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いい弓使いに上乗せしたいのだが。


「お、おはよ」

「よお、起きたか。朝めし、出来てるぞ。顔洗って来い」


 気恥ずかしそうに顔を出したリアノンに、おれは声をかける。


 朝食の用意はすっかり出来ていた。男の独り暮らしゆえ凝ったものは作れないが、パンにベーコンエッグ、豆の煮ものに果物くらいは用意している。あとは好みでミルクやヨーグルト、ちょっと贅沢すればお茶くらいは出せる。


 テーブルについたリアノンは、昨日みたいに目を丸くしていた。


「驚いた。本格的だね。意外とマメなんだ?」

「意外と、は余計だ」

「ごめんごめん」


 わざとむすっとした声を出すと、リアノンは笑って答えてみせた。


 所帯持ちならともかく、年中ダンジョンに潜って戻ってこない冒険者ともなれば、男女問わず大抵ろくなものは食っていない。保存のきく食べ物に偏るのは仕方のないことだ。

 それだけに、こういう『普通の食事』が珍しくまたありがたいことだというのは、よくわかる。


「男をつかむなら胃袋をつかめっていうけど、あんたに胃袋つかまれそうだ」


 肉厚のベーコンにかぶりつきながらリアノンが言う。こいつは村はずれのカラロー農場から直接分けてもらっている品だ。掛け値なしに美味い。


「べつにおまえの胃袋をつかんでも、おれにはなんの得もない」

「そんなこと言わないでよ。役に立つかも知れないよ?」


 まあいいけどな。そんなことを期待して食事を振る舞っているわけでもないし。

 そう思いつつおれもベーコンをかじる。塩味が効いていて、うまい。


「腹ごしらえしたら、ゆうべの約束どおり腕前のほどを見せてもらおうか。弓は専門外だが、なにか助言できることはあるかも知れない」


 ゆうべの、と言われて、リアノンは頬を染めてうつむいた。少し子供っぽい甘え方だったと自覚しているのかも知れない。まあそんな時もあるだろう。甘えられるときには甘えたらいい。



 ◇


「よし、いいぞ。射掛けてみてくれないか」


 野原に幾本かの的を立てて、リアノンに合図する。リアノンは頷いて弓を構えた。

 背すじをきりっと伸ばして弓を掲げる。矢をつがえて降ろすと両腕の広がりで弓が自然と引き絞られる。


(ほう……)


 美しいフォルムだ。真っすぐ突き出した左手も、大きく張った右肘も力を感じさせる。付け焼き刃ではない鍛え抜いた技であることがよくわかる。


「しっ!」


 矢がひょうと風切り音を立てて飛び、的の真ん中に突き立った。


「おみごと!」


 距離は二十メートルほど、標準的な射的だが、それを確実に仕留める腕前はやはり素晴らしい。


「つぎは連射、いくよ」



 おれの素直な褒め言葉に照れたのか、とがった声でリアノンが言う。


 弓を引き絞ってひと呼吸。矢を放つと同時に矢筒から次の矢を引き抜き、的に届く前に放つ。その動きをさらにもう一回。

 立て続けに三本の矢がそれぞれの的に命中した。


「おみごと!」


(やるじゃないか)


 これだけの速さと正確さ、なかなか得られる腕じゃない。どこが不満だったのかパーティメンバーに訊いてみたいほどだ。


「この技を以てして、きみの相棒どもは一体何が不満だったんだ?」

「威力が足りないって言われた」


 褒められて嬉しそうな半面、やや憮然とした声でリアノンが言った。


「ダンジョンで上級のミノタウロスと戦った時、矢は命中したけどあまり効かなかったんだ。足止めの役に立たないって言われた」

「それは仕方ないな」


 牛の頭に人の身体を持つミノタウロスは、上のランクになるとかなり手ごわい。矢は速度もあり、遠距離から攻撃できる利点はあるが、威力がないという弱点はあり、一撃で仕留めるのは至難の技だ。


「だけど風の加護も使ったんだろう?」


 確か風の加護を上乗せすれば、威力・速度とも三割増しにできるはずだ。


「それでも効かなかった。三射で膝をつくくらいまでは追い込んだけど……」

「ふむ。ちなみにきみのレベルは?」

「二十五」

「ほう」


 その歳にしては頑張っている。ずいぶんと修練を積んだのだろう。

 一方、ミノタウロスは上級ならレベル四十から五十というところ。弓にレベルが全て乗っているとすれば、二射か三射で致命傷になるはずだ。そうならないのは、他のスキルにレベルが食われているからか。おそらく昨日見た短剣のスキルにも割り振られているのだろう。理想を言えば、弓の「威力」にレベルが全乗せできれば、もっと上を目指せるんじゃないだろうか。


「だがまあ、あせってもしょうがない。一個一個やっていこう」

「いやだ」

「ん?」

「いやだ! あたしは絶対に見返してやるんだ! こんなところで止まっているわけには……」

「落ち着け。あせったってレベルは上がらない」


 おれはリアノンの頭に手を置いた。彼女はうつむいたまま涙目で震えている。よほど悔しい思いをしたのだろう。


「できることからやっていこう。まず風の加護の使い方だ」


 ちょっとした使い方を教える。


「弓全体に加護をかけると、弓全体の能力が上がる。それをひとつの属性に絞るんだ」


 弓全体だと弓のスキル、速度・威力・命中率などが三割上がる。それを弓ではなく矢に使い、矢の『威力』に全振りする。それで威力を五割増しにできるはずだ。


「そんな手があるの?」

「ああ。意外と知られていないがな」


 加護とはありがたい能力で、持てるスキルが一瞬で底上げできるため、その便利な能力に舞い上がってやたらに使ってしまうことが多い。みなそこまで細かく考えないのだ。

 だが今の力をほんの少しでもより高く、と考えた時には運用に気を遣う必要がある。地味な作業だがその積み重ねが最終的には大きな力の差となって現れる。ここら辺のノウハウは年の功と言いたいところだ。


 ほかに考えられるのは。


 まずはレベルアップ。

 つぎにユニークスキル習得。

 あるいは伝説の武具取得。

 その上に補助魔法、付与魔法で全体の数値倍加。


「取り敢えず出来ることからだ。加護の力の振り分け方は少しコツがいるから、いろいろ試してみてくれ」

「うん。わかった。ありがとう」


 涙目をきらきらさせて場に戻るリアノン。


 さて。


 これを習得すれば、少しはスキルの上乗せになる。それどころか、使い方を覚えれば底上げしたいスキルを自在に選べる。たとえば、すばしっこい奴が相手で、スピードが命中の鍵という時は速度を付加すればよく、距離があるときは命中率を最優先にするとか、同じ弓でも違う特性を引き出すことができるのだ。しかもその時には、普通に加護を得るより上昇率がいい。


 とは言え、現状では「少しの」上乗せにしかならない。ほかの方法もプラスしていかないと駄目だろう。となれば、より良い武具を求めて武器屋を当たる必要もあるだろう。


「おれの用事もあるしな」


 おれは宝玉を取り出した。綺麗な紫色が陽に映える。

 願わくばこいつが役に立ってくれるといいんだが。


 そう考えて、おれは苦笑した。

 これはおれがもらった宝玉のはずなのに、もう他人のために使うことを考えている。それがおれらしい、と言えばその通りなのだが。





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