初対面だよね?


「てかいつまでやってんの? 無理やり自分で触らせて虚しくならないの?」

「え? 私は動かしてないよ? ねえ? 陽也君」

「ち、違う違う! 僕も動かしてない!」

「そんなんどーでもいいから。てかそれ普通にキモい。マジで」

「そうかな? 陽也君はどう思う?」

「あのさあ! いちいち陽也くんに頼るのやめてくんない?」

「どうして?」

「ウザいから。つーか近いから離れろって」

「あたっ」

「あ……」


 美咲が僕を突き飛ばして七海さんと正面から向き合う。


「あースッキリした」

「……私からも言わせてもらうね」

「あ?」

「さっきも言ったけど、初対面の相手に向かって『こいつ』はどうかと思うよ? えっと……美咲さんだっけ?」

「あーハイハイ」

「ちょ……美咲! いくらなんでもその態度ないだろ! 僕もその点に関しては同意だ!」




 いくら温厚な七海さんでも怒って当然だ。

 いつもの何倍も怖いのは気になるけど、いずれにせよ二人は僕の大事な友人なんだ。第一印象のせいで誤解されたままなのは僕が嫌だ。二人には仲良くなってほしい。


「はあ? なに? 陽也くんそっちの味方すんの?」

「当然です。ねー陽也君」

「うっさい! 悪趣味は喋んな!」


 原因は美咲だけど、七海さんも七海さんで挑発し過ぎだとは思う。らしくないにも程がある。


「んで!? 陽也くんはそっちの味方なの!? ねえ!?」

「ちょっと美咲落ち着いて! 僕はどっちかの味方とかじゃなくて、純粋に第三者として平等に意見したまでだよ。だから出逢って間もないのにあんな呼び方したらマズイかなって……思ったりする」


 美咲の目つきの鋭さに押されて声のボリュームが弱々しくなっていく。


「なるほど。全部美咲さんが悪いって陽也君は言いたいのかな」

「全然違うから!」

「……うざ。なにこいつ」

「美咲……」


 普段の二人ならこんな事態にはならないはずなんだけど——。


「てかさっき、あたしと陽也くんが喋ってる間ずっと睨んでたからね。こいつ」

「え?」

「……」


 美咲の変わり様ばかりに気を取られてたけど、本当なのか?


「ねーねーどーしたのー? おい、なんか言えよ」

「……先に私の邪魔してきたのはそっちでしょ。お邪魔虫」

「なに? 聞こえない」

「なんでわからないかな。あのね、私と陽也君の二人でお話してたのに、割って入って邪魔したのはそっちだよ」

「……あーそうかも? 忘れた」

「適当言わないでよ。大事な話だったのに邪魔されたら怒るよ。大体なんなの? 私がどれだけ今日のために……ほんと最低」

「邪魔したのは悪いかもしんないけどさ、そこまで怒る?」

「もういい時間の無駄。いい加減帰ってよ」

「無理」

「なんで」

「陽也くんに用があんの」

「私がね。私が先」

「じゃあ終わるまで待ってる。いつ終わる?」

「ダメ。今日はもうダメ。私でいっぱい」

「そうなの?」

「え……僕は——」

「陽也君は黙ってて!」

「こっわ。めっちゃヒスってんじゃん」

 

 美咲の挑発にすかさず睨み返す七海さん。


 確かに今日の出来事は、美咲が横入りみたいになっちゃって七海さんが怒るのも当然だ。

 でもこれは僕が美咲に待ってて貰えばよかったんであって、矛先は僕に向けるのが正しいと思うんだけど……。


「いい加減しつこい。邪魔しないでよ。星坂の制服着てるけど、陽也君のなに? まさか幼馴染なんて言わないよね?」

「あたし? 陽也くんのかわいい彼女」

「」


 無理やり間に入ってでも僕が七海さんに謝るべきでは。

 そう思いついた瞬間、聞き覚えのある爆弾発言が放たれた。

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