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狼煙

 夜が明け、錦織神社へ参拝した後、畠山尚順と共に京へ出発した。東高野街道を北へ軍を進め、途中で誉田八幡宮、道明寺天満宮、恩智神社、石切劔箭神社、野崎観音に参拝した。中野で一泊した後、行軍を再開し、洞ヶ峠を越え、山城に入った。八幡で男山八幡宮に参拝した後、鳥羽街道へ入った。羅城門を通って細川高国に帰還の報告をしたのは、其の日の正午だった。畠山義英を晒し首にした後、宿所で休んだ。


 畠山尚順は翌日、足利義尹に拝謁した。足利義尹は自身の古くからの支持者である畠山尚順の上洛を喜んだ。足利義尹は畠山尚順を河内・紀伊・越中の守護職へ正式に任じた。その翌日には能登守護の畠山修理大夫義元が上洛した。


 翌日、足利義尹は畠山尚順を仮御所へ呼び出した。


「私の初の御成先は畠山尾張守の宿所としたい。」


 畠山尚順は、少し戸惑った。


「それは喜ばしいのですが、右京大夫殿や周防権介殿は納得するでしょうか…?」


「私がこうして京に帰還できたのは、尾張守が私が京を追い出された時から一貫して支持してくれたお陰、一番の功績を挙げた者の元に、一番最初に行く事に何の不思議がある。」


「然し……。」


「では準備の方、宜しく頼んだぞ。」


 翌日、畠山尚順の宿所である東福寺海蔵院で足利義尹の将軍復帰後初となる御成が行われた。御成には畠山尚順の他に細川高国や大内義興、畠山義元といった在京中の大名等が参加した。一方、自身を将軍復帰の最大の功労者と考えていた大内義興は之に憤り、途中で席を立った。細川高国も之に続いた。


 その夜、細川高国の在所に幽閉されていた足利義澄が突如として姿を消した。屋敷に脱出の痕跡は無かった。其の為、人々は神隠しだと噂した。


 翌日、足利義尹の働き掛けにより、朝廷から大内義興が従四位下に叙位された。其の夜、大内義興は祝の席で酒に酔い「早く従四位上が欲しい」と言った所、それを聞いた公卿は「無理無理」と笑い飛ばした。


 翌日、阿波より京の万人が恐怖する噂が齎された。何と、一昨日忽然と姿を消した足利義澄が密かに阿波へ渡り、京を奪還する為の準備をしていると言うのである。足利義尹は之に驚愕し、仮御所に在京中の四人の大名を集めた。


 足利義尹の面前に四人の大名が座っている。最初に大内義興が口を開いた。


「公方様、此処は我々が摂津や和泉に下向し、義澄を迎え討つべきです。」


 然し、細川高国が異議を唱えた。


「然し、京の政治を行う為にもこの中で一人は残す必要が有るのでは?」


 三人の大名の視線が能登守護の畠山義元に向けられた。畠山義元はこの中で唯一軍勢を率いず上洛していた。畠山義元は京に残る事を快諾した。


 其頃、猪名秀信は守護代として年貢の徴収に回っていた。猪名秀信は街道に関所を設置して、通行人から銭を納めさせた。その他にも寺社の造営を口実として領民に段銭を課したり、村の戸の数に応じて税をかけた。


 すると、それに耐えかねた領民は国人等と協力し一揆を起こした。翌日に一揆勢は二千人で嵯峨城を包囲した。然し、京から下向して来た猪名秀信が千の軍勢で之を鎮圧した。猪名秀信は一揆に加担した村を焼き払い、村民の生首を街道の脇に並べた。反抗した国人は所領を没収した上で一族郎党皆殺しにした。


 翌日に年貢を全て徴収し終えた猪名秀信は、収穫を終えた農民に街道の整備を命じた。一揆勢の処遇を見ていた農民は猪名秀信に従った。


 翌日、細川高国は猪名秀信に摂津伊丹城への下向命令を出した。猪名秀信は嵯峨城へ戻り、出陣の準備を整えた。猪名秀信は伊丹城への帰還に興奮を隠せずにいた。


 翌朝、嵯峨城を千の兵を率いて出発した。山崎で西国街道に入り、是日の夕方頃に伊丹城へ到着した。伊丹城へ着くと城主の菊田信尹が自ら出迎えた。


「お久しぶりです。御館様。」


「まさか嘉助が守護代になっているなんてな。」


 菊田信尹はそう言うと大きく笑った。後ろには、嘗ての同僚であった香山秀家や旧友の佐助や嘉兵衛もいた。そして、その奥の方には春がいた。


 猪名秀信は、城内で饗された。膳の上には山海の珍味がズラリと並んでいる。ここ伊丹は宿場町として大きく栄えいるため、金回りがとても良いらしい。饗宴が終わった後、菊田信尹は猪名秀信と二人で飲み直した。


「それで嘉助よ、何故急に今になって戻って来た。」


「義澄が阿波へ落ち延びて、京都奪還を狙っているという噂が広まって右京大夫殿が私に下向を命じたからです。」


「ほう、それで此処に。」


「あれから変わった事はありませか?」


「いや、特に何も無いな。強いて云うなら伊丹公信が消息を絶った事位かなぁ?」


「そうですか。」


 その夜は何時もより、ぐっすりと眠れた。

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