第6章「カイラ、あなたは悪魔じゃないよね」
第6章「カイラ、あなたは悪魔じゃないよね」
ラナはアンドレイを見つめていた。ダンジョンでの出来事に、まだ少し呆然としていた。
心臓は早鐘のように打ち、感情が頭の中を満たしていた。
「カイラ……あなた、悪魔じゃないよね」
彼女は静かに、しかし確かな強さを込めて言った。
アンドレイは一瞬だけ眉をひそめたが、すぐに落ち着いた声で答えた。
「俺がそう見えるか?」
ラナは一歩近づいた。薄暗がりの中で、その瞳が揺れていた。
「悪魔は……」
彼女は拳を握りしめた。
「人を助けたりしない。笑顔を与えたりもしない。あなたがその一人だなんて、私は信じない」
彼女の記憶に過去の光景がよみがえる。
カイラが、暗殺者ギルドの仲間を一人も殺さなかったこと――たとえ彼らが彼女を殺そうとしても。
危険な任務を自らを顧みずにやり遂げながらも、他者を傷つけなかったこと。
二体の悪魔を討ち、「デーモンスレイヤー」の称号を得たこと――その途方もない危険を乗り越えて。
そして、ラナを辛抱強く指導し、隠密、戦略、精密さを教えてくれたこと――すべては守るためであり、決して残酷さのためではなかった。
「でも……どうして、カイラ……」
彼女は驚きを抑えきれないまま続けた。
「どうやってそんなことができたの?」
アンドレイは静かに視線を落とし、やがて穏やかに答えた。
「俺は姿を変えられる……二十三の存在に。どの姿も――俺自身だ」
ラナは息を呑んだ。
不信、驚き、そして感嘆が胸に押し寄せる。目の前の人物は見慣れているのに、同時にまったく予測できない存在だった。
「見せなきゃならない……」
アンドレイは静かに言った。
「本当の俺を」
彼の姿が溶けるように消え、次々と別の姿へと変わっていく。
一瞬、ラナの前にエルフの女性が立っていた。
「それも……あなたなの!?」
ラナは息を呑み、かつて見られていた記憶を思い出した。
アンドレイは静かにうなずいた。瞳がやわらかく光る。
「そうだ。全部――俺だ」
次に彼は、アレクサンドルの姿を取った。
背が高く、自信に満ち、澄んだ眼差しを持ち、軽装の鎧に身を包み、腰には剣を帯びている。
「俺の名前はアンドレイだ」
彼は落ち着いた声で言った。
「改めて、よろしく」
「アンドレイ……」
ラナはまだ信じきれないまま、しかし深い尊敬と信頼を込めてその名を口にした。
彼はわずかに微笑み、手を差し出した。
「じゃあ、やり直そう。一緒に」
二人は家へ戻った。
暖炉の温かな光が居間で彼らを迎え、ダンジョンの危険をくぐり抜けた後では、その安らぎは一層現実味を帯びていた。
ダンジョンに行っていなかったドレイクは、新しい物資の整理をしていたが、ラナとカイラの姿を見ると視線を止めた。
その隣に立っていたアンドレイは、ふいにアレクサンドルの姿へと変わった。動きは落ち着き、無駄がない。
ドレイクは思わず叫んだ。
「ご主人様! 正体がばれてしまいます!」
アンドレイは微笑み、軽くうなずいた。
「問題ない。ラナにはもう知られている」
――もう彼は、ラナの前で姿を隠す必要はなかった。
ラナは静かにうなずいた。
秘密は明かされ、信頼はより強くなった。どの姿であっても、それが同じ人物であることを理解していた。それがチームをさらに強くしていた。
ドレイクはわずかに眉をひそめたが、アンドレイの自信を見て落ち着いた。
家は再び、安全でくつろげる場所となった。力や能力を隠すことなく、これからの冒険を考えられる場所に。
「じゃあ、休もう」
アンドレイは言った。
「だが明日から、新しい章が始まる」
ラナは微笑んだ。
どんな試練にも立ち向かえると感じていた。そして隣には、どんな存在にもなれるのに、それでも自分であり続ける人がいるのだから。
「ご主人様……南の地にずっといるのはもう飽きました! それに、果物ばかりの食事も……」
アンドレイは笑いをこらえた。
「別に無理にそこにいろとは言ってない。例えば……フロストガルドに行けばいい。あそこは最高の肉料理がある」
一瞬、沈黙が流れた。
そして――
「肉だあああ!!!」
通信は突然途切れた。
「……リザ?」
沈黙。
「なるほど。もう走り出したな」




