12
リリアーナとエドワードの結婚が決まった。
その知らせがノルディア中に広まった翌日。
「……大変なことになりましたね」
工房の窓から街を眺めながら、リリアーナは呟いた。
「うん」
隣に立つエドワードも、どこか遠い目をしている。
二人の結婚を知った街の人々が、朝からものすごい勢いで動き始めていた。
「リリアーナ様! 採寸をお願いします!」
「リリアーナ様、花嫁衣装の生地はこちらとこちら、どちらがよろしいですか!」
「大聖堂の設計案が三つ届いております!」
「馬車の装飾について相談が!」
「料理の試食をお願いします!」
「招待客の席順について――」
次々と人が押し寄せてくる。
リリアーナは目を丸くした。
「……ちょっと待ってください」
「はい!」
「私たちの結婚式ですよね?」
「もちろんです!」
「どうして街全体が戦争でも始まったみたいになっているんですか?」
すると、一人の職人が胸を張った。
「何を言っているんですか、リリアーナ様!」
「え?」
「ノルディアがここまで大きくなったのは、誰のおかげだと思っているんです?」
「……皆さんのおかげです」
「違います!」
即答だった。
「リリアーナ様が魔道具を作ってくださったからです!」
別の女性も続く。
「うちの子が学校に通えるようになったのも!」
「うちの夫が工房で働けるようになったのも!」
「うちの村に水道魔道具が入ったのも!」
「商売ができるようになったのも!」
次々と声が上がる。
リリアーナは困ったように笑った。
「でも……だからといって、こんなに大きな結婚式にする必要はないんじゃないでしょうか?」
その言葉に、街の人々が一斉に顔を見合わせた。
そして、
「認めません」
「え?」
「小さな式など認めません」
「ええ?」
「リリアーナ様には、盛大な結婚式を挙げてもらいます」
「でも、ノルディアには小さな教会しか……」
「だから作ります」
「……はい?」
職人たちが笑った。
「大聖堂を」
リリアーナは絶句した。
隣にいたエドワードが、静かに額を押さえる。
「……始まったね」
「何がですか?」
「ノルディア名物、『誰かが何かを言うと、全員で本気にする』が」
その日から、ノルディアは結婚式に向けて動き始めた。
最初に始まったのは、大聖堂の建設だった。
石材を扱う村から大量の石が運び込まれた。
木材を扱う村からは、巨大な梁が届けられた。
鉄工所からは、扉や装飾のための鉄細工が運ばれてくる。
ガラス職人たちは、巨大なステンドグラスを作り始めた。
「リリアーナ様を象徴する色は何だ!」
「青だ!」
「いや、白だ!」
「魔道具の光をイメージして金色も!」
「全部入れよう!」
そんな会話まで聞こえてくる。
リリアーナは建設現場を眺めながら、呆然としていた。
「……本当に作っている」
「うん」
「本当に大聖堂を……」
「うん」
「半年で?」
「たぶん」
「たぶんって何ですか」
エドワードが苦笑する。
「もう誰にも止められないよ」
実際、その通りだった。
大聖堂だけではない。
花嫁衣装も、街の女性たちが中心となって仕立て始めた。
「リリアーナ様のドレスは私たちが作ります!」
「刺繍は任せて!」
「レースはうちの工房で!」
「宝石は商会に相談して!」
「魔道具で光る装飾もつけましょう!」
「待ってください!」
リリアーナが慌てて止める。
「ドレスに魔道具を仕込む必要はありません!」
「ですが、夜になったら光りますよ?」
「結婚式は昼です!」
「では、披露宴で!」
「そういう問題ではありません!」
一方、男性陣は馬車を作り始めた。
「花嫁を乗せるんだから、最高の馬車にしよう!」
「車輪はもっと大きく!」
「魔道具でゆっくり走るようにしたらどうだ?」
「いや、目立ちすぎるだろ!」
「結婚式なんだから目立っていい!」
こちらも大騒ぎだった。
リリアーナは何度も、
「普通の結婚式でいいんです」
と言った。
