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美少女といい雰囲気だったのだが。


 新しく発見したダンジョンの件は、雑貨屋サリヴァンに丸投げした。

 小さな村のなんでも屋の親父は、予想通り目を剥いておれに答えた。


「い、い、いいのかナハル? そんな大発見、どれだけの儲けになるか見当もつかないぞ」

「どのみちおれたちじゃ儲けにできないよ。下手なことはしない方がいい。なんならあんたが管理してみるか? 任せてもいいが」


 サリヴァンはしばらく宙を睨んでいたが、やがて首を横に振った。


「やめとこう。おれみたいな田舎者には無理だ。取り敢えず王都に遣いを出そう。王さまには報告しとかないと、後で要らぬ疑いをかけられても困る」


 もっともな配慮だ。この件はサリヴァンに一任して大丈夫だろう。


「だがな、おれたちが多少の恩恵にあずかるのはかまわないと思うんだ。ちょっとは融通してくれるとありがたい」

「そのくらいお安い御用だ。できる範囲で便宜をはかろう」

「助かる」


 サリヴァンに協力を約束させたところで、おれは手もとの地図に目を落とした。



 新発見のダンジョンから帰還して以降、おれたち三人はそれぞれの領分に精を出していた。


 リアノンはスキルアップした弓の確認と鍛錬に余念がない。もうすぐ魔法石の矢も手に入るからさらに威力があがるはずで、彼女もモチベーションはおおいに上がっている。


「絶対に奴ら、見返してやる」とはリアノンの言。このまま頑張れば、彼女を見限った元パーティメンバーが羨むくらい腕を上げるに違いない。もうひと押し何かあるといいのだが、それは今考え中だ。


 アシュリンは神殿で無事闇の精霊王との契約を果たした。これでもともと持っていた治癒系魔法のレベルは飛躍的に上がり、最上位の魔法まで使えるようになる。本人の魔法力は強いから、相当な事ができるはずだ。


 その能力をさっそく生かして、なにやら怪しげな薬を作っているらしい。本人に言わせると「最高のポーション」ということなのだが、うさんくさい響きしかないのは日頃の本人の行いのゆえか。


 そしておれは、あることを確認するべく雑貨屋に来ていた。


 今まで二人のレベルアップに貢献した場所。アイテムが隠されていたり、精霊が宿っていたり、それらはいずれも湖や池のそばだった。


 そして今見ているのは、一番最初に神さまがくれた地図だ。例の、十五周年剣士永年勤続のご褒美の在り処を記した地図。大ざっぱな地図だ。その地図を見ながらここ数日の出来事を思い返す。


 リアノンが魔法石を得た場所。

 アシュリンが精霊と話した場所。


 それは池や湖の真ん中あたりの、岸が水面へ突き出した突端にあった。ものすごく強引な見方をすれば、この地図が示す場所と地形的に似ている。


 そこでおれは、ある可能性に思い至ったのだ。


 神さまがくれたご褒美とは宝玉ではなく、この地図なのではないかと。

 この地図が示すような地形の所に、さまざまなアイテムが埋もれているのではないかと。



 馬鹿げた話だとは思う。そんな都合のいい話があるわけがない。ならばこういった地形のところには漏れなくお宝が埋まっているのか? そんなわけがない。

 だが『この地図を手にした』『ナハル』が、その地形の場所に行けば、何がしかの成果が得られるのではないか? それこそが『神さまの本当のご褒美』なのではないか?


