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第35章 南へ向かう道

第35章 南へ向かう道


英雄の道は南へと続き、エルフの都市へと向かっていた。


アンドレイはアバターを切り替え、エルフの女性――シルヴァナの姿になっていた。

繊細な顔立ち、優雅な動き、そして自然と一体化したような柔らかな所作は、森の民そのものだった。


目的地へ向かう途中、彼は小さな村に立ち寄る。そこでは住民たちが疲れ切った様子で、通りにはかすかな囁きが漂っていた。

シルヴァナは休息のために足を止め、その声に耳を傾けた。


やがて、誰も治せない病に苦しむ女性の噂を耳にする。シルヴァナは慈悲に突き動かされ、助けることを決めた。

彼女は病人の家へ向かい、そっとその女性に触れ、癒しの魔法を囁く。


シルヴァナの力が柔らかな光となって広がり、やがて女性の呼吸は整い、肌には血色が戻り、瞳にも光が宿った。


奇跡を目の当たりにした村人たちは驚きと感謝の入り混じった表情でエルフを見つめる。シルヴァナは微笑み、静かに言った。


「もう大丈夫です」


女性の三人の子ども――五歳から十二歳の幼い兄妹たちは、興奮した様子で彼女を取り囲んだ。


「悪いエルフじゃないよね!」と子どもたちは声をそろえて叫ぶ。


「もちろん違いますよ」

シルヴァナは優しく笑った。

「エルフは悪い存在ではありません」


その言葉を聞いた大人たちは、わずかに苦笑を浮かべる者もいた。


エルフの都市へ向かう道すがら、シルヴァナはふと考える。

「この地には、そんなに“悪いエルフ”がいるのだろうか?」


やがて都市が見えてきたとき、彼女はその壮麗さと森との調和に息をのんだ。


都市は巨大な樹海の中に溶け込むように存在していた。高く優美な塔、緑色に輝く屋根が木々の冠と一体化している。

石造りの壁には装飾と植物が絡み、そこには防衛のための要塞らしさは一切なかった。


水晶のように澄んだ水路が街を流れ、陽光を反射して柔らかな輝きを放つ。

子どもたちは石畳の通りで遊び、住民たちは静かに日常を送っている。


シルヴァナはこの都市に約四千人のエルフが暮らしていることを感じ取った。世界最大級のエルフの居住地だった。


門に近づくと、衛兵が彼女を制止する。


「シルヴァナ……それがお前の名か?」


鋭いが敵意のない声だった。


「はい、そうです」

彼女は落ち着いて答える。


衛兵は少しも迷わず頷いた。


「ついて来い」


彼女は城へと案内された。城は高くはないが、洗練されており、まるで文明の頂点にある建築物のようだった。


滑らかに整えられた石壁、繊細な彫刻、優美なアーチ。すべてが調和していた。


やがて謁見の間へ通される。そこは広く、高い天井には装飾が施され、ステンドグラスから柔らかな光が差し込んでいた。


玉座には“エルフの女王”が座っていた。圧倒的な美貌を持ち、他の誰よりも際立っていた。


彼女はシルヴァナを値踏みするように見つめる。その視線は魂の奥まで見透かすようだった。


やがて口を開く。その声は鋭く、憎しみに近い冷たさを帯びていた。


「お前は誰の血筋だ?」


記憶の中のエルフたちを探るような問いだった。


シルヴァナは動じず答えようとする。


「私はただのエルフです。生まれは——」


しかし言い終わる前に、女王が吐き捨てるように遮った。


「知っている。お前のことはすべて」


冷たい視線が突き刺さる。


「おそらくエルフの血を引いてはいるのだろうが……その血は汚れている。不完全だ」


シルヴァナは黙ったまま耐えた。


「この都市から出て行け。お前のような者は、我が国に不要だ」


彼女は深く息を吸った。怒りが胸にこみ上げるが、抑え込む。


そして一歩踏み出し、静かに言った。


「私はただ、図書館への立ち入りを許可していただきたいだけです。貴方たちの知恵を学びたいのです」


だが女王はさらに険しくなる。


「それを望むだと? 低位のエルフには許されぬ知識だ。今すぐ去れ!」


衛兵が動き出す。


シルヴァナは理解した。交渉はすでに終わっている。


彼女はここで初めて、これまで出会ってきたエルフたちとの違いを強く感じていた。

かつては穏やかで、受け入れのある存在だった。しかしこの都市は違う。


冷たく、排他的で、そして――拒絶そのものだった。

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