宝玉はけっこう凄いらしいのだが。
雑貨屋サリヴァンは、おれがこの村に来た時からの馴染みだ。小さな村なので専門の武器屋がなく、雑貨屋が兼務している。雑貨屋は他にも二、三軒あるが、当初から世話になっていたし、武器やその他もいろいろ融通してくれるので懇意にしている。
「ようナハル。また捨て猫を拾ったか。今度のはとびっきり可愛いな」
おれの後ろでリアノンが赤くなっているのがわかる。
「べつに顔で選んでるわけじゃないよ」
サリヴァンは全然変わっていない。会った時すでに親父だったが、今も親父だ。おれより年上だが、どの位上なのかおれも良く知らない。実は人外と言われても納得してしまいそうだ。ドワーフの血なんか流れていても不思議ではない。
そのドワーフ、いや雑貨屋の親父は、鑑定スキルを併せ持っている。おれもダンジョンで得たアイテムなどをよく鑑定してもらっていた。ギルドまで行って鑑定してもらえば済む話なのだが、ギルドはちょっと遠いし、ぶっちゃけ手数料が惜しかったりする。それに。
「今日はこいつを鑑定してほしいんだ」
こういういわくつきのシロモノをまず見てもらったりもするのだ。別に後ろ暗いところはないのだが、何となく知られたくない事というのはある。
「どれどれ。なかなか綺麗な石じゃないか。宝玉……こいつはユニークだな。中級、ことによると上級のにおいがするぜ」
あごひげをなでながら、サリヴァンはにやりと笑う。決して野卑ではないこの笑いは嫌いではない。
そして一瞬でそれだけ見当をつける鑑定眼は相変わらず大したものだ。
それからサリヴァンは、型通りの拡大鏡を出してみたり魔法陣を描いた紙を広げて見たり、ひとしきり宝玉を分析していた。それでなにがどうわかるのか、おれにはさっぱりわからない。
「ねえ、あれでなにかわかるの?」
リアノンが小声で訊いてくる。それはおれに訊くな。
「わかるらしいぞ。目利きは確かだ」
そんな会話もいっこうに気にせず、ひたすら鑑定にいそしんでいたサリヴァンはやがて顔を上げた。
「ふうむ。こりゃずいぶんとユニークだ。どこで手に入れた?」
「まあ、いろいろあってな」
まさか神さまからもらったとも言えず、ごまかす。ごまかし切ったとは到底言えないが、そんなワケあり品を時おり持ち込んでいるせいで、サリヴァンも深くは追求してこなかった。
「この嬢ちゃんに聞かせても大丈夫か?」
「かまわないが……そんなに大層なものなのか?」
少し不安になる。いったいおれは何をつかまされた?
「簡単に言うと補助魔法と付与魔法が使える。しかも魔法力が要らない。この石単体で使える」
「へえ。そりゃすごいな」
補助魔法は各種スキルを倍加させる魔法。付与魔法はあるスキルを何かに付与する魔法。
先の弓の例で行くと、補助魔法で弓の威力や速度を上げることができ、付与魔法なら弓が本来持っていない火の魔法や光の魔法を付与することができる。
そういった事ができるいわば『触媒』となる宝玉は時々出てくる。時々しか出ないから高価ではあるが。
だがその宝玉を使うためには、ある程度の魔法力を持っていないと使えない。つまり、職業『戦士』であるおれでは使えないのだ。魔法力が足りなすぎる。
ところがこの紫の石は魔法力を必要としないという。魔法力を込めた『魔法石』という宝石もあり、それはそれで高価なのだが、この石は宝玉と魔法石の両方の特性を持っているということになる。そんな石は聞いたことがない。
「へえ。そうなんだ。野っ原で拾った石ころとばかり思っていたのに」
リアノンがもの珍しそうに宝玉を眺める。
その石っころをかっぱらおうとした奴はどこのどいつだ、と言ってやりたかったが、サリヴァンにまで聞かせてしまうのは可哀そうだ。ぐっと言葉を飲み込む。