そのたびに、
「駄目です」
と返された。
「小さな教会で十分です」
「駄目です」
「ドレスも普通ので――」
「駄目です」
「馬車も今あるもので――」
「駄目です」
ついにはエドワードまで同意した。
「僕も、もう諦めたよ」
「エドワードさんまで!」
「だって、みんな嬉しそうだから」
その言葉に、リリアーナは黙った。
建設現場では、大人も子供も忙しそうに働いている。
誰も嫌々やっているわけではない。
むしろ、みんな笑っていた。
「……そうですね」
リリアーナは小さく笑った。
「では、お任せしましょう」
それから半年。
ノルディアに、新しい大聖堂が完成した。
街の中心、大通りの先にそびえる白い石造りの建物。
高い尖塔。
巨大な扉。
色鮮やかなステンドグラス。
天井には美しい木彫り。
内部には、魔道具の淡い光を利用した照明が並び、昼間でも柔らかな光が差し込んでいた。
完成した大聖堂を見上げて、リリアーナは言葉を失った。
「……王都の大聖堂にも、負けていませんね」
「みんな、本気だったからね」
エドワードが隣で笑った。
「こんなものを半年で……」
「ノルディアの人たちは、君のことになると異常に頑張るから」
「それ、褒めているんですか?」
「もちろん」
「ならいいですけど」
そして、結婚式の前日。リリアーナは完成した大聖堂を、一人で訪れていた。
誰もいない、静かな礼拝堂の中央に立つ。
天井は高く、ステンドグラスから差し込む夕方の光が、床に色とりどりの模様を落としていた。
リリアーナは、ゆっくりと周囲を見回した。
「……本当に、立派になりましたね」
最初にノルディアへ来た日のことを思い出す。
古びた建物。
舗装されていない道。
一つしかない井戸。
魔道具もほとんどなく、村人たちは毎日の生活に追われていた。
自分は何も持っていなかった。
家族も。婚約者も。王都での居場所も。
自分に価値があるのかさえ分からなかった。
ただ、追放されただけだった。
それなのに今、目の前には大聖堂がある。
その周りには、大きな街がある。
道があり、学校があり、工房があり、店がある。
そして、そこに住む人々がいる。
自分を必要としてくれる人たちがいる。
「……不思議」
ぽつりと呟いた。
すると、背後から声がした。
「何が?」
振り返る。
エドワードだった。
「……どうしてここに?」
「明日の準備が終わったから、君を探してた」
エドワードは彼女の隣まで歩いてくる。
「それで?」
「少しだけ、昔のことを思い出していました」
「昔?」
「ここに来たばかりの頃のことです」
リリアーナは笑った。
「私、本当に何もありませんでしたよね」
「うん」
「魔法も使えなくて」
「うん」
「婚約もなくなって」
「うん」
「家族にも見放されて」
エドワードは何も言わない。
ただ、彼女の手を取った。
「でも」
リリアーナは、その手を見つめる。
「今は、こんなにたくさんのものがあります」
「……そうだね」
「こんなにたくさんの人がいます」
「うん」
「そして――」
彼女は隣に立つエドワードを見上げた。
「明日、私はあなたのお嫁さんになるんですよね」
エドワードが笑う。
「そうだよ」
「……幸せですね」
「僕も」
二人はしばらく、その場に立っていた。
やがてリリアーナが、ぽつりと言う。
「エドワードさん」
「ん?」
「私、明日は泣いてしまうかもしれません」
「いいんじゃない?」
「化粧が崩れます」
「そのくらい、僕が何とかするよ」
「どうやって?」
「泣くたびに褒める」
「余計に泣きますよ」
「じゃあ、ずっと褒める」
「……もう」
リリアーナは笑った。
その笑顔を見て、エドワードも笑った。
そして迎えた結婚式の日。
朝から街は大騒ぎだった。
大通りには花が飾られ、店には祝福の文字が掲げられている。
「リリアーナ様、おめでとう!」
「エドワード様、おめでとうございます!」
「お幸せに!」
