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久しぶりに出会った仲間なのだが。


 しばらく留守にしているうちにチュアムの村はずいぶんと賑わいを見せていた。

 まずはドラゴン退治にやって来た領主の直営部隊。ベルクレアの町から遠征してきた二十人ほどの部隊だ。


 ベルクレアはこの辺一帯を治めるロルカン伯爵が拠点としている場所で、チュアムの村からはかなり遠い。というよりチュアム村が辺鄙に過ぎるのでどこから見ても遠いのだが、そんな自分の領地なのかどうかわからないような土地までちゃんと気を配ってくれる伯爵さまには頭が下がる。


 で、その遠征部隊のほか、うわさを聞きつけた腕に覚えのある冒険者などが集まり出している。正直そいつらが戦力として頼りになるかどうかは怪しいものだが、人の賑わいという点では大いに貢献してくれていた。さらにはそれを目当てに行商人などもついてきて、村はかつてないほど沸き立っていた。


「こんな片田舎まで、みんな酔狂なこったな」


 おれはいつもの酒場で、リアノンとアシュリンを相手にジョッキを傾けていた。こんな小さな酒場にまで見おぼえのないよそ者が飲みに来ている。まさにドラゴン・バブルと言っていいかも知れない。


「まあいいんじゃない? 景気がいいにこしたことはないよ」


 リアノンが笑って答える。相変わらずの果実酒も二杯目だ。一杯目は狎れなれしく言い寄ってきた冒険者に頭からぶっかけてしまったので、ほとんど飲んでいない。酔客が多く、それもほとんどが冒険者みたいな荒くれ者である場所では仕方がない。


「バブルに湧いてるわねえ。アタシもあやかろうかしら」


 そう言い出すアシュリンに、


「また怪しげなポーションとか売りつけるんじゃないだろうな?」


 返事をしないところを見ると、図星らしい。王さまですら直々にほしがるようなすごい物を作れるくせに、なんでまたそんなインチキに手を染めるのだろう?



 ◇


「よお。誰かと思えばリアノンじゃないか」


 ふいに横から声をかけられた。

 見ると、四人組の若者。冒険者のようだ。ちらりとリアノンを見やって、おれは不穏な気配を感じた。リアノンは表情を硬くしたまま、彼らと目を合わせようとしない。


「久しぶりだな。まさかこんなところで会うとは思わなかったぜ」

「こんな辺鄙なところまで流れて来てきていたとはな。まあ、おまえにお似合いかも知れないぜ?」


 にやにや笑いながら話しかける四人組。非常に印象がよろしくない。

 歳のわりには腕が立つのだろう。それは何となくわかる。だがそれに舞い上がってしまい、昔の仲間を完全に上から見下している。いただけない。


「そうそう、新しいパーティメンバーが加入したんだ。弓使いのエルフだぜ。すごいだろ?」


 後ろに控えていた四人目は黄金色の髪をしたエルフの少女だった。少女といってもエルフは長命な種族だから実際の年齢はわからないが、すごい美人なのは確かだ。


「ハーフエルフじゃない、純血だぜ。さすが正統派は腕が違うな」


 その言葉を聞いて、おれは思わず立ち上がりかけた。

 今のは明らかにハーフ――正確にはクォーター――であるリアノンに対する侮辱だ。腕の良し悪しはともかく、出自は彼女のせいではない。それを馬鹿にするのは人として一番やってはいけない行為だ。


 おれの気配に気づくこともなく、先頭のリーダー格らしい男は得意げに続ける。


「おまえのところの今のパーティメンバーは、これか? 中年ばっかりだな。これでドラゴン退治なんてできるのかよ? ま、おまえにゃ似合いのメンバー……」


 彼は最後まで言い終えることはできなかった。

 リアノンがジョッキの中味を勢いよくぶっかけたからだ。


「わっ!? なにしやが……」


 空になったジョッキが床に落ちるより早く、リアノンはひらりとテーブルを飛び越え、若者に向かって短剣を突き立てた。


「なにしやがる!!」


 かろうじて受け止め、リアノンの右手首を掴んだ若者に噛みつかんばかりに、リアノンの顔が迫っている。怒りに燃えた眼の光は本気で殺しにかかっている戦士のそれだ。


「謝れ、ノーラン、謝れ! あたしの仲間を侮辱することは許さない! 謝れ!」

「なにいきり立ってるんだよ?」

「おまえは人として言っちゃいけないことを言った。おまえの目にどう映ろうと、みんなあたしの大切な仲間なんだ。みんなに謝れ!」

「なんだよ、そんなことで」


 ノーランと呼ばれた若者は、それでもまだへらへらしている。膂力では男の彼の方が上だ。リアノンは抑え込まれて身動きができない。


「どうしても謝らないっていうなら、おまえの命であがなわせるよ」


 リアノンの動かせない右手が短剣を落とした。それを素早く左手でキャッチし、鋭く突き出す。


「うおっ!?」


 ノーランは右肘を張り出してあやうくリアノンの腕を払ったが、そのままリアノンは彼に抱き着いた。左手が後ろに回されて、短剣の切っ先は肝臓の位置をぴたりと狙っている。


「さあ。謝れ。でなきゃおまえを絶対に赦さない」

「てめえ……」


 ノーランの表情が怒りにゆがむ。


「調子に乗るんじゃねえ!」


 がつっ! と頭突きをかました。ひるんで一瞬離れたリアノンの頬を裏拳で張り飛ばす。

 派手な音を立ててテーブルと椅子を巻き込みながら、リアノンがふっ飛んだ。


「昔の仲間だと思ってやればつけあがりやがって! そっちがその気ならこっちも容赦しねえぞ!」


 そう叫んで抜刀したノーランの前に、おれは立ちふさがった。


「どけ! おっさん! 怪我したくなきゃ引っ込んでろ!」

「そうはいかないな」


 可愛い弟子にして現在の仲間にこんな仕打ちをされては、黙って見ているわけにはいかない。ましてリアノンは「大切な仲間」と言ってくれたのだ。これに応えずして、胸を張って男だと、剣士だといえようか。


