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退治

翌日、私は日の出ない内に起きた。

朝食を済ませた後、近くの川に水浴びへ行った。

服を脱ぎ、褌だけになると水桶で川の水を頭にかけた。

それが終わると次は水深が深い方へ行き体を洗った。

まず最初に胸、次に腰、そして最後に足という順に洗った。


川辺に上がり布で一通り体を拭いた。

河川敷の方へ目をやると、自分と同じ位の歳の少女が立っている。

少女は伸ばした髪を麻の紐で留めており、眉が濃く小麦色の肌をしているのが特徴的だ。少女はじっと此方を見ている。

私が服を取るため一瞬目を離すと、其処に少女はいなかった。


「わっ!」


私は心臓が止まるかと思った。急いで川の方に目をやると、さっきまで十間ほど離れた場所に立っていた少女は、物音少し立てずに私の目の前に立っていた。

私は思わず腰を抜かしそうになった。そんな私を見て少女はカラカラと笑っている。随分と悪趣味な女である。 


「私に何の用だ、脅かしやがって。」


私は怒りを顕にした。そんな私を見て少女は腹を抱えて笑っている。間違いなく悪趣味な女だ。


「な、何がおかしい!?」


「あ、あなた嘉助さんよね?、東村の。」


女は、笑いをこらえながら私に問いかけた。


「だからどうした。」


「いや〜恐い人だと思ってたら、意外と可愛い人でびっくり。」

「五十人を一度の戦で討ち取ったと聞いてたから、一目見たくなって後を付けてきたって訳。」


この女、常軌を逸している。普通そんな奴の後をつけるなんて、まず考え無い。挑発するなど、以ての外である。


「あなた、いつもここで水浴びを?」


「いや、いつもは井戸の水で。今日はたまたま気が向いただけだ。」


「ふーん。」


「そういえば、名は何というのだ?」


「春、いい名前でしょ。」


春、確かにいい名前だ。この女に付けられたのが悔やまれる。


「では、私はそろそろ戻る。」


私が立ち去ろうとすると春は袖を引っ張った。


「なんだ。」


「えー、もっとお話しようよー。」


「私は忙しいのだ。」


強引に立ち去ろうとしたが、春は袖を掴んで離さない。しかし、遂に袖は春の手から離れ私は帰路についた。


一度家に帰った私は、狩猟の準備を始めた。近くの山に熊が出て、旅人や行商人を度々襲っているらしい。寄合で誰が討伐に行くかという話題になった時、白羽の矢が立ったのが私という訳だ。全く迷惑な話である。


私は兜斬と弓を担ぎ、熊が出るという山に向かった。

山道をしばらく進むと、旅人が襲われたといわれる場所に着いた。血の匂いがまだ微かに残っている。私は手に弓を持ち、辺りを見渡した。

奥の茂みで何かが動く音がした。弓に矢をかけ、茂みに放った。

大きなうめき声がしたと思ったら、体長が普通より一回り大きい熊が茂みから飛び出してきた。

兜斬を抜き、熊が間合いに入るのを待った。


熊は嘉助を見つめていた。

静寂が流れた。それはたった一瞬の、余りにも短い静寂であった。しかし

両者はそれに永遠を感じた。


先手を打ったのは、熊の方であった。嘉助の方に全速力で突っ込んで行った。嘉助は兜斬を構えて熊が間合いへ入るのを待っていた。そして、その一瞬の後、両者は激突した。

嘉助が兜斬を振るったのと、熊が嘉助の懐に入ったのはほぼ同時に思われた。しかし、嘉助の方が一瞬速かった。熊は一刀両断され、兜斬の新たな犠牲者がまた増えたのであった。


それから、私は熊の遺体を村まで運び討伐を宣言した。村の人々は感激し、私を褒め称えた。ある者が宴をやろうと言い出し、私は最初、断わっていたが村の人々の余りの熱量に負け、結局宴に参加したのであった。

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