第2章 要塞建設
第2章 要塞建設
家は売却された。
すべては驚くほど円滑に進み、余計な混乱は一切なかった。
最後の書類に署名がなされ、鍵が新たな所有者へと渡される。
アンドレイは、その一連の流れを静かに見届けていた。
その頃にはすでに、リザが上空に現れていた。
いつもの姿でゆっくりと降り立ち、その表情にはわずかな笑みが浮かんでいる。
「やあ」
地面に降りながら、彼女は軽く声をかけた。
アンドレイは彼女を見て、小さく頷く。
「……ああ。どうやら、要塞を築く時が来たらしい」
リザはわずかに眉を上げた。
「要塞? この辺りで?」
「いや」
アンドレイは落ち着いた声で答える。
「西へ向かう。――“闇の裂け目”へだ。
人の寄りつかない場所に、誰の目にも触れない要塞を築く」
その言葉に、リザは短く息を吐き、理解したように頷いた。
アンドレイはドレイクへと視線を向ける。
「ドレイク。要塞の建設は可能か?」
ドレイクは迷いなく答えた。
「もちろんでございます、主様。問題ありません」
その後、彼らは必要な物資を揃えた。
石材、工具、そして防御や隠蔽に用いる魔法資材――すべてを抜かりなく。
移動はわずか数時間。
かつての住処から“闇の裂け目”までの距離は、それほど遠くはなかった。
やがて彼らの前に広がったのは、
荒れ果てた無人の大地――外界から隔絶された、理想的な建設地だった。
アンドレイはすぐに動き出す。
眷属と使い魔たちを次々と召喚した。
ある者は資材を運び、
ある者は地面を掘り、
またある者は魔法的な構築を担う。
「重要なのは――」
アンドレイの声が、静かに、しかし鋭く響く。
「広大であること。そして空間に開かれていること。
だが同時に、“目立たない”ことだ」
その視線が周囲を見渡す。
「外壁は完全に偽装しろ。遠距離からは存在すら認識できないように」
眷属たちは一斉に動き出す。
魔法によって、石や木材は周囲の地形へと自然に溶け込んでいく。
一つひとつの素材が精密に選ばれ、
あたかも最初からそこに存在していたかのような地形が形成されていく。
「……いいな」
アンドレイは小さく呟いた。
「計画通りだ」
建設は数日にわたって続いた。
現場の総指揮を執るのはドレイク。
工程管理、魔法陣の調整、作業精度の維持――
彼はすべてを完璧にこなしていく。
一方、アンドレイは大半の時間を、
完成前の要塞内部に設けた専用区画で過ごしていた。
静寂に包まれたその場所で、彼は装置の開発に没頭する。
――レベル測定装置。
あらゆる存在の能力と強度を正確に測定するための装置だ。
彼は細部に至るまで検証を重ね、
魔力センサーを調整し、演算処理を最適化していく。
わずかな誤差も許さない。
すべては“完全”でなければならない。
やがて数日が過ぎ――
要塞は完成した。
外壁は景観に完全に同化し、内部構造も整備され、
補助設備と魔法システムはすべて正常に稼働している。
アンドレイはゆっくりと周囲を見渡した。
「……上出来だ」
静かに呟く。
「これで要塞は完成だ。
今後の実験と計画の拠点としても、申し分ない」
傍らに立つドレイクが、控えめに頭を下げた。
「建設は完了いたしました、主様。すべてご指示通りです」
アンドレイは満足げに微笑む。
要塞の内部には静寂が満ちていた。
ただ、微かに響くのは防御魔法の低い唸りと、装置の周期的な稼働音のみ。
すべては整った。
――新たな試練と行動のために。