 ノーランの両脇の仲間たちもつられて剣を抜く。あーあ、抜いちまったな。拳だけならただの喧嘩で済んだものを。剣を抜いてしまった以上、さてこいつらはどこで手を打つつもりでいるやら。


 そう思っていると、おれの隣に立つ人物がいる。


「さっきから聞いてりゃ、いけすかないガキどもだねえ。ちょっとくらい腕に覚えがあるからって、調子に乗ってると痛い目を見るのはアンタたちだよ」


 アシュリンが腰に手を当て、胸をそらして若者たちを睨みつけた。平たい胸でははなはだ迫力に欠けるものの、目が据わっている。そうとう腹を立てているな、これは。


「うるせえ。おまえらみたいなロートルに説教される筋合いはねえよ」


 変わらずノーランは、威勢がいい。もう引っ込みがつかないか。

 しかし酔った勢いとはいえ、ほんとにいけすかないガキだな。


「いいだろう。だがこんな狭いところで剣を振り回すのは感心しないな。表に出ろ」

「いい度胸だ。ニール、ゴルビー、やるぞ」


 大股に店を出ていく三人。その背中を思い切り蹴とばして、おれは扉を閉めた。


「てっ、てめえ、勝負するんじゃねえのかよ?! 卑怯だぞ!」

「やかましい!」


 どんどんと扉を叩く三人組。まったく、どの口が卑怯とか抜かしやがる。

 おれは酒場の娘が持ってきた物を受け取ると扉を開け、


「おまえらにゃこれで充分だ。くらえ!」


 バケツの水をぶっかけた。


「うわっ?!」「ぶわ?!」

「嬢ちゃん、もっとくれ」

「あいよ!」


 売り子の娘も大喜びですっ飛んでいく。見ていた回りの連中も面白がって群がってきた。


「うりゃ!」

「ちったあ頭冷やしやがれ!」


 続けざまに冷水を浴びせかけられ、びしょ濡れになった三人組は捨て台詞を言う暇も与えられない。


「てめえら、こんなことしてタダじゃすまないからな!!」

「うるせえよ。おととい来やがれ」


 誰かが水魔法で鉄砲水を飛ばした。まともにくらったニールとゴルビーがはるか後方に吹っ飛んでいき、ノーランが追いかけていった。恨みのこもった一瞥をおれに投げつけて。


「あははは。一戦してやるつもりだったけど、なんかせいせいしたわ」


 アシュリンは店にいた常連客どもとハイタッチなど交わしている。

 あとに一人残された、弓使いのエルフ娘。彼女は静かにおれに訊いた。


「で、わたしをどうするつもり? 嬲りものにして犯すのかしら?」

「ばか言え。そんな野蛮なことをするか」


 そう言うとエルフ娘はくすっと笑って、


「冒険者のくせにかっこつけちゃって。こんな美人、抱いてみたいってちょっとは思ったでしょ?」

「おまえもいけすかない奴だな」


 冒険者がみんな、そんなケダモノであるわけがない。それこそ冒険者を馬鹿にしている。


「だから小娘はとっとと帰って寝ろ。おまえにゃもう用はない」

「そうね。あんたにはいい人がいるみたいだし」


 エルフ娘はちらっとリアノンの方を見てから、「じゃ」と片手を挙げて去って行った。



 ◇


 突然のお祭り騒ぎに小さな酒場は大いに盛り上がっていたが、その輪を離れておれは騒ぎの発端の人物に歩み寄った。


「リア……」


 うずくまっているリアノンの肩にそっと手を置く。


「ちくしょー……ちくしょー、悔しいよ」


 腕の間に顔を埋めたまま、リアノンの涙声がこぼれてくる。


「あんな奴らにばかにされて、なんにもできないなんて……あたしの仲間は……誰がなんて言ったって最高の、大切な仲間なんだ。あいつらなんか……あいつらなんかに、ちくしょー……」


 おれはリアノンの頭をくしゃくしゃとなでた。


「ありがとな、リア。おれたちのために怒ってくれて」


 いつの間にかリアノンのとなりにはアシュリンが座り、背中をなでている。


「どれ、顔を見せてごらん。治してあげる」


 リアノンのほほにそっと手を当てた。ほのかな光がアシュリンの手からあふれる。


「女の顔に手を上げるなんてひどい奴だねえ。縁を切って正解だわ。でも」


 いたずらっぽく魔女はほほえむ。


「傷は治してあげるけど、涙は専門外だからね。そこの色男に慰めてもらいなよ」

「うん。そうする」

「おやおや。ごちそうさま」


 なにを調子に乗ってやがる、この魔女め。

 だけど。


 直情径行型の弓と風の使い手、変幻自在の近接戦闘の名手、リアノン。

 最上級の闇魔法の使い手、治癒術師のくせに山っ気たっぷりの魔女、アシュリン。

 野良剣士にして付与魔法と補助魔法をもつ、脇役のスペシャリストの、おれ。


 誰がなんて言ったって、おまえらは最高の仲間だよ。

 そしてこいつらを名実ともに最高にする。誰にもけちのつけようがないほどに。

 それがおれの役割だ。




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