第3章 レベル100
第3章 レベル100
一夜の休息を終え、アンドレイたちは新たな装置の初実験を開始した。
要塞の静寂が、かえって緊張感を際立たせている。
最初に装置の前へ立ったのはアンドレイだった。
意識を集中し、自らのレベルを測定させる。
魔力センサーが淡く点灯し、低い駆動音が響く――
だが次の瞬間、表示されたのは「エラー」の文字だった。
アンドレイは特に驚く様子もない。
「リザ。次はお前だ」
リザは一歩前へ出て、測定を受ける。
結果は――予想通りだった。
「……100、ね。想定通りだわ」
彼女は静かに頷く。
続いてドレイク。
彼のレベルも同じく100。
通常の存在に対しては、装置は問題なく機能していた。
アンドレイはわずかに微笑む。
「では――カイラの姿で試してみるか」
その瞬間、彼の姿が変わる。
暗殺者カイラ――敏捷で、静かで、致命的な存在。
だが、再び結果は「エラー」。
アンドレイはさらに一手を加えた。
かつて冒険者ギルドで用いた技術――
自らの力とレベルを完全に隠蔽する術。
装置は不安定に震え、断続的な音を立てる。
そして――やはり結果は「エラー」。
「……なるほど」
彼は小さく呟く。
「既存のアルゴリズムでは、俺を測定できないらしいな」
軽く息を吐き、思考を切り替える。
「リザ、ドレイク。周囲の警戒を頼む。
あらゆる接近経路を確認しろ。異常があれば即報告だ」
二人は無言で頷き、それぞれの持ち場へと散っていった。
要塞に残ったアンドレイは、装置へと向き直る。
――改良。
アルゴリズムの再構築。
魔力センサーの調整。
検出精度の極限までの引き上げ。
彼は止まらない。
試行と修正を繰り返し続ける。
検出方式の変更。
魔力解析の再定義。
さらには“力の隠蔽”そのものを、装置側に理解させる試み。
数時間――
いや、感覚としてはそれ以上の時間が過ぎた。
そしてついに。
装置が安定する。
駆動音は均一になり、表示が正常に点灯する。
「……来たか」
アンドレイは次の実験に移る。
かつて用いた姿――エルフのシルヴァナへと変化。
一瞬、すべてが静止したかのように見え――
やがて数値が浮かび上がる。
1006
アンドレイの目がわずかに見開かれる。
「……1006か」
静かに呟く。
「道理で……桁が違うわけだ」
思考は自然と過去へと遡る。
何気なく放った魔法の槍。
だがそれは、常識を超えた速度と精度を持っていた。
そして――巨人。
五倍の大きさを持つ存在。
圧倒的な力、速度、耐久。
どれもが規格外だった。
(……あれも、当然の結果か)
彼の力は、すでに「魔法」という枠組みを逸脱していた。
アンドレイは目を閉じる。
誇りと同時に、重圧が胸にのしかかる。
この力は祝福か――それとも呪いか。
世界から切り離された存在。
時間すら意味を持たない領域。
――人の枠の外。
彼は再び目を開き、装置を見る。
(まだ……こんなものじゃない)
再び集中する。
空気がわずかに震える。
暗殺者カイラへと変化。
装置が反応し、数値が表示される。
1009
「……やはりな」
次は――アウローラ。
光の魔導師。
1005
その後も、彼は次々と姿を変えていく。
かつて戦い、関わってきた存在たち。
そのすべてが――
1000以上
やがて彼は、まだ戦ったことのない存在の姿を試す。
結果は――
1000
彼は結果を整理する。
(全員……1000か)
彼の“彼女たち”。
ともに戦い、関わり、記憶に刻まれた存在。
総数は22。
そのすべてが、同等の領域に達している。
そして――
最後に選んだのは、自身の原点。
アレクサンドル。
装置が示した数値は――
39
あまりにも低い数値。
これまで積み上げてきた鍛錬。
レベル1からの成長。
技術、魔法、戦略。
すべてを積み重ねてなお――
(……たったの39か)
他と比べれば、それはあまりにも小さい。
まるで――
深淵に落ちた一滴の水のように。




