4話 動物園を作ろう♪
◇
「いいわねえ、掃除サボって〜……あとで女にやらせときゃいいやってことでしょ? それで女が早く老けちゃえばいいやって思っているんでしょ?そして次の新しい奥さん奪ってくりゃいいやーって思ってるでしょ?そー女は早く老けちゃえーーって」
「アヤさん……思ってねぇっすよ。小便行ってただけですよ。勘弁してください」
「なによりも掃除! はいっ!」
「なによりも掃除……」
刀を背中にくくりつけた山賊は『勘弁してくれぇ』という顔をしながら復唱すると、渋々箒を持って門の方へ戻っていった。
ザルドに来てから二週間。
当然ながら、町を丸ごと作り直せるような予算なんてない。だから最初に手をつけたのは、誰でもできて、お金もほとんどかからないことだった。
【掃除】
まずは町の入口からゴミや壊れた木材を片づけ、伸び放題だった草を刈る。壊れた門や見張り台も、使える木材を集めて少しずつ補修している。
そして今日は、次の段階について話すため、バルガスさんとギソンさん、それにアタシ、ネネネさん、チャトランさんの五人で集まっていた。
「では発表します」
アタシは机の上へ一枚の紙を広げた。
「《山賊がいるから安心安全キャンペーン》を行います!」
「アヤさん……何を言っているのか分かりません……」
ネネネさんが呆れた顔をしている。
「最後まで聞いてくださいよ。今のザルドって、『山賊がいるから危ない町』でしょ?」
「まあ、そうだな」
ギソンさんが腕を組んで頷く。
「だったら逆にするんです。山賊がいるから、ザルドの中に入ってしまえば安全。そういう町にします」
「……どういうことだ?」
「まず、ここへ来る人を三種類に分けます」
指を一本立てた。
「一つ目。普通の商人や旅人」
これは一番簡単だ。
「町へ入る時に名前や滞在日数なんかを書いてもらって、ザルドの決まりを守ると契約を交わします。契約した人には、町の中で見えるように専用のバッジを渡す。そのバッジをつけている人から、物を盗む、金を奪う、喧嘩を売る。全部禁止です」
「山賊に奪うなって?」
ギソンさんが嫌そうな顔をした。
「仕事中のお客様から盗む店員がどこにいるのよ!」
「俺たちゃ店員になった覚えねぇぞ!」
「今日からなったの!」
「横暴だろ!」
無視して二本目の指を立てる。
「二つ目。ちょっと訳ありのお客さん」
「訳あり?」
「表立って普通の宿に泊まりたくない人よ。ちょっと追われてるとか、誰かに見つかりたくないとか。でも、ものすごい大金を払えるわけじゃない人」
「犯罪者じゃねぇか」
「山賊に言われたくないでしょ」
「それもそうだな」
(納得するな)
「そういう人たちは、警備隊の宿所付近へ泊めます。普通の旅人とは場所を分ける。多少揉め事を抱えている人でも、周りに腕っ節の強い山賊がいれば、そこらの追っ手なら簡単には手を出せないでしょ?」
そして三本目。
「最後がVIP」
「ぶい……?」
「とにかく、ものすっごく金を持ってる訳あり客です」
国から追われている。
命を狙われている。
身分を知られたくない。
そんな事情があっても、金だけは持っている人間はいるはずだ。
「そういう人には、バルガスさんの愛人宅を使ってもらいます」
「なんで俺の愛人宅なんだよ」
「もう話つけたでしょ!」
「そうだったな。ガッハッハ!」
この爺さん、本当に愛人何人いるんだろう。
「バルガスさんの屋敷周辺なら、普通の山賊も簡単には近づけない。しかもバルガスさん本人がいる」
この筋肉ジジイは、そこらの兵士どころか高天原の親衛隊を相手にしても引けを取ったことがないらしい。
「つまり――」
「高いお金を払えば、ザルドで一番強い男の縄張りに隠れていられる。《宿泊》だけじゃなくて《用心棒》と《隠れ家》までセットで売るんです」
バルガスさんが顎髭を撫で始めた。
「なるほどな……俺たちの悪名そのものを売るわけか」
「そういうことです!」
ザルドから山賊をなくしたところで、他の町と同じことをやって勝てるとは思えない。
道は悪い。
建物もボロい。
観光するような場所もない。
だったら、ここにしかないものを使えばいい。
「でも、一番大事なのは信用です」
アタシは机の上へ、小さな木製のバッジを置いた。
「これを持っている人は、ザルドが守る」
