第4部 第1章 永遠への問い
第4部
第1章 永遠への問い
アンドレイは自宅の窓辺に立ち、まだ薄暗い夜明けを見つめていた。
柔らかな光が彼の瞳に映り込む。しかし、その瞳は幾年の時を経ても、まるで一日も経っていないかのように変わらなかった。
彼はこの新しい世界の理を受け入れていた。
この世界で過ごした幾十年――数えきれない戦い、勝利、そして敗北。
そのすべてを経て、彼の内には無数の問いが積み重なっていた。
時にそれは、どんな強敵よりも重く、彼自身を押し潰しそうになるほどに。
(俺は……一体何者なんだ?)
(なぜ、これほどの力を持っている? なぜ俺はここにいる?)
(かつてのすべてから切り離された、この世界に――)
(そして……何のために?)
彼はゆっくりと視線を落とし、自らの手を見つめた。
その手は、容易くすべてを破壊できる。
だが同時に、創り、救い、守ることもできる手だった。
内なる葛藤が、静かに渦巻く。
それは祝福なのか、それとも呪いなのか――。
アンドレイは静かに目を閉じた。
理解している。
前へ進むためには、この世界の理を受け入れるだけでは足りない。
――答えを見つけなければならない。
彼は家の中をゆっくりと歩き、視線で一つひとつを確かめるように見て回った。
やがて扉の前で足を止め、落ち着いた声で言う。
「ドレイク。この家を売りに出せ。できるだけ早くな。最低価格は――交渉不可だ」
ドレイクは一瞬、目を瞬かせた。
「最低価格……? ですが、それでは――」
「言った通りにしろ」
声は低く穏やかだったが、そこには揺るぎない意志があった。
ドレイクは小さく頷き、それ以上何も問わずに去っていった。
アンドレイは椅子に腰を下ろし、意識を集中させる。
――そして、リザへと念話を送った。
(リザ……来てくれ。すぐに帰ってきてほしい)
ほどなくして、彼女の声が頭の中に響く。
(ただちに向かいます、主様。すぐに到着いたします)
アンドレイは姿を変えた。
「技師」アンナ――魔物と機械の双方に精通し、魔法と技術を融合させる専門家。
この姿は、彼にとって驚くほど自然だった。
知性、観察力、そして分析力――それらすべてが、彼の本質と噛み合っていた。
彼は冒険者ギルドへと足を運ぶ。
受付へと近づき、穏やかに口を開いた。
「あの……ギルドマスターをお呼びいただくことは可能でしょうか。少々、お見せしたいものがありまして」
受付係は眉を上げる。
「君が? どういう用件だ?」
「レベル測定装置の安全性と精度に関わる件です」
その言葉に、空気がわずかに変わった。
短い沈黙の後、受付係は頷き、奥へと向かう。
やがて数分後、一人の女性が現れた。
鋭い視線を持つ、威厳あるギルドマスターだ。
「――何の騒ぎかしら?」
「装置を拝見させていただきたいのです。冒険者のレベルを測定する機器です」
彼女は眉をひそめる。
「私はそういった機械に詳しくないのだけれど」
「しかし、閲覧の許可を出せるのはあなただけです。正常に作動しているか、確認する必要があります」
しばしの沈黙。
「……いいでしょう。装置の確認を許可します。ただし、常に監視をつけます」
「承知しました。ありがとうございます」
アンドレイは静かに頷いた。
受付係がすぐそばに立ち、彼の動きを見守る。
ギルドマスターは距離を取り、腕を組んで様子を観察していた。
アンドレイはゆっくりと装置に近づく。
その視線は鋭く、細部に至るまで見逃さない。
パネルの構造。信号の流れ。
魔力への反応。
あらゆる要素を一つずつ確認し、分析していく。
仕組みはすぐに理解できた。
構造も、制御も、すべて。
「――問題ありませんね」
小さく微笑みながら、彼は呟く。
「正常に機能しています。確認の機会をいただき、感謝します」
受付係は無言で頷く。
ギルドマスターは遠くから見つめたまま、わずかに眉を寄せていたが、何も言わなかった。
アンドレイは一歩下がり、丁寧に一礼する。
「ありがとうございました。それでは」
彼は振り返ることなく、その場を後にした。
静寂だけが残る。
――まるで、すべてが終わったかのように。