 実は神さま、ものすごい恩寵をくれていたのではないだろうか。


 あり得ない。真偽のほどを確かめたくても、神さまは答えてくれない。だが今のところ、全部当たりをひいている。はずれを引くまでは、どれほど馬鹿げていようとこの仮定は『真』だ。


 ならばはずれを引くまで、このクジに乗ってみる価値はある。


「さっそくだが、亭主。地図を頼みたいんだが」



 ◇



 数日のうちにリアノンの矢も出来上がった。

 リアノンはとても喜んでくれた。


「ありがとう。試してみるから見てて」


 リアノンの弓を構えるフォームはとても綺麗だ。見ていてほれぼれする。

 そして狙いは相変わらず正確だった。


「どうだ? 自分の矢と較べて違和感はないか?」

「うん。ほとんどない。今までと同じように狙えるよ。すごいねこれ、どうやって作ったの?」


 普通違う材料を上乗せしたりすれば、当然重さやバランスが変わる。矢のような細くて軽いものは、わずかな変化でも大きな差異が現れもする。ましてや腕のいいものとなれば、わずかな感覚の違いが見過ごせない誤差となりかねない。


 この矢は魔法石を埋め込んでいる。なるべく小さく、重量も影響が少なくなるよう配慮した。

 それを鏃ではなく、矢羽の方に埋め込んだ。だから重心が若干後ろに下がった程度で、特に頭部のバランスは変わらないよう腐心したのだ。工夫がうまく当たったようで、嬉しくなる。


「これなら使えそうだな。こいつでばりばり働いて、きっちり代金分は稼いでもらうからな」


 おれは半ば冗談めかして言った。


 矢に埋めた魔法石には、あらかじめ魔法を蓄積しておくことができる。が、ごく小さなものなので大した量は溜められない。レベルにしてせいぜい五くらいだろう。

 だがたとえ数値五でも侮るなかれ。例えば今のリアノンの弓のスキルがレベル十五だとする。本人のレベルは二十五だとのことだがそこまでの威力はなかったので、おそらく短剣とか他のスキルに取られているのだろう。仮に十五と見積もった数値に、魔法の矢の五が上乗せされる。それをリアノンが得た風の魔法で威力を倍加すると四十になる。

 さらにおれの補助魔法を追加したとしたらレベルは六十、先のミノタウロスくらいなら一発で倒せる。充分に中級冒険者の腕前だ。


「ついこの前までやさぐれてた自分がうそみたいだよ。順調過ぎて怖いくらい」


 リアノンは嬉しそうに笑う。が、急に眼が真剣になる。


「ねえ、ナハル。やっぱり一緒に組んでもらえないかな?」

「……おまえがここにいる間は出来る限り協力するよ。その先は、もっと上に行けるようおれも考えてみよう」


 おれはわざと直截に答えなかった。若干未練があったのは事実だ。

 だがリアノンは、もっと上に行けるはずだ。もっとレベルの高い連中と組んで精進すればきっと上のステージに上がれる。こんな所でおれみたいにくすぶっていていいはずがない。せっかくの才能を感情に流されて潰すような真似はしたくなかった。


「……うん、わかった。頼りにしてる」


 リアノンの笑顔が少し淋しそうなのが、つらい。


「さてと、じゃあ装備も整ったことだし、今夜は酒場で燃料を補給して冒険に備え……」


 そう言いかけて、ふと、向こうの方から何かがものすごい勢いで近づいてくるのに気がついた。


「何だろ?」

「さあ……?」


 みるみる大きくなってくるその物体は、真っ黒いかたまりに見えた。それは真っ黒な服と帽子、そして長い黒髪のせいだとわかった。

 やがておれたちの眼の前でばったりと手をついた、それ。魔女のアシュリンだった。


 何がなんだかわからず、黙って顔を見合わせるおれとリアノン。ぜえぜえと肩で息をしながら、やっと少し落ち着いたらしいアシュリンは、がばっと顔を上げた。


「ど、ど、どうしよう? ナハル、アタシなんか悪いことしたのかしら?」

「落ち着けアーシュ。何があった?」


 おれの手をぎゅっと握りしめたアシュリンは、青ざめた顔をして震えている。ただ事ではない。


「ああ、ちょっと欲をかいたばっかりに、天罰が下ったんだわきっと」


 混乱していて、言っていることがよくわからない。

 おれとリアノンは顔を見合わせるばかりだった。




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