全員の視線がバッジへ集まった。
「お金を払って正式に入ったお客さんには、絶対に手を出さない。誰かに追われてここへ逃げ込んできたなら、契約している間はザルドが守る。逆に、お客さんが町の人間へ危害を加えたり、契約を破ったりしたら、その時点で保護は終わり」
「こっちが約束を破った場合は?」
ネネネさんに聞かれ、アタシは笑顔で答えた。
「契約中のお客さんに手を出した山賊は、ギソンさんに引き渡します」
「それだけか?」
「拷問」
「おい」
「二度とやらない程度に」
「程度とは?」
「そこはギソンにお任せします」
ギソンさんが黙ってバルガスさんを見る。
バルガスさんは嬉しそうに笑っていた。
「ガッハッハ! しっかりやれよ?ギソン!」
「絶対破れない契約になったにゃ……」
「とにかく!」
アタシは机を叩いた。
「今までのザルドは《山賊がいるから近づけない町》でした。でも、これからは違います」
商人なら、襲われない。
普通の旅人なら、安全に眠れる。
少しくらい後ろ暗い事情があっても、金を払えば詮索されない。
そして本当に危ない人間なら、もっと金を払えばバルガスという化け物に守ってもらえる。
「《山賊がいるから安全な町》にするんです」
◇
「VIPの利用客が四名、後ろめたい人用の特殊宿泊が六十二名、一般の商人が一名」
アタシは思った通りの結果だと思い頷いた。
当然山賊の町なんかに泊まる人は後ろめたい人ばかりが集まるという結果だが、思った以上に収益があった。
会議から一週間、すごい実入りだった。
「アヤ、一発団体の奴らから奪うより大きいジェムが入ったな」
バルガスさんは満足そうに言った通り、まずはこれでよい。どんな人間も受け入れて、噂をとにかく広めてもらうことが目標だった。
犯罪者は特に『噂』というものを流してくれることが便利で非常に有難かった。
そして一般客の傍にアタシたちの住処も寄せてもらった。
商人のお客さんはアタシが説得したのだ。
「ミル、《逃がす》」
そうミルに指示して一度商人を果てに飛ばす。
実際危険があったらすぐに私のところにくれば即逃がすという実演で宣伝したところ、商人は泊まってくれたのだ。
「まさか、商人がこの町に泊まるとはな……」
ギソンは首を傾げてバルガスは笑っている。
《女子供に手を出すやつはクソ男認定キャンペーン》
次の一週間は、このキャンペーンを大々的に宣伝した。
行商する一部の団体に奥さんやお子さんを連れて歩いている者が結構いた。
それを見て気づいたのだが、女性と子どもはとりあえずキャンペーン中は無料にして宿泊させる、女性と子どもの管理はネネネさんとチャトランさんにしてもらった。
結局ではあるが、一般客の管理はアタシたち。
悪人の管轄はバルガスさんとギソンさんへと棲み分けさせていった。
「俺たちゃ山賊だぜ?商人になるつもりはねーぞ!」
一人の若い山賊が会議室に入ってきてこういった人もいたが、若い子を納得させるなどおばちゃんには、造作もない。
「あらそ?じゃあアナタの奥さんや子どもを死ぬまでずっと山賊で守れるんだ?まさか、死に際に『すまん……守れなくて……』なーんて口だけ男じゃ無いわよね?」
「そっ、それは……」
「少なくともアンタたちの親分さんはアンタたちを子のように思い考えて動いてんでしょ?」
「……」
「ガッハッハ、カシムよ、お母ちゃんに負けたな」
(山賊のお母ちゃんだとーーー?)
一週間前まで、門の前を通る人間すらほとんどいなかった。それが今では、荷車が一台、二台と門をくぐり、子どもの手を引いた女の人まで歩いている。箒を持たせた山賊が「いらっしゃいませ……」と死ぬほど嫌そうな顔で頭を下げている姿を見た時は、さすがに笑ってしまった。
反発も多少あったが、これはすごく反響がよくなり、毎日、少しずつ一般客のお客さんは増えていった。
《魔獣園をつくろーーキャンペーン!》
魔獣師は魔獣に襲われない特性を活かして魔獣園を作る。これはアタシの特性を活かした発案だった。
ミルに魔獣師の特性がある山賊の町人に調べさせるとおよそ十名ほどいた。
そのうち『マチ』という女性を中心に村外れの広場へ柵を作り魔獣園を次の一週間で作った。
(っと、いっても魔獣が本気で暴れたらすぐにぶっ壊せるだろうが……)




