第33章
第33章
アンドレイは北へと向かった。
この地は見た目以上に生命力に満ちていた。まばらな森と岩だらけの平原の間に、無数の獣たちが潜んでいる。足跡、草の揺れ、微かな気配――すべてが、この土地に確かに“生”があることを示していた。ただ、それは巧妙に隠されているだけだった。
リリスは影のように静かに移動する。
やがて彼女は目標を見つけた。
北の銀白鹿たちは小さな草地で草を食んでいた。その体毛は薄い霜のように光を受けて淡く輝き、動きは軽く優雅だ。わずかな物音でも即座に消え去るほど警戒心が強い。
アンドレイは手を上げると、周囲に細い魔力の糸が形成され始めた。空気がわずかに震える。
— 静かに……
ほとんど音のない“幽霊の槍”が生まれる。それは鋭さよりも静けさを持つ、霧で編まれたような攻撃だった。
標的を選ぶ。
鋭い動作――槍が放たれる。
一撃。
鹿は何が起きたのか理解する前に崩れ落ちた。他の個体は一斉に森へ逃げたが、リリスはすでに次の槍を放っていた。
もう一撃。
静寂が戻るまでに時間はかからなかった。
アンドレイは近づき、獲物を回収する。目的は肉――貴重で高価な資源だ。
— 早いな……
彼の想定よりも短時間で狩りは終わっていた。
そのままフロストガルドへ戻ろうとしたが、途中で足を止める。
岩陰から人影が現れた。
例の一団だった。
そして、あの男。
男は腕を組み、笑う。
— また会ったな、美女。
仲間たちは半円状に広がり、逃げ道を塞いだ。
— 意外と早く戻ってきたじゃないか。逃げたのか?
リリスは黙ったまま彼らを見た。
風が彼女のマントを揺らす。
— 言っただろう?確かめるってな。
— なら選ばせてくれる? とリリスが静かに言う。
— 一対一か、それとも全員で来るか。
一瞬の沈黙。
男は鼻で笑うが、目は鋭い。
— 約束通りだ。一対一でやる。
仲間の一人が眉をひそめる。
— 本気か?
— 邪魔するな。
戦いは即座に始まった。
男が踏み込む。剣が一直線に振るわれる。
金属音。
リリスは落ち着いて対応する。無駄のない動きで全てを受け流す。
一撃、二撃、三撃。
男は速度を上げるが、突破できない。
リリスは一歩横にずれ、剣を受け流した瞬間――その刃がすでに男の喉元にあった。
静寂。
— 終わりよ、とリリスは静かに言う。
男は一瞬固まる。
だがすぐに後退した。
— まだだ!
再び突撃。
しかしリリスはすでに理解していた。
二つの動き。
受け流し――
手首の返し――
剣が弾かれ、男の武器は宙へ飛んだ。
反応する間もなく、リリスの刃が再び喉元に戻る。
— 終わり?
男は歯を食いしばる。
— おい!支援しろ!バフだ!
仲間の一人が手を上げる。
— 強化!
男はインベントリから二本目の剣を抜き、再び突撃する。
刃が交差し、激しい金属音が響く。
リリスは冷たく微笑んだ。
— 負けを認めないのは、見苦しいわね。
戦いは再開される。
今度は本気だった。
刃が交差するたびに、空気が裂ける。
リリスは隙を見逃さない。
脚への一撃。
男が呻く。
腕への一撃。
血が飛ぶ。
さらに追撃。
男の動きは崩れていく。
呼吸が乱れ、判断が鈍る。
ついに彼は膝をつきかけた。
リリスは剣を振り上げる。
そして――
寸前で止めた。
刃は男の頬すれすれで止まり、浅い傷だけを残す。
— 治療してあげなさい、とリリスは静かに言った。
そして彼女は背を向けた。
何も言わず、街へ戻っていく。
男は崩れ落ちるように座り込み、仲間たちが慌てて駆け寄った。