街のあちこちから声が飛んでくる。
リリアーナは純白のドレスを身にまとっていた。
細やかな刺繍。
長いヴェール。
胸元には、小さな青い石が一つ。
アルセリアの海でエドワードから贈られたものだった。
ドレスには、ノルディアの女性たちが一針一針縫った刺繍が施されていた。
袖には、最初に魔道具を作ったときに使った水車を模した模様。
裾には、ノルディアの街を象徴する小さな花。
そしてヴェールの縁には、彼女とエドワードが初めて一緒に見た海を思わせる青い糸。
「……全部、覚えていてくれたんですね」
リリアーナはドレスを見つめながら呟いた。
「もちろんです」
着付けを手伝っていた女性が笑う。
「私たちは、リリアーナ様がこの街で過ごしてきた時間を、一つも忘れていませんから」
その言葉に、リリアーナの目が潤んだ。
「……ありがとうございます」
そこへ扉が開いた。
「リリアーナ」
振り返る。
そこには、正装したエドワードが立っていた。
しばらく何も言わない。
「……エドワードさん?」
「……」
「どうしました?」
エドワードは少しだけ息を吐いた。
「困ったな」
「え?」
「やっぱり、今日も世界で一番綺麗だ」
「……また言ってますね」
「今日は何度でも言うって決めてるから」
リリアーナは頬を赤くした。
「……ありがとうございます」
そして二人は、大聖堂へ向かった。
大通りには、街の人々が並んでいた。
道を作った者。
大聖堂を建てた者。
ドレスを縫った者。
馬車を作った者。
魔道具を作った者。
学校を作った者。
農作物を育てた者。
商売を支えた者。
その全員が、今日だけは仕事を止めて二人を見ていた。
馬車がゆっくりと進む。
「おめでとう!」
「リリアーナ様!」
「エドワード様!」
「幸せになってください!」
「ずっとノルディアにいてください!」
子供たちが花びらを撒く。
老人たちが手を振る。
職人たちは帽子を脱いで、深く頭を下げる。
リリアーナは馬車の中から、何度も何度も手を振った。
そして、気づいた。
道の端に、自分がノルディアに来たばかりの頃から知っている老人が立っている。
あの日、井戸の前で声をかけてくれた人。
「水を汲むのは大変でしょう?」
そう言ってくれた人。
その老人は、今は杖をつきながら笑っていた。
「リリアーナ様!」
リリアーナの目から、涙が一筋こぼれた。
「……はい!」
声を返す。
「お幸せに!」
「……はい!」
また一筋、涙が落ちる。
けれど今度は、笑っていた。
やがて馬車が大聖堂の前で止まった。
大きな扉が開く。
その先には、ノルディア中の人々がいた。
職人たち。
商人たち。
学校の先生たち。
魔道具工房の仲間たち。
周辺の村々から来た人々。
小さな子供たち。
老人たち。
そして、二人を家族のように見守ってきた人々。
誰もが笑顔で二人を見つめている。
リリアーナは、一歩踏み出した。
その瞬間。
大聖堂いっぱいに拍手が響いた。
「おめでとう!」
「リリアーナ様!」
「エドワード様!」
「幸せになってください!」
拍手は止まらない。
リリアーナは歩きながら、何度も涙を拭った。
けれど、拭いても拭いても涙が出てくる。
隣のエドワードが小さく囁いた。
「泣いてるね」
「……エドワードさんもですよ」
「僕は泣いてない」
「嘘です」
「……少しだけ」
リリアーナは笑った。
二人は並んで祭壇の前に立つ。
そこで、リリアーナは客席を見渡した。
たくさんの顔。
知っている顔ばかりだった。
その一人一人が、自分の人生に関わってくれた人たちだった。
自分を助けてくれた。
失敗したときに笑ってくれた。
成功したときに一緒に喜んでくれた。
何もなかった自分に、居場所をくれた。
――家族を失ったと思っていた。
けれど、違った。
自分には、こんなにもたくさんの家族ができていた。
「……ありがとうございます」
思わず、言葉がこぼれた。
会場が静かになる。
