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女魔獣師が召喚された理由  作者: 凛1129
悲しみを越えてガチ修行編
22/26

7話 お勉強タイム

「よし、ついてきな」


 アカネさんは装飾品がいくつもついたドクロの杖を地面でカシャンと鳴らし、店の外へ出ていった。


 ◇


 ザルドの町を出て五百メートルほど進むと、広い草原に出た。


 アカネさんはその真ん中まで歩いていくと、こちらへ振り返った。


「これからお前と契約してやる……手を」


「……」


「アヤ、凄いことニャ! 野良の神獣なんて、世界中探したって何匹もいないニャ!」


 チャトランさんは両手を広げて大喜びしているけれど、アタシは素直に喜べなかった。


 どうしても、フジのことを思い出してしまう。


(アカネさんだって……もう戦いたいはずないのに……)


「ネネネさん、アタシ……どうすれば……」


「……私に決めることはできません。そう言ったのはアヤさんですよ。アヤさんが決めてください」


 また涙が溢れてきた。


 フジのことを思い出すと、どれだけ強そうなアカネさんを前にしても、一番に浮かんでしまうのは同じことだった。


 また、死なせてしまったら――。


「アカネさん!」


「なんじゃ」


「契約すれば……死んでいく魔獣を減らせるんですね?」


「ワシを誰じゃと思うとる。むしろ利用するのはワシの方じゃ。ひゃっはっは!」


 アカネさんは不敵に笑っているけれど、その目はどこか優しかった。


「ちなみに名はもうゼノムにつけてもらっておる。手を重ねるだけでよい」


(ならば!)


 アタシは覚悟を決め、草原に手を置いた。


「行くぞ」


 アカネさんが、その手の甲へ自分の手を重ねる。


 瞬間――


 ズドォォンッ――!


 地面を叩きつけるような重低音とともに、アタシたちを中心に凄まじい衝撃波が広がった。


 草原の草が一斉になぎ倒され、チャトランさんまで吹き飛ばされそうになったところを、空中にいたネネネさんが咄嗟に受け止める。


「うっ……な、なにこれっ!」


 ミルと契約した時とは、まるで違う。


 アタシの身体まで持っていかれそうになるのに、手の甲を押さえるアカネさんはびくともしない。それどころか、逃がすまいとするようにさらに強く押さえ込んできた。


「手を離すんじゃないよ」


「離すどころか動けないんですけどぉ!」


 その間にも、アカネさんの姿が変わっていく。


 小さく丸まっていた背筋が伸び、皺が消え、白かった髪に艶が戻っていく。先ほどネネネさんと戦った時と同じ、若々しい姿へとみるみる変わっていった。


 そして――辺りが一瞬、夜になったように暗くなる。


「えっ?」


 次の瞬間、今度は目を開けていられないほどの眩い光がアタシたちを包み込んだ。


 光は草原いっぱいに広がったあと、吸い込まれるように収束し、最後には重ねたアタシとアカネさんの手の中へ消えていく。


 静けさを取り戻した草原に立っていたのは、もうさっきまでの小さなおばあさんではなかった。


「契約したからの。これで【若返り】も戦いの時だけでなく、好きに使えるようになったわい」


 そこに立っているアカネさんは、小さなお姉さんという感じになっていた。


 ◇


【ゼノムの家】


 遠く南の空に、巨大な光が立ち上っていた。


「ベルン方面から、あの光と雲――まさか」


「あの子……かもしれませんねえ」


 ゼノムとフローラは南の空を見上げていた。


 ◇


【高天原 城内】


「マガツ様、報告いたします。南南西の方角で、あり得ないほどの光が確認されました」


「何の光だ」


「恐らく魔獣との契約かと思われますが……あれほどの光と雲は見たことがありません」


「魔獣契約……超獣? 神獣? 野良の魔獣にいるというのか……」


 ◇


「さてとじゃ。弱っちい術者側を育てるのは初めてじゃが――」


「そうニャ、アヤは弱っちいニャ」


「母ちゃんは口だけだからなあ」


 アカネさんと契約した次の日、アタシとミルは再び草原へ呼び出された。


 そして、それを聞きつけたチャトランさんとギソンさんまで、わざわざニヤニヤしながら見物に来ている。


 最近では、バルガスさんがたまにアタシを『母ちゃん』と呼ぶせいで、ギソンさんまで真似するようになっていた。


(アタシはこんなゴツい子を産んだ覚えはないよ、全く)