「いいのかそんなことを言って。この石ころがあればおまえの弓だってレベルアップが可能なんだぞ」
「え? ほんとに? どうやって?」
リアノンの目がきらきら輝き出した。おれは簡単に説明する。
「例えばさっき言った、スキルを矢の威力に全振り、これで五割増し。さらにこの石の補助魔法で威力倍加に全振りならさらに五割増しで二倍になるはずだ。ミノタウロスの例で言えば、これだけでも二射で致命的なダメージを与えられるはずだ」
「ほんとに!? そんなに威力があがるの?」
「いや、この石だけでも全振りなら二倍にできるぜ」
「え?」
サリヴァンの言葉にリアノンは目を剥いたが、
「やらんぞ」
そんな貴重なものをただでやるわけにはいかない。第一これはおれが貰ったものだ。
「だが補助魔法をかけてやることはできる。後は使いどころだな。そこは自分で考えろ」
「ちぇー」
リアノンは拗ねた眼をしてカウンターに突っ伏している。
「なんか、うまいことはぐらかされた気がする」
当たり前だ。
おまえみたいな小娘にまだまだ遅れをとるつもりはない。
「それより、この宝玉の効能はこれで全部か」
「まだありそうな気はするがなあ。おれに見えるのはここまでだ」
「そうか」
後は上級の鑑定士の分野、ということか。
だがそうなると費用もかさむし、なにより要らぬ所に情報が洩れる。それは避けたかった。
取り敢えず分かった効能だけでも大したものだ。使いではある。
「そういうわけで、次だ。魔法石を使った鏃がほしい」
「また変な依頼だな」
サリヴァンが妙な顔をするが、リアノンにはぴんときたようだ。かばと跳ね起きる。
「高価なのはわかっている。そうだな、風属性の魔法石がいい。数はそんなに要らない。せいぜい数本で充分だ」
消耗品である矢に貴重な魔法石を使おうなんて酔狂な奴はそうはいない。いたとしてもよほどの金持ちくらいだろう。そんな道楽品がこんな辺鄙な村で手に入ろうはずもなく。
「オーダーメイドになるだろうなあ。時間はかかるぜ」
「それはしょうがないな」
それでスキルが何割か補強できるならありがたい。
「けど、いくらかかるかわからんぞ。金はあるのか?」
「う……」
「やっぱりな」
そこは痛い。
蓄えがないわけじゃないがとても潤沢とは言いがたく、はっきり言って通りすがりの女の子にくれてやるには少々値が張りすぎる。
「えー、あたしにくれるんじゃないの?」
横からリアノンがのぞき込む。
「あたしの将来を買ってくれたものと思ったのに」
それは思わないでもなかったが、当の本人に言われるとなんかムカつく。
「誰がただでやるって言った? その分働いてもらう」
「えー」
リアノンが口を尖らせる。
「でもあたし、何にもできないよ?」
「仕方がない。もぐるか……」
冒険者が稼ぐ方法といったら、ひとつしかない。
ダンジョンに潜ってモンスターを倒し、アイテムをゲットしてくるという方法だ。
「リアノン。教えたことを実践してもらおうか。レベルアップしたスキルを確かめたい」
リアノンが目を輝かせる。昨日の落ち込みはどこへやら、期待に身を乗り出す少女を尻目に、雑貨屋に向き直る。
「あんたにもひと働きしてもらう」
「なんだ? 人使いが荒いな」
「当然だ」
どうせダンジョンに潜るなら最大限成果を上げたい。だとしたら情報は不可欠だ。
今までもサリヴァンの情報はずいぶん役に立った。だが今回は明確に探すものがある。難易度は格段に上がるだろう。
情報屋の今までの蓄積。
新しい弓使いのスキル。
それにおれが得た宝玉。
「おおいに期待させてもらおうじゃないか」




