第4章 新たな境地
第4章 新たな境地
アンドレイは、レベル測定と記録を行っていた研究室からようやく外へ出た。
背後では装置がなおも低く唸り続けている。
彼は顔を上げ、自らの命で築かせた要塞を見渡した。
完璧な偽装。
外界から完全に遮断された構造。
上空を通り過ぎる者がいたとしても、
ここに巨大な施設が存在するなど、微塵も疑わないだろう。
目の前には広大な空間が広がっていた。
訓練、実験、戦闘検証――あらゆる用途に対応できる開放区域。
魔法を解き放ち、眷属を鍛え、戦術を試す。
誰にも見られることなく、邪魔されることもない。
数時間後、ドレイクとリザが帰還する。
二人の足取りは落ち着いていたが、その視線は周囲を鋭く警戒していた。
「異常はありません、主様」
ドレイクが軽く頭を下げる。
「周囲に生体反応はなし。ただ――影だけが、まるでこの地を守るように存在しています。闇の裂け目……その影響でしょう」
リザも頷く。
「ええ。本当に何もいない。
魔物ですら近寄らない……ここが“異質な場所”だと、本能で理解しているみたい」
アンドレイは静かに頷いた。
「ご苦労だった。しばらく休め」
リザが少し首を傾げる。
「……あなたは?」
わずかな間の後、アンドレイは答える。
「影の討伐に向かう。
数が増えている――放置すれば脅威になる」
「私も行きます!」
リザが即座に踏み出す。
だが――
アンドレイの視線が鋭く向けられる。
冷たいほどに。
「来るな。足手まといだ」
空気が一瞬で張り詰める。
リザはわずかに息を呑み――
「……わかりました。ここで待っています」
アンドレイは何も言わず、外へ向かった。
次の瞬間。
彼の姿が変わる。
――エルフ、シルヴァナ。
軽やかで、鋭く、そして美しく致命的な存在。
影の群れへと突入する。
迷いはない。
まるで柔らかなものを切り裂く刃のように――
その中へと踏み込んだ。
剣舞が始まる。
一撃一撃が正確で、無駄がない。
恐れは存在しない。
あるのは、圧倒的な優位。
影たちは、彼女の刃の前に崩れ落ちていく。
まるで指の間から零れ落ちる砂のように。
戦いは、長時間に及んだ。
それでも彼は止まらない。
最後の一体が消滅するまで――。
夜。
アンドレイは要塞へと帰還した。
消耗は明らかだった。
呼吸は重く、装備は裂け、動きも鈍い。
入口で待っていたリザとドレイクが、すぐに駆け寄る。
「主様……ご無事ですか?」
リザの声は震えていた。
「……問題ない」
アンドレイは短く答え、そのまま腰を下ろす。
わずかな静寂。
そして――
彼は魔法ディスプレイを展開した。
淡い光が部屋を照らす。
「見ろ……これが俺のレベルだ」
二人の視線が、数値へと向けられる。
表示されたのは――
101
「……あり得ない」
リザが息を呑む。
「101……そんなはず……」
ドレイクは静かに頭を下げる。
「やはり……あなたは最強です、主様」
だが、アンドレイは小さく笑った。
「違う」
その声は低く、静かだった。
「俺の本当のレベルは――1017だ」
空気が止まる。
「……え?」
リザの声がかすれる。
「システムは上位三桁しか表示しない。
それ以上は――計測不能領域だ」
彼は続ける。
「だから装置もエラーを出した。
ギルドでも、ここでも同じだ」
わずかな沈黙。
「……“枠”そのものが、俺を測れない」
リザとドレイクは言葉を失った。
その瞳に浮かぶのは――
畏怖。
理解。
そして確信。
目の前にいる存在が、
すでに“常識の外側”にいるという事実だった。




