とほうもないお宝ゲットなのだが。
「あ~~、ヒマ」
おれの隣でリアノンがごろごろしている。
二枚目の扉の途中で早くもリアノンは飽きてしまった。寝転がったり走り回ったり花を摘んで編んでみたり、それも飽きて今はおれと貝合わせのような事をしている。
おれは適当にリアノンの相手をしながら、アシュリンの傍らで要求される補助魔法を付与し続けていた。こういう地味な作業を根気よく続けられる集中力は大したものだ。
傍からみると、娘の相手をしながら嫁の内職の手伝いをしている旦那、という一家団欒の図に見えなくもない。
そのアシュリンの作業は、ペースが落ちてきていた。扉の仕掛けはどんどん複雑になり、解錠に時間がかかっている。三枚目の扉は三個一組の鍵が三個組み合わさったのがさらに三組、というややこしいものになり、四枚目はときどき解析を入れながら解いているのでかなり複雑だ。もうおれには理解不能な域に至っている。
やっと四枚目も開き、五枚目の扉に取りかかったところで、おれは夕食の支度を始めた。陽は傾いているし、今日中にコンプリートするのはとても無理だ。かと言ってアシュリンがやめる気配もいっこうにないので、その手助けに注力することにする。
◇
「おーい、アーシュ。いい加減メシにしないか?」
何度目かの呼びかけで、やっとアシュリンは作業を切り上げた。よろよろと火の側にやってきてぺたりと座り込む。おれからスープの椀を受け取り、音を立ててすすった。
「あ~、生き返るぅ……」
「おまえなあ、そういう色気のない所作はよくないぞ」
「ほっといてよ。もう、くたびれた~~~」
六枚目の扉まで開いたアシュリンはさすがに疲労困憊といった様子だった。自慢のとんがり帽子の下の黒髪もずいぶんとほつれ、どんよりした表情になっている。ますますデスマーチに追われるプログラマーの図になってきた。
疲れに負けてそういう仕草をしていると、見た目もさらに老けていく。大変だとは思うが、永遠の十七歳を名乗りたいならそこは気をつけてもらいたい。ちなみにおれは彼女の実年齢を知っている。敢えて言わないが、もうすぐ魔法少女を卒業して名実ともに魔女になるという年頃だ。
「しゃんとしないと、ばばあ呼ばわりされても仕方ないぞ」
「ふん。デキる女は時として女も捨てるのよ。今は仕事に全振りの時だわよ」
「へえへえ」
仕方がないので後ろに回って肩をもんでやる。
「あ~~~、きもちいい……。もう、とろけそう……」
恍惚とした声を出すアシュリン。無駄に色気があふれている。もっと有効活用すればいいのに、と思いながら肩をもんでいるおれを、リアノンが「くすくす」と笑いながら見ている。
「……なんだよ?」
「うん、なんだかんだ言って、ナハルって優しいなって。アシュリンのごはん作ったり世話したり、面倒見がいいよね」
そういう連中の世話を永年しているからか、確かにそういったスキルに長けているかも知れない。あるいはそんなだから、いわゆる「めんどくさい」連中が引き寄せられてくるのかも知れないが。
「そうでしょお、こんなにマメなのに未だに嫁がいないんだわさ。どう思う?」
「ほっといてくれ」
「いっそのこと、そこのリアをもらっちゃえばあ?。リアもまんざらじゃないんでしょ? 手籠めにして既成事実をつくっちゃえばさあ……」
「あほか」
「ああっ! また帽子つぶしたっ!!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ続けるアシュリンを放っておれは火の反対側へ移動する。リアノンと目が合うと、彼女は赤い顔をしてぷいっと横を向く。なんだその思わせぶりな態度は?