「まずはアヤ。例えばワシに【老化】と命じてみよ」


「ええ……いいんですか? せっかく若いのに」


「ええい、余計なことはええ。殺すぞ、はよせい」


「はいはい」


 アタシはゼノムさんから貰ったタクトをアカネさんへ向けた。


「【老化】せよ」


 ◇


「おい! 母ちゃん、母ちゃん!」


「アヤ! アヤ!」


 目を開けると、アタシはギソンさんの太い腕に抱えられていた。


 すぐ隣ではミルも心配そうにアタシを覗き込んでいて、少し離れた岩の上では、アカネさんが何食わぬ顔でキセルをふかしながらチャトランさんに怒られている。


「いきなりぶっ倒れさすとはどういうことニャ!」


「弱っちい獣人なんかに教えてあげないよぉーだ」


(うわ〜……思いっきり喧嘩してますな)


「チャトランさん、アタシは大丈夫ですから」


 身体を起こすと、アカネさんも「ようやく起きたか……全くもう」とブツブツ言いながら岩から腰を上げた。


「ゼノムから聞いておるとは思うが、魔獣師は体力や腕力、魔力とは別に【精神力】を使う」


 ドクロの杖をカシャンと鳴らし、その先をアタシへ向ける。


「魔獣に命じ、能力を使わせれば精神力を消耗する。当然、扱う魔獣が増えれば、その減りも激しくなる。今のお前がワシほどの神獣をまともに動かせば、一度命じただけでこの有様じゃ」


「一回で気絶……」


「因みにゼノムは、神獣はワシ一体じゃったが、超獣を含めて六体を同時に操っとったぞ」


「六体? この婆さん入れてか?」


「信じられニャいな! あの爺さんが」


「時に、ヴァンガードの兄ちゃんよ」


「お、俺か?」


「お主は生粋のヴァンガードじゃ。そのお前が、魔法をそんなに恐れるか?」


「魔法? んー……溜め込まれた大技とか、遠くから気づかず飛んでくりゃ効くかもしれねえが……」


「なら昨日見た、ネネネという召喚者の技はそれほど怖いか?」


「いや、まあ……あれくらいなら耐えられるかなあ」


 ギソンさんは腕を組み、空を見ながら昨日の戦いを思い出しているようだった。


「では、そんな鉄壁のお前が恐れる相手はなんじゃ?」


「タイプって言われても、俺は山賊だから分からねえけど……親方の全力パンチは、とてもじゃねえけどまともに食らいたくねえな」


「次は猫獣人じゃ」


「チャトランだニャ!!」


「お主は何がやりづらい?」


「そりゃあ、コイツみたいに硬いやつニャ」


 チャトランさんは親指でギソンさんを指した。


「あとは、ばあちゃんみたいに自分より速いやつ。それを除けば、ネネネみたいに隙間なく魔法を飛ばされるのも厄介ニャ」


「そういうことじゃ」


 アカネさんはドクロの杖を地面へ突いた。


「戦いには向き不向きがある。そして今の世は、主にウォリアータイプを中心に戦場が作られておる。力で前線を破り、そこから他の兵がなだれ込む。じゃからウォリアータイプ至上主義と言われるわけじゃ」


 その後も修行と呼ばれるアカネさんの講義は続き、いつの間にかアタシたちを探しに来たネネネさんやバルガスさんまで、アカネさんの話を真剣に聞いていた。


 ◇


 恐らくアタシは、ここへ来て初めて戦争のことや、この世界で戦うために必要なことを勉強している。


(でも……もう悲しい思いはしたくない)