「私がノルディアに来たとき、ここには何もありませんでした」
リリアーナはゆっくりと言葉を続けた。
「私は、自分には何の価値もないのだと思っていました」
何人かの人が、静かに首を横に振った。
「でも、皆さんが私の作ったものを使ってくれました」
「失敗したとき、一緒に笑ってくれました」
「成功したとき、一緒に喜んでくれました」
声が震える。
「気がつけば、私は一人ではありませんでした」
リリアーナは笑った。
涙を流しながら。
「今日、こんなに素敵な大聖堂を作ってくださったことも」
「こんなに綺麗なドレスを作ってくださったことも」
「こんなにたくさんの人が、私たちを祝ってくださっていることも」
「一生、忘れません」
深く頭を下げる。
「本当に……ありがとうございます」
一瞬の静寂。
そして。
大きな拍手が起こった。
今までで一番大きな拍手だった。
泣いている人もいた。
笑っている人もいた。
子供たちは意味も分からないまま、嬉しそうに拍手していた。
エドワードが、そっとリリアーナの手を握る。
「……僕も言っていいかな」
「はい」
エドワードは客席を見渡した。
「僕は、彼女に出会えて本当に幸せです」
「でも、それだけじゃありません」
エドワードは笑った。
「彼女を幸せにしてくれた、この街の皆さんにも感謝しています」
「僕がこれから先、彼女を幸せにすると誓います」
そしてリリアーナを見る。
「でも、もし僕が何か失敗したら――」
会場から笑いが起こった。
「そのときは皆さん、遠慮なく叱ってください」
職人の一人が大声で叫ぶ。
「任せろ!」
「エドワード様!」
「リリアーナ様を泣かせたら許さんぞ!」
「泣かせないよ!」
エドワードが笑いながら返す。
リリアーナは涙を拭いながら笑った。
「……頼もしいですね」
「僕もそう思う」
そして二人は、互いに向き合った。
誓いを交わす。
これからも共に歩むこと。
困ったときには支え合うこと。
嬉しいことは分け合うこと。
そして、どんな未来でも一緒に生きること。
最後に指輪を交換する。
エドワードの指には、リリアーナが選んだ指輪。
リリアーナの指には、エドワードが贈った青い石の指輪。
「……綺麗」
リリアーナが呟く。
「君のほうが綺麗だよ」
「今日はそればかりですね」
「だって本当だから」
また笑い声が起こった。
二人は顔を見合わせる。
そして、誓いの口づけを交わした。
その瞬間。
大聖堂の鐘が鳴った。
一つ。
二つ。
三つ。
鐘の音がノルディア中に響いていく。
大聖堂の外でも歓声が上がった。
「おめでとう!」
「お幸せに!」
「リリアーナ様!」
「エドワード様!」
花びらが舞う。
子供たちが走る。
職人たちが笑う。
老人たちが涙を拭う。
街中が、二人の門出を祝福していた。
大聖堂の扉から外へ出たリリアーナは、その光景を見て立ち止まった。
ノルディアの街。
自分が作った魔道具。
自分を受け入れてくれた人々。
そして、隣には愛する人がいる。
「……夢みたいです」
リリアーナが呟く。
エドワードが手を握る。
「夢じゃないよ」
「……はい」
「僕たちは今日、本当に夫婦になった」
「……はい」
「これからずっと一緒だ」
リリアーナは笑った。
「……はい」
そして二人は、皆に祝福されながら歩き出した。
その後の披露宴も盛大だった。
料理は周辺の村々から集められた食材で作られた。
食器はノルディアの職人たちが作った。
音楽を奏でる楽団には、街の学校を卒業した若者たちも参加していた。
そして、子供たちから二人への贈り物が渡された。
最初に出てきたのは、小さな箱だった。
「リリアーナ様!」
「これは?」
「僕たちから!」
箱の中には、一枚の絵が入っていた。
大きな街。
大きな大聖堂。
その真ん中に、リリアーナとエドワードが描かれている。
その周りには、たくさんの人。
「……これは?」
「ノルディアです!」
「みんな描いたの!」
