再起のために王都に乗り込んだが。
この前のドラゴン戦では、祭り上げられて随分居心地の悪い思いをしたが、ひとつだけよかったことがあった。王さまの側近と知り合いになれたことだ。
王都に到着して、おれたちは近衛騎士団を訪ねた。
年若い隊長、キャセイは相変わらず、実にさわやかな笑顔でおれたちを迎えてくれた。
「驚きましたよ。突然のことで」
「すまないな、先触れもなしで。それにさらに、あんたの手を煩わそうとしているんだよ」
おれが申し訳なさそうに告げると、
「なにを心配していらっしゃるのですか? 遠慮など無用です。私にできることならなんでもしますよ」
満面の笑みで答えてくれる。
持つべきものは友だちだ。実にありがたい。
王さまの近くに侍る近衛騎士団ではあるが、身分はそれほど高くない。それでもキャセイはいろいろと骨を折ってくれた。
ほどなく王さまにお目通りの許可が下りた。
「感謝する。今はなんにも返せないが、この恩は必ず返すよ」
「お気になさることはないですよ。でも、期待して待っているとしましょう」
とても気のいい男に送り出されて、王城へと登る。
前回とは違う意味で、おれたちは緊張していた。何しろ王さまにいきなり会っておねだりをしようというのだから、不敬と言われても仕方がないという状況だ。
だが、おれたちはおれたちなりに必死だった。
「久しいな、魔女どの。それに勇者の面々にやっと会うことができた。嬉しく思うぞ」
「おそれいります」
竜退治の時は、怪我を理由にずる休みをしたわけなので、内心は冷や汗でいっぱいだった。それでも王さまは喜んでくれている。それが余計に心苦しい。
「今日は陛下にお願いがあって参りました」
あいさつもそこそこに、アシュリンが本題に切り込む。
「ふむ。『六属性の宝玉』を、か」
「はい。下賜してほしいとは申しません。ただ半年、いえ三ヶ月、これをお借りしたいのです」
それが必要な理由を、アシュリンは簡潔に説明した。
「遠慮することはない。魔女どのに差し上げてもかまわないぞ」
「いえ、さすがにそこまで甘えることはできません。拝借するだけでも充分でございます」
王さまはアシュリンが気に入っているのか、実に寛大だった。素直に無心すれば本当にくれそうな気がする。
だがそれでは宮廷内の魔術師たちの激烈な反発を買うおそれがあった。魔族と渡り合う上で必要なアイテムではあったが、無理を通して後ろから刺されてはたまらない。
「あいわかった。貴殿に貸与するとしよう」
「ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」
アシュリンは深々と頭を下げた。
「なに、そんな大そうなものでもない。そうだな、たまに話を聞かせにきてくれると嬉しい」
「はい、喜んで」
「次は魔族退治の話が聞けるかな?」
上機嫌の王さまの様子に、おれたちはほっと胸をなで下ろしていた。一歩間違えれば不興を被って叩き出されるようなお願いだったのだが、なんとかなったようだ。
しかし。
「お待ちください、陛下」
脇から進み出る者がいた。
見れば、宮廷魔術師とおぼしきローブをまとった年かさの男だった。ローブは煌びやかな金糸銀糸をふんだんに使って飾り立てられている。かなり身分の高い魔術師なのだろう。
「陛下、このような素性の知れぬ者に、王家の貴重な宝を与えるのはいかがなものかと愚考いたしまするが」
まさしく愚考だな。
口には出さなかったが、みな同じことを思ったに違いない。
「くれるわけではない。貸すだけだが?」
「それは口先だけのこと。国宝を手にしたら、そのまま逐電するかも知れませぬ」
やれやれ。おれは内心ため息をついた。
こういう難癖をつけてくる奴はどこにでもいる。アシュリンを始め、おれたちが素性の知れない者というのは間違いではなく、魔術師の言うことにも多少の理はある。
「アサドよ、貴公は直接目にしていないから仕方ないが、この者らは上位種のドラゴンに引けを取らぬ剛の者だぞ。宝玉を使うに相応しいと思うがな」
「おそれながら、陛下」
脇からもう一人進み出た者がいた。やはり魔術師のようだ。
「アサド卿の申し分にも一理ございます。国の宝にございますれば、卿が心配するのも当然のことかと」
「ふむ。その方らはみな、同じ考えか?」
魔術師連中は一斉に頭を下げた。なんとまあ、大胆な。
気の強い王さまが相手なら、全員その場で首を刎ねられても文句は言えないような行動だ。
思案する王さまが口を開いた時、
「大の男が揃いも揃って、嫉妬かしら? みっともないわね」
言い放ったのはアシュリンだった。
「なんだと?!」
気色ばむ魔術師たちを鼻で笑って、
「要するに、自分たちだけで独り占めしたいってことよね? 普段ならそれでもかまわないんだけど。今は非常事態なのよ。それが必要なの。どうしても止めたかったら力ずくで止めて見せなさいな」
腰に手を当てて、挑発的に言い放った。どうやらわざと煽っている。
そしてその挑発に相手は簡単に乗ってきた。
「どこの馬の骨とも知れぬ魔女風情が!」
「多少陛下のおぼえがめでたいからとつけあがりおって!」
「格の違いを思い知らせてくれるわ!」
その時おれは、こっそりキャセイに目くばせした。
彼はその意図を察してくれたようだ。
「陛下。こちらの魔女どののお力、わたくしも拝見しとうございます。どうでしょう、魔術師の方々と模擬戦を行ってみるというのは」
「うむ。それは面白そうだな」
王さまも前のめりで興味津々だ。何しろ王さまは前の謁見でも戦地でもアシュリンの実力をじかに見ているのだ。それが対人戦になったら――。男の子なら誰でも興味が湧くシチュエーションに違いない。
「魔術師たちよ。その方らで、これなる魔女の力を検分してみるとよいだろう」
王さまは早くもうきうきといった様子で玉座から立ち上がった。