 一度で全部覚えられる自信なんてない。


 だからアタシは、アカネさんから教わったことを、あとで復習できるようノートに書き記しておくことにした。



【この世界の戦い方――アヤまとめ】



■基本となる四つの戦闘タイプ


【ウォリアー】

 攻撃と突破を得意とするタイプ。

 近距離での殴り合いや武器を使った白兵戦に強く、敵の前線を力で崩す役目を担う。

 アカネさんはここ。


【ヴァンガード】

 防御と迎撃、戦線維持を得意とするタイプ。

 ただ攻撃に耐えるだけでなく、衝撃波など敵を近づけさせない技や、仲間を守る能力も覚えやすい。

 ギソンさんはここ。それもかなり上位らしい。


【シーフ】

 素早さ、回避、奇襲、撹乱を得意とするタイプ。

 正面から殴り合うより、相手の攻撃を避けながら懐へ入り、戦場を引っ掻き回すことに向いている。

 チャトランさんはここ。


【メイジ】

 魔法を扱うタイプ。

 遠距離攻撃、範囲攻撃、支援など、覚える魔法によって役割が大きく変わる。

 ネネネさんはここ。



■男と女でも得意な距離が違う


 同じ戦闘タイプでも、男と女では力を発揮しやすい距離に違いがある。


【男性】

 基本的に、自分から離れた場所へ力を作用させることが得意。

 遠距離攻撃や広い範囲への干渉が伸びやすく、戦場全体を見渡しながら戦うことにも向いている。


 例えば男性のメイジなら、白兵戦には弱くても遠距離から大きな魔法を撃つことに向いている。


【女性】

 基本的に、自分に近い場所へ力を集中させることが得意。

 白兵戦や近距離での能力行使が伸びやすく、同じメイジでも男性より近距離から中距離での戦闘に向いている。


 ネネネさんが隙間なく魔法を撃てるのも、この性質が大きいらしい。


 ただし、これはあくまで基本。

 生まれ持った適性や種族によって例外はいくらでもいる。



■現地で生まれた人間


 四つの中では一番器用。


 生まれつき得意なタイプはあるけれど、ある程度なら自分で成長する方向を選べる。


 ウォリアー向きの人が防御技を覚えたり、ヴァンガード向きの人が攻撃技を覚えたりすることもできる。


 ただし、何にでもなれるわけではない。


 生まれつきウォリアー向きの人が必死に魔法を勉強しても、生まれつきメイジ向きの人と同じところまで成長するのは難しい。


 得意な道から外れるほど、成長には限界がある。



■召喚者


 ものすごい特化型。


 召喚された時に与えられたクラスが、その人の適性としてほぼ固定される。


 メイジならメイジ。

 魔獣師なら魔獣師。


 現地の人間のように、あとから別のクラスを覚えて成長することは基本的にできない。


 その代わり、自分に与えられたクラスでは、現地の人間では届かないほど成長する可能性がある。


 つまり――強いけど潰しが利かない。


(アタシ、魔獣師が向いてなくても転職できないじゃん……)



■獣人


 人間以上の特化型。


 オスは遠距離、メスは近距離という基本的な性質は人間と同じだけど、それ以上に種族による特徴が強く出る。


 例えば猫獣人なら、素早さや身体能力といった生まれ持った特徴が、人間では届かないところまで伸びる。


 その代わり、種族として苦手な方向へ成長するのは難しい。


 人間がある程度自分で成長する方向を選べるのに対して、獣人は生まれ持った強みと弱みが、かなりハッキリしているということらしい。



■魔獣


 獣人よりも、さらに極端。


 生まれ持った能力そのものがほとんど決まっていて、基本的にはそこから大きく外れた能力を覚えない。


 例えば氷を操るフェンリルが、成長したからといって突然炎を吐くようにはならない。


 その代わり、元々持っている能力の威力は、人間や獣人とは桁が違う。


 成長して超獣、さらに神獣へと上がっていけば、新しい力を得ることはあっても、基本となる特性そのものはさらに強くなっていく。



■魔獣師


 自分で戦うのではなく、契約した魔獣へ指示を出して戦わせる特殊なクラス。


 本来なら魔獣師自身は安全な後方に残り、戦場全体を見ながら離れた場所にいる複数の魔獣へ指示を出す。


 だから、自分から離れた場所へ力を作用させることが得意な男性との相性がいい。


 遠くにいる魔獣へ指示を送り、複数の魔獣を別々に動かしながら、自分は後方から戦場全体を見ることができる。


 ところが女性は、その逆。


 自分の近くへ力を集中させる性質があるため、遠く離れた魔獣へ細かい指示を出し続けることが苦手。


 魔獣を正確に動かそうとすればするほど、自分自身も前線へ近づかなければならなくなる。


 しかも、遠距離戦を得意とするオスの魔獣とは特に相性が悪く、複数を遠くから同時に操るのはさらに難しい。


 そして――もう一つ。


 女性の魔獣師は、契約した魔獣へ情を持ちやすい。


 傷ついた魔獣を助けようとして前へ出る。

 魔獣を死なせたくなくて、自分まで危険な場所へ入ってしまう。


 ただでさえ前線へ近づかなければ指示を出しにくいのに、そこで魔獣を庇おうとする。


 その結果――。


【女性魔獣師は非常に生存率が低い】


(…………)


 ここだけは、ノートに書いていて全然笑えなかった。



■その他


 魔人を含め、この分類だけでは説明できない種族や、特殊な能力を持つ者もいるらしい。


 アカネさん曰く――


『そんなもんまで今教えたら、お前の頭から煙が出るわい』


 とのことなので、今は知らなくていいらしい。


(それはちょっと助かった……)

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