「んふふ~~、あとは若い二人にお任せしてえ……と、アタシは作業に戻ろうかしら」
どこかの世話焼きおばさんのようないやらしい横目でおれたちを見やり、帽子をかぶり直してアシュリンは岩壁に戻った。後に残されたおれたち二人は、手持ちぶさたで居心地が悪いことこのうえない。
「まったく……。まだ夜なべ仕事するつもりか、あの魔女は」
「でもすごい集中力だね。あたしには真似できないなあ」
「確かに、研究を始めると家事も食事もそっちのけであやしげな薬作ってたりするからなあ。だから男が寄り付かないんだよ」
一緒に仕事をしたことはあまりないが、アシュリンも昔は冒険者だったと聞く。魔法力は充分なのに攻撃系魔法が使えないせいで、ずいぶん苦労したらしい。それを補うために相当努力し、工夫もしたのだろう。
「さてと、その偉大なる魔女さまに敬意を表しつつ、おれたちは寝るとするか。ほかにすることもないしな」
◇
翌朝。天気も悪くない。
おれは朝食の準備を始めた。
隣ではアシュリンが「疲れ果てた」という態で眠っている。ゆうべのうちに八枚目まで突破したらしい。大したものだ。
寝顔は可愛い、と言えなくもないのだが、髪はほつれてぼさぼさ、衣服も乱れてせっかくの素材がだいなしになっている。
「おい、アーシュ。起きろ。朝めしだぞ」
「……んぅ?」
寝ぼけまなこで起き直るアシュリン。おれからパンを受け取ってぼんやりとかじる。そのさまはまるっきりの干物女。世話の焼ける奴だ。
そして食い終わるとまた作業に戻る。
その間おれはリアノンと、昼の食事の獲物を狩ることにした。仕事に面白みがない分、せめて食事には楽しみを見出したい。
◇
一心不乱に作業を続けたアシュリンの苦労も、やっと報われる時が来た。
午後も大分経ったころ。
「やった! ついにコンプリートよ!」
「ほんとか?!」
おれとリアノンが駆け寄る。アシュリンはさすがに感慨深いのか、しばらく岩壁を眺めた後、手を触れた。
ゆっくりと扉が開く。この向こうはまだ誰も見た者がいない。そう思うと少しわくわくする。大したものではないと言われているが、たとえそうでも気分は上がるものだ。
扉の向こうを三人してのぞき込んだ。
その先には、がらんとした空間が広がっていた。岩の天井と道、所々に岩の柱が立つ風景がえんえんと続いている。
「これってもしかして……」
「ダンジョン?」
予想もしない結果だった。小宝をゲットして終了かと思いきや、大変な大物があったものだ。これは持って帰れない。
「確かにお宝っちゃあお宝だわね」
「宝物も無限にあるかもね」
しかし正直言って、これは困った。新しいダンジョンなんて、持てあますしかない。
手つかずのダンジョンであれば、まだ誰も発見していないお宝が取り放題だろう。だが、どこにどんな罠や魔物が潜んでいるかわからない。第一広すぎて、どこに何があるのかわからない。個人の手には余る。
そういった場合、通常はまず『探索者』と呼ばれる職業の者たちが入る。どこに何があるかを調査し、その情報を売り出す。冒険者はその情報を買い、それを頼りにダンジョンに潜る。もちろん探索者は実際にお宝をゲットしたわけではないから、「ありそうだ」という確率的な情報になってしまうが、それも含めて冒険者のリスクだ。
よって、まず「ここにダンジョンがあるよ」という情報をリークしなければならないのだが。
「アーシュ、どうする? このまま隠しておいてもいいし、プレミアムをつけて情報を売ってもいい。発見者はおまえだから、決定権はおまえにある。どうだ?」
「あんたにも半分決定権はあるけどね」
「ゲットしたお宝は山分け」という約束をしたから、半分はおれのものと言えなくもない。しかしこれは想定外だ。おれに振られても、おれだって処分に困る。
アシュリンは黙って考え込んでいたが、やがて言った。
「決めた。公開しよう」
「いいのか?」
「アタシたちだけでがめても、しょうがないわ。永年世話になってる村にも少しは恩返ししないとね」
アシュリンの言い分を、おれは認めた。これを使って、やろうと思えばいくらでも儲けることはできると思うが、たぶんおれたちにはやり方がわからない。下手なことには手を出さず、専門家に任せた方が無難だ。
「とは言え、このままただ差し出してしまうのも惜しいな。少し探索してからにしないか?」
おれは二人に提案した。否やはなかった。




