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ほうほうの態で逃げ帰ったのだが。


 それから数日。

 おれたちは再び、同じ場所にいた。

 ぜいぜいと荒い息をつきながら。


「はあ……まったく、あの脳筋ドラゴン使いったら!」


 アシュリンが悔しそうに言う。


 みな息をつくのに精いっぱいで言葉も出なかったが、心の中では全面的に同意だった。


 転移の術式で再度ダンジョンに入り込んだおれたちは、またも竜使いの魔族、キルキアランと鉢合わせしてしまった。


「きさまら! どこから入ってきた?! 今すぐ踏みつぶしてやる!」


 おれたちを見るなり、奴はドラゴンをけしかけてきた。話し合う糸口さえつかめず、おれたちは応戦するはめになる。


 今度の相手はレッドドラゴン。火を使うやはり上位種のドラゴンだ。パーティ単位で戦おうなんて自殺行為もいいところ。ましてやおれたち程度のレベルでは手も足もでない。最上にして唯一の戦術は「逃げる」だけだった。


「待てって! 話し合いに来たと言ってるだろ?」


 おれは懸命に声をかけ続けたが、聞く耳を持たないものにはどんなアプローチも意味がなかった。ほんとにこいつ、脳筋としか言いようがない。


 苦々しさに舌打ちしつつも、だが全員ただでやられるつもりはない。挑んでくるなら受けて立つまで。


 初お目見えのペトラの剣さばきは華麗だった。大見得を切っただけのことはあって、鋭い剣筋は速すぎて目で追い切れないほどだった。あまりの華麗さに見とれてしまい、つい自分の手が留守になってリアノンに叱られてしまう体たらく。

 相手が人間だったら、あるいは同サイズの魔族でもとてもかなわないだろうと思わせたが、しかし相手は巨大な赤竜、いかんせん威力が足りない。


 それをカバーするべくおれも横から突撃し、後ろからリアノンが援護する。魔法石を埋め込んだ矢は風の精霊の加護もあって威力も速度も並ではないが、それでも竜の固い鱗を貫くには足りなかった。

 それでも牽制にはなった。いらついた竜が炎の息をリアノンに叩きつける。それを防ぐアシュリンの黒霧は、さすがふたつ名に恥じない鉄壁の守りだ。


 その隙に竜の脇に回り込んで、おれは剣を振るう。打撃力ではこの中で一番あるはずだ。おれが何とかしないと。

 だが竜にひと太刀浴びせた直後、尻尾が襲ってきた。あわてて転がってよける。前回もそうだったが、こいつは厄介だ。さらに、油断していると頭上から手が伸びてくる。今回は人数が少ないから標的がばらけず、逆に竜が的を絞りやすくなってした。


(まずいな)


 竜の頭上では魔族の青年キルキアノンが勝ち誇っている。


「どうだ! 貴様ら人間では歯が立たないだろう? おとなしく踏みつぶされるがいい!」


 冗談じゃない。

 おれはぎりっと奥歯をかみしめた。高笑いしているあの脳筋野郎の脳天にげんこつを見舞ってやりたいところだ。

 だが実際には足もとにも及ばす右往左往するばかり。情けないことこのうえない。


「きゃあっ!」

「ペトラ!」


 竜の尻尾にペトラが吹っ飛ばされた。剣に劣らずすばしこい動きのエルフ娘でも限界が来たようだ。

 かくいうおれも手にした得物は極上なのだが、潜在力を十全に発揮しているとは言いがたかった。


 仕方がない。


「みんな! いったん逃げるぞ!」


 おれは自分の失敗を認めた。準備不足だった。会ってみればなんとかなる、と思っていたのが甘かったのだ。


 振り回される竜の尻尾を、聖剣を両手に握りしめて正面からがっちり受け止める。力対力のぶつかり合いでも、この剣なら負けることはないのだ。負けているとしたら、それは使い手に問題がある、とおれは苦々しく思った。


 尻尾を弾き返してペトラを助け起こし、アシュリンのいる所まで後退する。リアノンが矢で牽制している間にアシュリンの黒霧がおれたちを包み込んだ。


 そして一足飛びにダンジョンの外、である。


 座り込んでいる一同に向けて、おれは座り直し、頭を下げた。


「すまない。ちょっと無謀に過ぎた。もう一回策の練り直しだ」

「そうだね。今回は仕方ないよね」


 リアノンも同意する。彼女の弓は充分に牽制になったし助かったのだが、それでも悔しそうだった。空に向けて弓をかかげると、つぶやく。


「もっと……威力を上げないとだめだ。もっと……」


「アタシも、だね」


 アシュリンがおれに向けて言う。


「話し合うにしても、まず魔王の膝もとまでたどり着かないと。それにはあの脳筋坊やを実力で排除できるくらいの力がないとだめだわ」

「同感ね」


 ペトラも抜いたままの剣を持って、言う。


 みんな、前向きだな。


 おれは改めて剣を抜き、かかげた。失敗したにもかかわらず、心は高揚していた。今、ここで諦めるという考えは、誰一人としてもっていない。みんなもう一度挑戦する気でいる。それがとても頼もしくて、おれは嬉しかった。


 同時に、悔しかった。ものすごく悔しかった。おれが聖剣を使いこなせていれば、こんな失敗を味わうことはなかった。みんなの力を活かせなったのも、防御を突破して魔王のもとにたどり着けなかったのも、みんなおれのせいだ。


 このままではいられない。

 このまま終わってたまるか。


 悔しさと、怒りと、高揚感が血をたぎらせていた。

 どうすればいい? 考えろ。もっと考えろ。

 知恵でも道具でも他人の財布でも、利用できるものは何でも使う。体裁なんか気にしている場合じゃない。



 ◇



「アタシ、王都に行くわ」


 アシュリンの表情は真剣だった。

 思い詰めている、と言っていいほどだった。


「王都に行って、王さまに家宝を無心してくるわ」


 帰ってきておれの家で一休みしたのち、アシュリンが宣言したのだ。


「家宝って、この間使わせてもらった『六属性の宝玉』か?」

「そうよ。今はあれが必要なの」

「じゃあ、あたしも」


 隣のリアノンも決意表明する。


「おいおい、なにもあわてなくても……」

「王都に行って、風の精霊王にもう一回会わなくちゃ。あたしだってこのままじゃいられない」

「リア……」


 ふたりとも決意は固そうだ。

 じゃあおれは、どうすればいい?


「……とりあえず、みんなで王都を目指そう。話はそれからだな」


 ふたりにも、ペトラにも、不満はなかった。


 おれは聖剣を見つめて、考えていた。

 みんなそれぞれに考えてくれている。それがおれには嬉しくて仕方なかった。


 みんな自分の使命を全うしようとしている。

 こんな前向きのパーティ、おれは今まで見たことがなかった。


 であれば、おれができることは。


 ひとつは聖剣の加護をフルに引き出すため、俺自身が強くなること。

 もうひとつは、メンバーがもっと強くなれるよう手を尽くすことだ。


 さて、化け物じみた実力を持つこいつらに、何をしてあげたらいいだろう?



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