リリアーナは絵を抱きしめた。
「……ありがとう」
涙が落ちる。
「大切にします」
次々と贈り物が届いた。
小さな木箱。
刺繍された布。
手作りの食器。
工房で作った小さな魔道具。
農家からは果物。
漁師からは保存された魚。
周辺の村からも、二人のために作られたものが届いた。
どれも高価なものではない。
けれど、一つ一つに、その人の時間と気持ちが込められていた。
リリアーナは一つずつ受け取り、何度も「ありがとう」と言った。
気がつけば、空には星が出ていた。
長い一日だった。
けれど、二人にとっては、あっという間の一日でもあった。
夜。
ようやく二人きりになった部屋で、リリアーナは大きく息を吐いた。
「……終わりましたね」
「うん」
「すごかったですね」
「うん」
「本当に……すごかった」
リリアーナは窓の外を見る。
遠くには、大聖堂の尖塔が月明かりに照らされている。
その向こうには、今日まで二人が育ててきたノルディアの街が広がっていた。
まだ新しい街。
けれど、たくさんの人の思いが詰まった街。
「……私、今日まで気づいていなかったのかもしれません」
「何に?」
「ノルディアが、こんなに大切な場所になっていたことに」
エドワードは何も言わず、彼女の隣に座った。
「最初は、ただ生きていくために魔道具を作っていました」
「うん」
「でも、いつの間にか、皆さんと一緒に街を作っていて」
「うん」
「今日、その街の人たちに祝福されて……」
リリアーナは微笑む。
「私、本当に幸せですね」
「うん」
エドワードが、そっと彼女の手を取った。
「僕も」
「エドワードさん」
「ん?」
「私、ここに来てよかったです」
エドワードは少しだけ目を細めた。
「僕も、君がここに来てくれてよかった」
二人は手を繋いだまま、しばらく黙っていた。
明日からは、アルセリアへ向かう。
海辺の街で、一か月ほどゆっくり過ごす予定だ。
だから今夜は、何かを急ぐ必要なんてなかった。
リリアーナはベッドに腰を下ろす。
エドワードも隣に座った。
そして二人は、手を繋いだまま横になる。
「……明日から旅行ですね」
「うん」
「一か月ですよ?」
「仕事のことは考えない」
「本当に?」
「本当に」
「工房から連絡が来ても?」
「無視する」
「魔道具の新しい設計案が届いても?」
「無視する」
「重要な商談が――」
「それも無視」
リリアーナがくすりと笑った。
「エドワードさん、変わりましたね」
「君と結婚したからね」
「それだけですか?」
「それだけじゃないよ」
エドワードは、繋いだ手に少しだけ力を込めた。
「君と過ごす時間を、もっと大切にしたいと思うようになった」
リリアーナは目を細める。
「……私もです」
二人は目を閉じる。
けれど、すぐには眠らなかった。
今日一日のことを、何度も思い返していた。
鐘の音。
花びら。
大聖堂。
街の人々の笑顔。
「おめでとう」という声。
そして、隣にいる愛する人。
リリアーナは目を閉じたまま、小さく呟いた。
「……エドワードさん」
「ん?」
「今日、私、世界で一番幸せな花嫁だったと思います」
少しだけ間があった。
それからエドワードが答える。
「うん」
優しい声だった。
「僕も、世界で一番幸せな夫だと思ってる」
リリアーナは微笑んだ。
「……おやすみなさい」
「おやすみ、リリアーナ」
二人は手を繋いだまま、眠りについた。
その夜、ノルディアでは遅くまで祝福の鐘が鳴っていた。
新しくできた大聖堂。
まだ若い商業都市。
そこに暮らす、たくさんの人々。
その中心で、一組の夫婦が新しい人生を始めた。
追放された令嬢が、たどり着いた小さな村。
そこから始まったすべての出会いが。
すべての失敗が。
すべての成功が。
今日という一日に、つながっていた。
そして二人は知らなかった。
この幸せな一日が、これから始まる長い人生の――
ほんの最初の一頁にすぎないことを。




