久々の帰宅
何ヶ月ぶりだろうか?
司は着る服の種類が変わるほどの歳月の間、家に足を運んでいなかった。
見えていれば多少は問題ないが、それでも多少だ。なぜ家に帰ってまでストレスを感じなければならないのだろうか?ストレスを感じるのならそれは家でなくて仕事場と変わらない。
扉を開けると2人がばたばたと足音を立てながら玄関に来る。
「お帰り、司兄」「お帰り、司兄さん」
ドクンッと胸が締め付けられる。2つの意味でだが。
1つは家に戻ってきて2人と会えたこと。もう1つは今なら殺せるという殺意だ。
司の顔には笑顔の裏に憎しみが滲み出るような歪な表情を浮かべていたが、2人は気にすることもなく司の荷物を取り、リビングで休ませる。
「司兄何食べる?」
「あとで自分で作るよ。腹減ってないし」
「今日学校行ったんでしょ?お腹すかない?」
「なあんか食欲が出なくてな」
「ふーん、分かった。じゃあ先食べとくね」
「悪い」
2人が食事を取っている中、司は1人ソファーに座って携帯を触っている。内容は相変わらず仕事の資料の修正と作成だ。
つまりは家に帰っても仕事をしているということだ。本人も帰った意味があるのかと思ってしまうが、そんな邪念を頭を振って吹き飛ばす。
「(俺は家にいたいんだ。触れなきゃいい、触れなきゃいいんだ。最悪薬で感度を悪くすればいい。そうすればきっと・・・)」
右手で頭を抱えていると食事を終えたのか、モモが声を司にかける。
「司兄仕事の方はどうなの?」
振り返ることはしなかったが携帯を閉じて意識はモモへと向ける。
「まあぼちぼちといった所だな。時間をずらして仕事をしているせいで効率が落ちてるのにあいつらは俺を非難しない。奥底では思ってたとしても表情には出さないような優しい奴らなのに、俺は、それでも俺はあいつらを怖がってる」
「その方針はみんなで決めたんでしょ?ならいいじゃん」
「・・・・・・モモ、悪いけどこの話は疲れた日にするのはやめよう。自分が自分でなくなりそうだ」
「りょーかい。部屋に戻ってるから何かあったら来てね」
「今の時点でありまくりだけどな・・・ありがとな」
2人がリビングを後にすると、司はソファーから立ち上がり冷蔵庫の品に手を伸ばす。
「がっ・・・・・・!」
高熱の金属を触った時のように冷蔵庫から手を離す。
———殺せ———
「いい加減指紋とかで反応するのやめろよ・・・俺」
火傷をした時のようにタオルを手に巻いてから冷蔵庫に触れると反応はなかった。
中のものを適当に取りそれを使って料理を始めた
食事を済ませ片付けを終えた司は妹たちと同じように部屋に戻る。
「掃除してくれてありがとな・・・2人とも」
独り言を呟くように言ったので2人には聞こえてはいない。
そしてベッドの上に横たわると疲れていたのだろう、そのまま眠りについてしまった。
司が寝てから数分後、ノックもなしに1人の人間ががちゃりと扉を開けて入ってきた。
「流石に眠い時には自然と反応も鈍くなるから問題ないか」
外の光がその人間に当たり顔が僅かに見える。ゼロツーだ。
ゼロツーはベッドで寝ている司を見ると起こさないように小さくため息をつく。
「臭いがつくだろ・・・・・・」
司の服を破らず脱がせようとパーカーを脱がせたと所で司が目を覚ます。触れられたから目を覚ましたのだろう。
パーカーが司から離れた瞬間、オリジナルの時に見た少女の姿に変化していた。
「む・・・・・・ポツーじゃない。どうしたの?」
「元から起きてたのか?」
「寝が浅いタイミングで身体の向きを変えられたら起きるでしょ。わざわざ君がボクを起こすなんて欲情でもしたの?」
「姉貴のような人に欲情するわけないだろ」
「そうなんだ。ざんねん」
「やっぱりあんたと話すと色々狂うな全く。念のため聞くが今のあんたはどっちなんだ?」
「聞きたい質問は理解してるけど、わざと適当に答えさせてもらうよ。君がボクをゼロワンとしてでなくレッドフィールドとして見るなら、ワタシに戻ってもいい。今限定でお姉ちゃんに戻ってあげる」
ほら、と自分の膝を叩くゼロワン。ゼロツーは頭をガシガシと掻きほんとうにバツが悪そうだ。
「お姉ちゃんに任っせなさい!」
「任せた結果が今の状況では?」
「ソレハ禁句事項デス」
「確信犯かよ・・・・・・」
「意識はしてなくても、ゼロワンの記憶とツカサの記憶、そして・・・・・・これは誰だろ?まあいいや。君が脱がせようとした理由はよく分かってるから、とりあえず身体流してくるね」
ゼロワンはパーカーを掴みてってってーと跳ねるように部屋を出て行った。