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やって来た弓使いの提案なのだが。


 敵意がないことを示すように軽く両手を挙げるペトラに、おれはちょっと気まずい思いで剣を置いた。

 それはみな同じで、リアノンは短剣を、アシュリンは杖を、それぞれしまう。


「ま、どんな時でも油断していないのは、さすがいい冒険者だと言っておくわ」


 ペトラは笑いながら手を降ろす。


「で、国を救ったパーティのヒロインが、こんなうらぶれた場所に何か御用ですかな?」

「国を救った一番のヒーローが、何をおっしゃいますやら」


 すらりとした肢体に、さらりと長い金髪のクールビューティ。その笑顔にはいつもニヒルな色合いがにじんでいた。そのせいで「いけすかない」印象をおぼえるのだが、なぜだろう、今はそのニヒルさが少し寂しげに見えた。


「まあ、お互い腹の探り合いも何だな。適当に座ってくれ」


 お堅い式典の場でもないので、おれはざっくばらんに席を勧める。


「で、お祭りは無事終わったか」

「まあね」


 大した感慨もなく、ペトラがさらっと返事をする。大仰な式典に辟易していたのは彼女も同じらしい。


「わたしたちのパーティね、解散することになったわ」


 同じくらいさらっとしたひと言に、茶の用意をしていたリアノンの手が一瞬止まった。


「ノーランは王さまに働きを認められて、王立騎士団に見習いとして取り立てられることになったわ。あなたに借りた剣のおかげかもね」


 ノーランには最後に聖剣を貸し与えた。その効果は確かにあっただろう。


「でもそれだけじゃ王立騎士団なんて入れないだろ。奴の頑張りも認めてやれよ」

「そうね」


 ペトラは淡々とつぶやく。


「ニールはノーランと一緒に王都へ。もう一回魔法の勉強をし直すそうよ。『ミスティ・ミストレス』に負けない魔術師になるって」

「ずいぶん大仰なふたつ名だけど、そんな奴いたっけ?」

「あなたのことじゃない。『殲滅の黒魔女』さん?」

「はあっ?」


 アシュリンが椅子から転げ落ちそうなほど驚いて、大声をあげた。


「あら、知らなかった? あらゆる攻撃を弾き返す『鉄壁の魔女』。ブラックドラゴンの雷撃すら飲み込んでしまうミストはきっと、闇の精霊王の寵愛を受けた情婦ミストレスの技に違いない、『黒霧の情婦ミスティ・ミストレス』ってもっぱらの噂なんだけど?」


 驚きのあまりアシュリンは口をぱくぱくさせている。


 アシュリンの字名はルナ。全ての人をわけ隔てなくいつくしみ、惜しみなく愛を与えた、癒しの聖人だ。それなのに得体の知れない闇の化身みたいな見られ方をされたのでは、そりゃ意外を通り越して傷つく。なによりもう男どもが怖がって近寄るまい。


「こんなに慈愛にあふれた若く美しい娘をつかまえて、よりにもよって情婦だなんて!」

「……慈愛にあふれるというより、愛欲にまみれた発言しかしてないけどな」


 他にもいろいろ突っ込みどころはあるが、なかなか的確なふたつ名だと思うぞ。


「まあ、『愛欲の魔女』か『殲滅の黒魔女』かは本人に選んでもらえばいいとして」

「その二択なの?! それしかないの?!」


 よよよと泣き崩れるアシュリンを尻目に、ペトラは残りのメンバーの消息を続ける。


「あと、ゴルビーはロルカン伯爵家お抱えの騎士になれそうよ。あの剛力が親衛隊長さんに気に入られたみたいね」

「みんな、すごいじゃないか」


 どれも冒険者としては破格の取り立てと言っていい。ドラゴン相手に命を賭けた甲斐があったというものだ。


「で、きみは?」

「ゴルビーには付いて来てくれってせがまれたんだけどね」


 ペトラの口調はさばさばしている。


「知ってる、リアノン? ゴルビーったら、あんたに惚れてたのよ?」

「はっ?!」


 いきなりの話題転換に、リアノンはあやうくカップを取り落としそうになる。


「最初わたしが加入した頃は未練たらたらでさ。で、慰めてあげているうちに、ね」


 ペトラがぽっと染めた頬を両手で押さえる。おーおー、くっついたりひっついたり、若いもんはええのう。


「なのに行かないのか?」

「そうね。あなたのそばにいるわ」

「はっ?」

「あなたといた方が面白そうだから」


 今度はおれが固まる番だった。



 ◇



 ぽかんと口を開けて固まっているおれを、じと目で見つめるリアノンとアシュリン。それを横目で面白そうに眺めているペトラ。伝承のとおりの、とんだいたずら好きの小妖精エルフだ。


「あんた、あの短い時間で打ち合わせてるのかと思ったら口説いてたのね」

「そんなわけあるか!」


 アシュリンに型通り突っ込んでおいてから、おれはペトラに向き直る。


「おいおい、何の冗談だ? おれなんかからかったって何もでないぞ?」

「冗談のつもりはないわ。言葉のとおり、あなたのパーティに入れてほしいのよ」

「いや、あのなあ……」


 自分で言うのもなんだが、うちみたいなうだつの上がらないパーティにわざわざ来なくても、今のペトラなら引く手あまた、どんな栄達も思いのままだろうに。


「それに、うちにはリアがいる。弓使いは間に合ってるぞ」


 もとよりうちのパーティは能力的にも性格的にもみんな前に立ちたがらないので、バランスが悪いことはなはだしい。このうえさらに後衛の弓使いが加入しても戦力アップにはならないだろう。


「それも知ってる。『フェイルノートの少女』『緑の弓の姫』、ずいぶんと人気が上がっているみたいね」


 リアノンがおれのそばに寄ってきて、ふふんとなけなしの胸をそらしてみせる。

 まあそれだけの実績も技量もあるのは間違いない。今目の前にいるペトラほど美人ではないが可愛いし、何より矢を射る姿が美しい。おれもひそかに気に入っているのだが、やはり同じように思っている奴が多いのだろう。


「そうね。だからこそ奪いがいがあるわ」

「は?」

「だからナハル、あんたを賭けて、ここの弓姫の座をリアノンと争うのよ」

「「「はああああっ?!」」」


 何を言っているのか意味がわからないんだが。

 いや、意味はわかるが、何がどうなっているのやら。


「今をときめく弓使いですものね。少しは腕に覚えもあるんでしょう? だったら自分の男くらい、自分で守ってみせなさいな」


 あまりに唐突な展開に目が点のまま固まっていたおれたちだったが、ペトラは言葉を止めない。


「もちろん、受けなくてもかまわないわ。誰も困らない、この先あなたが自分に向き合えなくなる以外は、ね。どう? やるの、やらないの?」


 沈黙がおりた。


 今、人気絶頂とも言える、弓使いの美少女ふたり。

 黙ってにらみ合っている。


 同じく黙ってその様子を見守りながら、おれはわずかな違和感を覚えていた。ペトラは明らかにリアノンを挑発している。

 何のために? もちろん、このパーティに参加したいがため。パーティに弓使いは二人も要らない。それはわかる。だが本当にそれだけか?


「……わかった。受けて立つよ」


 長い長い沈黙を破って、リアノンが答えた。


「そう。じゃ、さっそく始めましょうか」




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