第5章 ギルドと新たな一歩
第5章 ギルドと新たな一歩
夜は静かに過ぎた。ラナはアンドレイの家に泊まり、小さな客室で休むことになった。
ベッドに横になってはいたが、なかなか眠りは訪れない――最近の出来事や、これから起こるであろうことが頭から離れなかった。
「ふむ……」
彼女は暗い天井を見つめながら小さくつぶやいた。
「ここは安全……少なくとも、カイラがいる間は」
翌朝、三人は冒険者ギルドへ向かった。目的は明確――ドレイクの登録と、パーティーに合った依頼を見つけること。
ギルドに到着すると、ドレイクは落ち着いて書類を記入し、手続きを進めていった。
そのまま彼は、レベル測定を行う部屋へと向かう――何も疑うことなく。
その瞬間、アンドレイがそっと彼の肩を掴んだ。
「待て」
周囲に聞こえないよう、テレパシーで伝える。
ドレイクは一瞬固まり、頭の中に響いた声に驚いた。
「どうしたのです?」
彼は瞬きをしながら、戸惑いを隠せない。
「私は……ただ試験を受けるだけですが。何か問題でも?」
「自分のレベルが知られたらどうなるか分かっているのか? 100だぞ」
アンドレイは冷静に状況を制御しながら答えた。
ドレイクはわずかに眉をひそめる。
「なるほど……では、どうすれば?」
「最低ランクの新人として登録しろ」
アンドレイはそう伝えた。
受付はその通りに処理し、彼に最低ランクを付与した。
それからようやく、三人は依頼探しを始めた。
最初の依頼はどれも簡単だった。
隊商の護衛、廃坑の調査、希少な魔法道具の確認。
どれも問題なくこなし、ドレイクはすぐに順応した。
ラナはアンドレイの戦闘技術と戦略的思考に驚かされ続けていた。
――数か月後。
「準備は整った」
アンドレイはダンジョンの地図を見ながら言った。
「ここから先は難所だ。罠、魔物、すべてが揃っている」
「何か……おかしい」
ラナは短剣の柄を握りしめながらつぶやいた。
アンドレイは無言で頷き、暗い通路を見渡した。
やがて彼らは、巨大な広間へと辿り着いた。
そこは罠だらけだった。
床からは鋭い棘が突き出し、天井からは巨大な岩が魔法の鎖で吊られている。
空中には繊細な魔法陣が揺らめき、わずかな動きにも反応するよう構えていた。
そのとき――
ラナは足元の、ほとんど見えない薄い踏板に気づかなかった。
次の瞬間、罠が作動する。
壁から無数の矢が放たれた。
「ラナ!」
アンドレイは即座に反応した。
アサシンの姿で前へ飛び出す。軽く、音もなく。
だが――一本の矢がラナを貫いた。
彼女は膝をつき、傷を押さえる。喉からかすれた息が漏れた。
「カイラ……」
「私は……もう……」
アンドレイは彼女を抱きとめた。
だが状況は最悪だった。矢はまだ飛び続け、罠は次々に起動している。時間がない。
「くっ……」
彼は歯を食いしばる。
「この姿では無理だ……助けるには……」
「大丈夫だ」
彼は優しく言った。
「必ず助ける」
だがカイラの治癒魔法では足りない。
「ああ……」
ラナは苦しそうに息を吐いた。
「時間がない……」
アンドレイの表情は決意に固まる。
「お前は生きなければならない」
次の瞬間――
彼の姿がほどけるように消えた。
その場所に現れたのは、別の少女――クリスタ。
癒しの力を持つ魔導師。
同時に、二人を包むように半透明の光の球体が現れた。
柔らかく脈動するそれは、すべての矢と罠を弾き返す。
壁、棘、魔法陣――すべてが見えない障壁に阻まれ、跳ね返されていく。
「ラナ、聞いて」
クリスタは静かに言った。
「大丈夫。もう安全よ」
「カイラ……?」
ラナの声は震えていた。
「これ……あなたなの?」
「そうだ」
彼は優しく答える。
「この姿でしか助けられない。ここでは通常の魔法は通用しない。上位魔法だけが有効だ」
クリスタは手をかざした。
金色の光がラナを包み込む。
そのエネルギーは優しく、しかし確実に傷を塞ぎ、毒と魔力の損傷を浄化していく。
「感じるか?」
彼は彼女の様子を見ながら尋ねた。
ラナの目には、恐怖、感謝、そして驚きが入り混じっていた。
目の前にいるのは別の少女――だが直感が告げている。同じ存在だと。
「助けて……くれた……」
彼女は息を整えながら言った。
「すごい……」
「約束したからな」
アンドレイは答えた。
「俺は約束は守る」
ラナはクリスタを見つめた。
光に包まれたその姿を見て――理解がゆっくりと浮かび上がる。
「カイラ……?」
彼女は小さくつぶやいた。
彼は少し離れた場所に立ち、感情を押し殺しながら彼女を見つめていた。
「……記憶を消すこともできる」
静かに言う。
「その方が……楽になるかもしれない」
ラナは拳を握りしめた。
「いや!」
鋭く言い放つ。
「信じない……あなたが私に害を与えるなんて」
彼女の視線が彼と交わる。
そこには恐怖と感謝、そして――わずかな憧れがあった。
アンドレイは一瞬視線を落とし、かすかに微笑んだ。
彼の中で葛藤が渦巻いていた。
記憶を消すのは簡単だ。
だが――
ラナには、自分という存在をそのまま受け入れてほしかった。
力も、秘密も……そして過ちさえも。




